2018年5月31日に衆院を通過した働き方改革関連法案は、6月4日に参院本会議で審議入りしました。いよいよ法案成立目前となり、今後企業では改正法への対応に追われることになります。今号では、特に事業主から高い関心を集める「時間外労働の上限規制」について、具体的な対応策をご紹介することにしましょう。
※本内容は、2018年6月13日現在のものです。社内制度の整備の際には、必ず最新情報をご確認ください。
時間外労働の上限規制のキーワードは「単月100時間未満」「複数月平均80時間」「年720時間」
このたびの働き方改革で導入される「時間外労働の上限規制」では、従来“抜け穴”といわれていた特別条項付36協定締結の場合の残業時間数に制限を設けることになります。
出典:厚生労働省「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案の概要」
現状の36協定のルールでは、
・時間外労働の上限は、原則「月45時間、年360時間」
・突発的かつ一時的な特別の事情が予想される場合に限り、一年で6ヵ月を超えない期間内で、前述の原則を超える時間外労働時間を設定することができる(特別条項付36協定の締結)
となっています。
この場合、事業主には過労死ラインを意識するなどの安全配慮義務が課せられます。しかし、法律に具体的な定めがないため、実質上限なく残業時間数を設定することができてしまい、かねてより問題視されていました。
そこで今回、既存の36協定の扱いが見直され、労働基準法には下記の内容が明記される見込みです。
✓ 時間外労働の上限は、原則「月45時間、年 360時間」 ※従来通り
✓ 突発的かつ一時的な特別の事情が予想されるケースに限り、下記の要件を満たす場合、
一年のうち6ヵ月を超えない期間内で時間外労働時間数の特別な設定が可能
・年間の時間外労働は月平均60時間(「年720時間」)以内となること
・休日労働を含み、2ヵ月間、3ヵ月間、4ヵ月間、5ヵ月間、6ヵ月間のいずれかの月平均時間外労働時間が「80時間」を超えないこと
・休日労働を含んで、単月は「100時間」未満となること
上記に違反した場合には労基法違反として罰則の対象となり、実効性が担保されることになります。こうした改正法に対応すべく、実務の現場においては今後、「年720時間」「複数月80時間」「1ヵ月あたり100時間」のキーワードを意識することになるでしょう。
ちなみに、「80時間」「100時間」は、「過労死ライン」といわれる健康障害のリスクが高まるとする時間外労働時間数に由来しています。
参考:厚生労働省『脳・心臓疾患の労災認定 -「過労死」と労災保険』
中小企業における時間外労働の上限規制適用は、2020年4月1日からの見込み
働き方改革が今国会にて成立すれば、今回ご紹介した時間外労働の上限規制は、大企業で2019年4月1日から、中小企業で2020年4月1日より施行されることになります。
ちなみに、大企業か中小企業かの判定は、下記にて確認することができます。各業種の(1)または(2)に当てはまる場合は中小企業に該当し、いずれにも当てはまらない場合には大企業に該当します。
出典:福岡労働局「適用される割増賃金率判断のための、中小企業該当の有無についての確認」
月60時間を超える時間外労働に係る割増賃金率「50%」にも注意
時間外労働関連で、中小企業がおさえておくべきポイントとして挙げられるのが、「月60時間を超える時間外労働に係る割増賃金率(50%以上)」でしょう。大企業ではすでに2010年より適用されていますが、2023年4月1日からはこれまで猶予されていた中小企業も例外なく対象とされます。
時間外労働の上限規制と共に、月60時間超の割増賃金率増への対応を考える上では、企業において「そもそも残業が生じない体制」の整備を検討する必要があります。これまでの長時間労働が当たり前だった職場において社員の働き方を変えるためには、現場の意識改革から始まり業務フローの見直し、場合によっては受注の仕方の変更など、長期的なスパンでの取り組みが求められます。「働き方改革なんてまだ先のこと」と考えず、今から対策を進めるべきです。
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