人事担当者がおさえておくべき、DV被害者に対する健康保険・雇用保険上の取扱い

パートナーからの暴力、いわゆるドメスティックバイオレンス(DV)は、近年、社会的に特に問題視されるテーマのひとつとされています。内閣府が2017年に実施した調査によると、女性のおよそ3人に1人、男性では約5人に1人が配偶者から何らかの被害を受けていることが判明しており、コロナ禍で状況はさらに悪化しているというデータもあります。こうした実情を受け、健康保険ではDV被害者の被扶養者脱退、雇用保険ではDV被害に関連する転居に伴う退職について、被害者に寄り添った対応が講じられることになっています。各制度の概要を確認しましょう。

DV被害者による被扶養者脱退手続きは直接保険者へ

DV被害者が健康保険上の被扶養者から外れる手続きをする場合、通常であれば被保険者(この場合は加害者)からの届出により行うこととされていますが、扶養者・被扶養者間のDVという性質上、円滑な手続きが困難となることがほとんどです。この場合、DV被害に関わる申立書や証明等を添付することにより、被扶養者が保険者に直接申し出を行うことができます

なぜ、健康保険被扶養者脱退手続きが必要なのか?

健康保険の保険者は、年に一度、被保険者宛に「医療費のお知らせ」を交付しています。このお知らせは、誰がいつ、どこの病院で診療を受けたかを各人に通知するものです。DV被害者のうち、健康保険上、DV加害者である被保険者の被扶養者となっている方は少なくありませんが、被害者が加害者から逃げるように別居したとしても、「医療費のお知らせ」から被害者の生活エリアを特定できてしまう可能性があります。このようなリスクに鑑み、DVを理由に別居した被扶養者は、健康保険被扶養者脱退手続きを行うことが必要なのです。

DV被害者の申し出による被扶養者脱退手続き

配偶者からの暴力被害を受けている旨の証明書を添付し、保険者宛に被扶養者から外れる旨の届出を行います。このとき、同伴者(お子さん等)についても同様の証明がなされていれば、同伴者についても被扶養者から外れることが可能です。添付すべき証明書とは、婦人相談所による所定フォーマットの他、児童相談所や配偶者暴力相談支援センター等が発行する証明書、裁判所が発行する保護命令に基づく書類も認められます。
被扶養者から保険者に対し申し出がなされた場合、保険者は被保険者に対して被扶養者脱退の旨を事業所に届け出るよう指導し、それでもなお届け出がない場合は保険者が被害者を被扶養者から外す手続きを行うこととされています。

参考:厚生労働省「配偶者から暴力を受けた被扶養者の取扱い等について

DV被害による転居を理由とした離職は「特定理由離職者」扱いに

雇用保険では、2023年4月1日以降、特定理由離職者の範囲に「配偶者から身体に対する暴力またはこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動を受け、加害配偶者との同居を避けるため住所又は居所を移転したことにより離職した人」が追加されました。

「特定理由離職者」とは?通常と異なる取扱いを解説

特定理由離職者とは、「正当な理由のある自己都合退職者」を指します。妊娠、出産、育児等により離職して受給期間延長措置を受けた方や、結婚等の理由で通勤不可能又は困難となったことにより離職した方等が該当しますが、前述の通り、2023年4月1日以降はDV被害を理由とする転居により離職することとなった方も含まれることになりました。
DV被害者が特定理由離職者になることにより、失業等給付の受給制限が撤廃されます。失業等給付を受給する際、通常であれば離職票をハローワークに提出してから7日間の待機期間後、2ヶ月もしくは3ヶ月の給付制限期間が設けられています。この点、特定理由離職者に対しては、給付制限期間がなく、待機の7日間経過後に給付を受けることができます。

DV被害者が特定理由離職者となるための手続き

本制度の適用を受けるためには、裁判所が発行する配偶者暴力防止法第10条に基づく保護命令に係る書類の写し、又は婦人相談所等が発行する配偶者からの暴力の被害者の保護に関する証明書が発行されていることが条件となります。併せて、住所または居所を移転したことの確認は、住民票(住民票記載事項証明書)や運転免許証、マイナンバーカード、その他(転居前、転居後の住所と転居した日がわかる書類)の書類を添付します。被保険者からの申し出と添付書類の提出を受けたら、会社は離職票交付手続きの際に離職理由を具体的に記入する等、適正な対応に努めましょう。

参考:東京労働局「配偶者から暴力を受け、加害配偶者との同居を避けるため転居したことにより離職された方の取扱いについてお知らせします。

今号でご紹介したDV被害者に対する健康保険上及び雇用保険上の取扱いは、まだまだ完全に周知されているとは言い難い現状にあります。DV被害は非常にデリケートな問題であることに加え、会社が従業員各人のプライベートについて過度に詮索することは控えるべきではありますが、必要な情報が必要な人に届くよう、もしもの時には正しくアナウンスできるようにしておきましょ

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