「育児休業中に仕事をさせる(する)ことができるかどうか」は、しばしば労使間で議論になるポイントです。結論から言えば、育児休業中は原則就業することはできません。しかしながら、2022年10月1日より始まった「出生時育児休業」では一定の範囲内で働くことが認められています。また、あまり知られていませんが、通常の育児休業でも「労使の話し合いにより、子の養育をする必要がない期間に限り、一時的・臨時的にその事業主の下で就労できる」とされています。今号では「育児休業中に認められる就労・就業」について復習しましょう。
目次
まずは確認!育児休業の全体像を
育休中の労務提供については、「出生時育児休業」と原則的な「育児休業」それぞれの期間で取扱いが異なります。まずは育児休業の全体像から、両者を区別しましょう。
出生時育児休業(産後パパ育休)
子の出生後8週間以内に4週間まで取得することができる、従来の制度よりも柔軟な育児休業の枠組みです。「休業の申出期限を原則休業の2週間前までとする(現行の育児休業では1ヶ月前)」「8週までに2分割して取得できる」「労使協定を締結した上で労使の個別合意により、休業中に就業することを可能とする」等の点で、主に男性労働者が子の誕生直後に取得しやすい育休となっています。
育児休業
原則1歳未満(1歳になる時点で保育所などに入所できない等、雇用の継続のために特に必要と認められる場合に限り1歳6ヶ月まで、さらに再延長で2歳まで)の子を養育するための休業で、育児・介護休業法という法律に定められています。育児休業の申出をすることにより、一定期間、労働者の労務提供義務を消滅させる意思表示となります。2022年10月の改正により、上図の通り、1歳までの育児休業分割取得が柔軟に認められるようになりました。
育児休業中に認められる「一時的・臨時的な就労」とは?
まずは通常の育児休業中に認められる就労について考えてみましょう。前述の通り、育児休業中は原則として、労働者の労務提供義務は消滅します。ただし、労使の話し合いにより、子の養育をする必要がない期間に限り、一時的・臨時的にその事業主の下で就労することが認められます。
育休中の「一時的・臨時的な就労」 具体事例
育休中の「一時的・臨時的な就労」の例については、厚生労働省がリーフレットで紹介しています。
○ 育児休業開始当初は、労働者Aは育児休業期間中に出勤することを予定していなかったが、自社製品の需要が予期せず増大し、一定の習熟が必要な作業の業務量が急激に増加したため、スキル習得のための数日間の研修を行う講師業務を事業主が依頼し、Aが合意した場合
○ 労働者Bの育児休業期間中に、限られた少数の社員にしか情報が共有されていない機密性の高い事項に関わるトラブルが発生したため、当該事項の詳細や経緯を知っているBに、一時的なトラブル対応を事業主が依頼し、Bが合意した場合
○ 労働者Cの育児休業期間中に、トラブルにより会社の基幹システムが停止し、早急に復旧させる必要があるため、経験豊富なシステムエンジニアであるCに対して、修復作業を事業主が依頼し、Cが合意した場合
○ 災害が発生したため、災害の初動対応に経験豊富な労働者Dに、臨時的な災害の初動対応業務を事業主が依頼し、Dが合意した場合
○ 労働者Eは育児休業の開始当初は全日を休業していたが、一定期間の療養が必要な感染症がまん延したことにより生じた従業員の大幅な欠員状態が短期的に発生し、一時的にEが得意とする業務を遂行できる者がいなくなったため、テレワークによる一時的な就労を事業主が依頼し、Eが合意した場合
出典:厚生労働省「育児休業中の就労について」
「恒常的・定期的な就労」「会社からの一方的な指示による就労」は認められません
育休中の就労について重要なポイントは、上記の太字部分です。「臨時的」「一時的」「短期的」をキーワードに、イレギュラーな業務対応の必要が生じた際にのみ可能となります。よって、育児休業の開始時点から予定しているような恒常的・定期的な就労は認められないので注意しなければなりません。
また、赤字で示した通り、必ず「事業主が依頼し、労働者が合意する」という流れが必要です。育休取得中の労働者に対し、会社が業務命令として一方的に勤務を指示することはできません。
出生時育児休業中に認められる就業の範囲
通常の育児休業で認められる就労は原則として一時的・臨時的である必要がありますが、一方で、2022年10月新設の「出生時育児休業」は育児休業中の就業を認める制度です。この場合、労働者の意に反したものとならないことを担保した上で、労働者の意向を踏まえ、労働者と事業主が事前に調整した上での休業中の部分的な就業が可能となります。
出生時育児休業中の就業が認められるためには、労使協定の締結が必要です
出生時育児休業中の就業については、休業開始前までに労使協定(事業所の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、事業所の労働者の過半数で組織する労働組合がないときはその労働者の過半数を代表する者との書面による協定)を締結する必要があります。
また、労使協定後の具体的な手続きの流れは以下①~④のとおりです。
①労働者が就業してもよい場合は事業主にその条件を申出 ※休業開始予定日前日まで変更・撤回可能
②事業主は、労働者が申し出た条件の範囲内で候補日・時間を提示(候補日等がない場合はその旨提示)
③労働者の同意
④事業主の通知
「③労働者の同意」は、休業開始予定日以後も特別の事情があれば撤回が可能です。
出生時育児休業中の就業には上限があります
出生時育児休業中は就業が認められるとはいえ、労働者は無制限に働けるわけではありません。就業可能日等には上限があります。
・ 休業期間中の所定労働日・所定労働時間の半分
・ 休業開始・終了予定日を就業日とする場合は当該日の所定労働時間数未満
関連記事:「2022年10月より始まる「出生時育児休業」|休業中の就業に関わる具体的なルールを解説」
育休中の就労・就業は、育児休業給付金の支給調整にご注意を
育休中に働いて賃金を得ることで、育児休業給付金の支給が調整されることがあります。
具体的に、出生時育児休業では、給付金支給対象期間中、最大10日(10日を超える場合は80時間)まで就業することが可能です。ただし、休業期間が28日間より短い場合は、その日数に比例して短くなります。
また、通常の育児休業でも、支給単位期間中の就労は10日かつ80時間まででなければ、育児休業給付金は支給されません。
加えて、賃金額に応じた給付金の支給調整もあります。
参考:厚生労働省「育児休業期間中に就業した場合の育児休業給付金の支給について」
さらに、社会保険料免除との兼ね合いにも配慮する必要があります。
参考:厚生労働省「育児休業等期間中の 社会保険料免除要件が見直されます。」
関連記事:「2022年10月以降、複雑になった「育休取得時の社会保険料免除ルール」を再確認」
中小企業においては、「人手不足」が労働者の育休取得の障壁になっているケースも少なくありません。今号で解説した育休中の就労・就業ルールを正しく理解し、いざという時には育休中の労働者に対しても適切に業務依頼を行えることを心に留めておくと安心かと思います。