【労働保険年度更新】労働保険の対象労働者が0人になっても、保険関係が当然に消滅するわけではありません

事業を廃止した、従業員を雇用しなくなった等で労働保険の対象者がいなくなった場合、所定期間内での手続きが不可欠です。具体的には、雇用保険の適用事業所廃止、そして労働保険料の清算に関わる手続きを行う必要があります。労働保険料の清算手続きは年度更新時にも行うことができますので、2022年度中に労働保険の対象者が0人となった場合で現状手続きを行っていない場合には、2023年度の年度更新で廃止申告を行うことになります。

労働者が0人になっても保険関係は当然消滅しない旨の高裁判決

手続きの話からは脱線しますが、労働者0人の場合の保険関係の取扱いに関して、2023年5月17日の東京高裁判決において興味深い判決が出ましたのでご紹介しておきます。本件は、東京都内の運輸会社が労働保険料の決定処分を不服とした裁判で、同社は2011年に労働者2人を雇用する適用事業となった後、2013年~2019年度に年度更新手続きをせず、この間の労働保険料について労働保険徴収官が職権により認定決定していました。この決定について、運輸会社側は労働者が0人になった2017年~2019年度の労働保険料について納付義務がないものとして訴えを起こしていました。これに対し、東京高裁は、労働保険徴収法は年度更新時の申告により保険関係消滅を把握する仕組みを採用しており、労働者が0人になっても保険関係は当然消滅しないとして主張を退けているとのことです。

出典:労働新聞「労働保険関係 労働者0人で当然消滅せず 運輸会社の請求却下 東京高裁 2023.06.15 【労働新聞 ニュース】

事業(労働者の雇用)を終了した際の労働保険手続き

事業を廃止する場合や雇用する労働者が0人になった場合、もしくはこれまで自社で行っていた労働保険関係事務の一切を事務組合に委託することとなった場合に必要な労働保険関連手続きは、以下の通りです。

廃止日の翌日から10日以内に、雇用保険適用事業所廃止届

事業所を雇用保険の適用から外す手続きとして、「雇用保険適用事業所廃止届」が必要です。事業所を管轄するハローワーク宛に、事業を廃止した日、または雇用保険被保険者が一人もいなくなった日の翌日から10日以内に行います。
併せて、雇用保険被保険者については資格喪失届と離職証明書を作成・提出する必要があります。

参考:徳島労働局「雇用保険適用事業所についての諸手続き

廃止日の翌日から50日以内、もしくは年度更新時に、労働保険確定保険料申告書

また、労働保険廃止日の申告と労働保険料の清算のための手続きとして、「労働保険確定保険料申告書」の提出が必要です。こちらは所轄労働基準監督署宛に、事業を廃止した日、または雇用する労働者が0人になった日の翌日から50日以内に行います。確定保険料算出の結果、還付額が生じる場合には「労働保険料還付請求書」も併せて提出します。
すでに前年度末までに事業廃止等に至っている場合で、年度更新までに労働保険料清算手続きを行っていない場合、年度更新手続き時に廃止申告と保険料清算を行うことができます。手続きの流れや申告書の記入例は、以下にてご確認いただけます。

参考:厚生労働省「令和5年度事業主の皆様へ(継続事業用)労働保険年度更新申告書の書き方(29ページ)記入例 6 事業を廃止した場合(対象となる労働者がいなくなった場合も含む)
関連記事:『【労働保険年度更新2020】事業廃止の場合、「廃止日が4月1日より前か、後か」で手続きに違いがあります

労働者0人でも、労働保険関係を継続できます

ちなみに、労働者が0人になった場合でも雇用の可能性がある場合、前述の手続きを行うのではなく、当面の間はそのまま保険関係を維持することも可能です。というのも、労働保険関係は一度消滅させてしまうと、今後労働者を雇用した際に改めて適用手続きが必要となってしまうため、一時的に労働者がいなくなっても今後雇用の予定がある場合には保険関係を継続させておく方がスムーズな場合もあるのです。この場合、「雇用する労働者が0人になった日の翌日から50日以内」での手続きはせず、次の年度更新でひとまず概算保険料を立てて保険関係を継続させる手続きを行います。また、年度末までに労働者を雇用する見込みがあれば、雇用保険適用事業所廃止届の提出も不要です。

参考:厚生労働省「令和5年度事業主の皆様へ(継続事業用)労働保険年度更新申告書の書き方(28ページ)記入例 5  現在、労働者を雇っていないが、今後労働者を雇用する見込があり引き続き労働保険を継続する場合

事業廃止、労働者0人の場合の労働保険関係手続きを適正に行いましょう

事業を廃止することになった場合や労働者が0人となった場合でも、労働保険関係は当然に消滅するものではなく、所定の手続きが必要になります。本稿を参考に、適切な事務処理を行ってまいりましょう。もちろん、新たな雇用見込がある場合は廃止手続きは不要ですが、年度更新時に概算保険料を立てて保険関係を継続させる手続きを行わなければなりません。事業廃止、労働者0人の場合の労働保険関係手続きについて、自社での対応が困難な場合は、社会保険労務士までご相談ください。

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