タイムカードによる「労働時間管理」が失敗する原因とは?3つのポイントで解決

大手広告代理店が過重労働やパワハラで若手社員を自殺に追い込んだ事件が発覚して以来、労働局や労働基準監督署は違法な長時間残業を厳しく取り締まる姿勢を見せ、また、労働時間の管理を徹底するよう呼びかけている。そこで、客観的に労働時間を管理・把握するため、タイムカードを導入する企業が増えている。昨今は、紙のタイムカードではなく、クラウド上で機能する電子的なタイムカードの導入がほとんどだ。

しかしながら、どんなに高性能なタイムカードであっても、タイムカードを導入したからといって、自動的に労働時間管理ができるようになるとは考えてはならない。失敗する原因を明確にし、3つの切り口で解決方法もお伝えしよう。

タイムカードを打刻するルールの整備が重要

タイムカードで正しく労働時間を管理するためには、タイムカードを導入すると同時に、タイムカードを打刻するルールを整備することが同じくらい重要なのだ。その理由は「労働時間」という概念自体を把握することの複雑さにある。

「労働時間」は、法的には「使用者の指揮命令下に置かれている時間」のことを言うのだが、もう少し具体的に言えば、「業務開始時刻」から「業務終了時刻」までを指す(休憩時間は除く)。

単に職場に入場した時間である「出勤時刻」と法的な「業務開始時刻」が混同し、同様に、単に職場から退出した時間である「退勤時刻」と法的な「業務終了時刻」は異なる概念である。

たとえば、18時ちょうどに業務が終了したが、同僚とタバコを一服しながら雑談して、職場から出る際にタイムカードを打刻したら18時20分になっていたという場合、業務終了時刻は18時だが、退勤時刻は18時20分ということになる。このような話であるから、成り行きのタイムカードの打刻では正しい労働時間の姿をとらえることができない。

また、このような事態が生じた際に会社が注意しなければならないのは、タイムカード以外に時間管理している方法がない場合、労働準監督署が臨検を行ったり、社員がサービス残業訴訟を起こしたりした場合、単なる出退勤の記録でしかないはずのタイムカードが労働時間と推定されてしまうということである。

タイムカードを導入したばかりに、タバコを吸って雑談していたような時間にまで残業代を支払わざるを得なくなってしまうというリスクが会社に生じてしまうのだ。

しかし、このようなリスクがあるからといってタイムカードの導入を取りやめたら、正しく労働時間を管理していきたいという初心が貫徹されず、本末転倒である。そこで、上記のようなリスクが生じないよう、タイムカードを導入する際に、どのようなルールを導入すれば良いか、3つほど考え方を紹介したい。

1、各自のスマートフォンやパソコンからリアルタイムで打刻をする

第1は、職場の出入口にタイムカードリーダーなどの打刻機器を置くのではなく、社員各人のスマートフォンやパソコンのインターフェースから打刻することにする方法である。

出勤した時間に打刻をするではなく、コーヒーを飲んだり、新聞を読んだりといった「朝の儀式」が終わった後、「業務を開始」する瞬間に手元のスマートフォンやパソコンで打刻をするという形である。同様に業務終了時も、「タバコで一服」や「トイレで化粧直し」など「帰りの儀式」を始める前、すなわち業務が終了したその瞬間に手元のスマートフォンやパソコンで打刻をするのである。こうすれば、タイムカードの打刻時刻が業務開始時刻、業務終了時刻と限りなく一致する。

2、タイムカードと時間外労働の命令書・許可書を併用する

第2は、タイムカードと時間外労働の命令書や許可書を併用するという方法である。

タイムカードに打刻された時刻は、あくまでも職場への入場時刻、退場時刻の記録として利用すると割り切り、時間外労働の命令書や許可書が無い限り、時間外労働は無かったものとして扱うことにする。

ただし、この運用を労働基準監督署や裁判所に認めさせるには、常日頃から、時間外労働は会社からの命令、または本人からの申請により会社が許可した場合しか行わせない、という社内ルールを徹底しておかなければならない。ルールが徹底しているからこそ、監督官や裁判官の信頼が得られるのである。

そして、時間外労働の命令または許可が無いにも関わらず、定時から15分以上退勤の打刻がずれている場合は、「社内の文化サークルへ参加」「本人が上長の退勤命令無視」など、タイムカードの備考欄に15分以上ズレた理由を書き込んでおくのである。ここまでしていれば、労働時間管理としてはほぼ完璧だ。

「15分以上」というのは実務上の理由による。業務終了時刻とタイムカードの打刻のズレが概ね15分以内であれば、特段の事情がなければ労働基準監督署や裁判所も、所定就業時刻に業務が終了していると認定してくれる傾向が強い。

3、タイムカードの打刻時刻を労働時間とみなす

第3は、タイムカードの打刻時刻を出勤・退勤時刻であったとしても、そのまま業務開始・業務終了時刻とみなしてしまう方法である。こうしておけば、残業代の払い漏れや労働時間のカウント漏れは基本的には生じない。

なお、業務開始時刻に関しては、業務終了後の残業ほど厳しいことは言われないので、業務開始時刻は別段の事情が無ければ定時に業務開始とし、業務終了時刻のみ、退勤時刻とみなすという形でも実務上は大きなリスクは無いであろう。

ただ、この方法を使った場合に会社として腑に落ちないのは、業務終了後にタバコを吸って雑談をしていた時間まで残業代の対象になってしまうのではないか、ということであろう。

この点、ひとつの考え方としては、「固定残業代」の導入が検討に値する。

タイムカードを導入しても、厳密に管理できない業務終了後のこまごまとした時間を固定残業代で吸収することで、会社としては残業代の払い漏れリスクを回避することができるし、タバコを吸って雑談をしている時間も、基本的には固定残業代でカバーされる。

また、「あの人は残業代稼ぎのために業務終了後もダラダラしていて、真面目な人がバカを見ている」というような社員間の不公平やモラルハザードを回避することもできる。

まとめ_タイムカード(勤怠管理)を正しく運用するために

以上のように3つの方法を紹介したが、どの方法が自社に合うかは、会社の置かれている状況や社風によっても変わってくるので、個別に判断してほしい。あるいは、ここで紹介した3つ以外の、別の方法が合っているという会社もあるかもしれない。

いずれにしても、本稿で私がお伝えいしたかったのは、「タイムカードを導入すればすべてが解決する」と、決して安易に考えてはならず、タイムカードをどのように運用するかというルール作りも同じくらい重要であるということを肝に銘じておいてほしいということである。

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