解説!一人法人の社会保険加入|「役員報酬ゼロ」の加入義務は?「副業で法人設立」は本業先にばれる?

働き方改革を追い風に、高まる副業・兼業への関心。とりわけ、コロナ禍においては、テレワークに伴う通勤時間削減の影響や本業に対する不安感等から、ダブルワークに目を向ける方は増加傾向にあるようです。このような背景において、最近、弊所にお寄せいただくお問い合わせで増えているのが、「一人法人設立に伴う社会保険加入」に関するもの。今号では、よくあるご相談を2つほどピックアップしてご紹介しましょう。

一人法人でも原則として社会保険加入義務あり!ただし、被保険者資格を取得できないケースも

厚生年金保険・健康保険の加入は、以下の事業所について義務となっています。よって、一人で法人設立した場合でも、「新規適用届(事業所自体を社会保険適用事業所とするための手続き)」を提出する必要があります。

(1) 法人事業所で常時従業員(事業主のみの場合を含む)を使用するもの
(2) 常時5人以上の従業員が働いている事務所、工場、商店等の個人事業所

事業主が法人から役員報酬を受け取る場合、事業所の新規適用届と併せて被保険者資格取得届を提出し、事業主ご自身が社会保険に加入しなければなりません。

「役員報酬ゼロ」の場合の取扱い

ただし、創業当初等で役員報酬をゼロに設定する場合、そもそも報酬から厚生年金保険料や健康保険料を徴収できないため、社会保険は非加入の扱いとなります。また、役員報酬を受け取っていても非常に低額で、保険料額表にある第1等級の保険料を徴収できないようなケースも同様です。

ただし、被保険者資格取得後の経営状況に応じて役員報酬が著しく低額となる場合、必ずしも直ちに資格喪失とされるわけではありません。日本年金機構が公開する疑義照会回答(厚生年金保険適用)には、以下の通り明記されています。

役員については、ご照会の事例のように経営状況に応じて、給料を下げる例は多く、このような場合は今後支払われる見込みがあり、一時的であると考えられるため、低報酬金額をもって資格喪失させることは妥当でない

被保険者資格の継続や喪失については、実態等から総合的に判断されるべきとしています。また、役員報酬について「社会保険へ加入が必要な最低額」等の設定はされていません。

副業で社会保険加入した事実は、本業先にも把握されます

一人法人を立ち上げる方の中には、「本業として勤務している会社があり、既にそこで社会保険加入をしている」というケースも少なくありません。「副業について、本業先に把握されたくない」とお考えの方も多いようですが、結論から申しますと、法人設立によって社会保険加入をすると、本業先にもその情報が共有されます。

社会保険では、社会保険の加入要件を満たす形で2つ以上の事業所から報酬を受け取ることになると、被保険者本人が「健康保険・厚生年金保険 所属選択・二以上事業所勤務届」の手続きをしなければなりません。この届出があると、年金事務所は、各会社の報酬額に応じた按分計算を行い、それぞれの給与から天引きする社会保険料を算定後、各事業所に通知します。この時点で、本業先は、従業員が別の会社でも社会保険被保険者資格を取得したことを把握するというわけです。

参考:日本年金機構「複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き

副業を開始する前にあらかじめ確認を

「それなら、いっそのこと二以上事業所勤務届を提出しなければ良いのでは?」と思われるかもしれませんが、社会保険の不正な二重加入状態は、後々どこかのタイミングで必ず判明するものです。修正処理の過程では、ご本人に大きな負担がかかるだけではなく、本業先にも迷惑がかかる可能性があるため注意が必要です。副業と本業との兼ね合いに関しては個々に様々な事情があるかと思いますが、本業先に対してはそもそも副業(起業)が可能かどうか、副業を開始する際に必要な社内手続き、そして副業で社会保険に加入する必要がある旨等、あらかじめ確認しておけるのが安心です。

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