弊事務所へ寄せられるご相談の中には、「勤務先には就業規則がないので不安」「就業規則がないのは違法ではないのか?」といった労働者の皆さまからのお声が比較的多くあります。お勤め先が従業員数10人未満の小さな会社の場合、結論から言えば就業規則作成・届出の義務はないのですが、働く人の中には就業に関するルールがないことを不安に思われる方も少なくありません。「従業員が安心して働けるように」という観点からはもちろんのこと、企業のリスク管理の観点からも、会社規模が大きくなる前の段階で、職場のきまりを定めておくことが肝心です。
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就業規則作成・届出義務の要件「従業員10人以上」はどう判断する?
労働基準法の定めでは、就業規則の作成・届出義務は「常時10人以上の労働者を使用する使用者」に対して課せられています。ちなみに、この労働者数は「事業場単位」でカウントされます。つまり、常時使用する従業員数がそれぞれ本社5人、B支店4人、C支店8人の場合、企業全体では従業員数17人となりますが、事業場単位ではいずれも10人未満となるため就業規則を作成・届出しなくても良いことになります。一方で、従業員の大半がパート・アルバイト等の非正規雇用であっても、一つの事業場で常時10人以上使用する場合には就業規則の作成・届出が必要になります。
従業員10人未満の小さな会社でも、就業規則を作成・周知すれば法的に有効となります
就業規則作成・届出義務が生じない小さな会社であっても、就業規則を作成することができます。就業規則の絶対的必要記載事項と相対的必要記載事項について法に則った定めを盛り込み、労働者代表に意見を聴き、従業員に周知することで、労働基準法上「就業規則に準ずるもの」となり、法的にも有効なものとして扱われます。この場合、労働基準監督署に就業規則を届け出る必要はありませんが、もちろん届け出ても受け付けてもらえます。
ところで、就業規則を一から作成するのはなかなか大変なことです。そこで、厚生労働省が公開するモデル就業規則を参考に、職場のルールを考えていくと比較的スムーズに進みます。
参考:厚生労働省「モデル就業規則について」
小さな会社にも「職場のルール」が必要な理由
従業員数の少ない小さな会社では、就業規則を定めることで、「会社がルールに縛られることになるのでは」という懸念もあるようです。しかしながら、そもそも会社は、就業規則を作成していなくても労働関係法令を遵守しなければなりません。法令遵守が求められるのであれば、その内容を就業規則等にきちんと明記し、労使間で共通認識を持っておくことには一定の意義があるのではないでしょうか。さらに、就業規則の作成には、労働条件や服務規律を明確に示すことができる、実際に懲戒を行う際の根拠となる等、会社の秩序維持に効果を発揮してくれるというメリットが期待できます。もちろん、「ウチの会社には就業規則がない」といった労働者側の不安を払拭し、安心して働いてもらえるようになることで、エンゲージメントの向上にもつながるでしょう。
従業員数が少ない間に会社のルールを整備することは、従業員数が多くなった場合の労務管理のしやすさにもつながります。「就業規則は会社規模が大きくなってから」というお声もありますが、会社のリスク管理上、従業員数が少ない段階から法令遵守を徹底しておくのが得策です。仮に現状、誤った労務管理が行われていたとして、後々になって軌道修正を図るのは容易なことではないからです。
就業規則の必要性を感じたら、社労士にご相談ください
徐々に従業員が増えていくと、「職場規律をどう正すか?」「労使トラブルの火種を作らないためには?」といった労務管理上の懸念事項が生じてくるもの。そんな時こそ、職場のルール作りに目を向けるタイミングです。就業規則の新規作成は、社会保険労務士にお気軽にご相談ください。労働関係法令を基準としながらも、各現場に則した内容をご提案いたします。