紙に押印するだけの出勤簿が「ブラック」のみならず「リスク」である理由|タイムカードない印鑑のみの出勤簿は危険

昨今、残業代未払いのリスクが高まっていることは、多くの経営者・人事担当者が認識をしていることです。筆者の日常業務においても、クラウド勤怠管理システムの導入支援や、賃金規程や給与計算ソフトの設定に誤りが無いかのチェックなど、正しい勤怠管理・正しい給与計算の実現を支援する機会が増えているという印象です。

そのような関心が高まっている中、とある質問をいただきました。

「出勤日に押印をするだけの大昔の出勤簿に戻してしまえばいいのでは?」

”残業代未払いの証拠となるタイムカードをそもそも残さない方が良いのでは”という考えであることが伺えます。本記事では、実際にいただいたこの質問とその危険性・リスクについて解説いたします。

「押印タイプの出勤簿なら、残業代未払いを回避できる!?」という大きな勘違い

ある日、「出勤日に押印をするだけの大昔の出勤簿に戻してしまえば、逆に何の証拠も残らないので、万一未払い残業で訴えられても、会社を守ることができるのではないですか?」という質問を受けたことがあります。
これに対しては、多くの方が直感的に「ブラックな発想だな」と感じると思います。

これはもちろん法的にもブラックです。
そしてもしブラックでなかったとしても、押印だけの出勤簿に戻すことが決して会社を守ることにはならないというのが筆者の考えなのです。

次項で詳しくみていきましょう。

出勤簿に押印をするだけの勤怠管理が「ブラック」な理由

まず、法的にブラックな理由から説明します。

労働基準法定められた法定三帳簿として、会社には労働者名簿、賃金台帳、出勤簿の作成が義務付けられています。このうち賃金台帳には、労働時間数、残業時間数、深夜労働時間数、休日労働時間数など、給与計算の根拠となった時間数を記載することが定められています。
これら時間数を正しく記載し残業代を正しく支払うためには、日々の労働時間数を正しく集計して積み上げていかなければなりません。
それゆえ、出勤簿においては、押印による出社の事実の証明だけでは足りず、具体的な出退勤時間の記録が必要不可欠であるとされているのです。

加えて2019年4月1日からは、働き方改革法による法改正の一環で、労働者の健康管理のために「労働安全衛生法で客観的な手法による労働時間の把握義務」が企業には課されることとなりました。
ですから、押印だけの出勤簿では、労働安全衛生法にも違反してしまうことになります。

ここまでが、法違反になるという話ですが、問題は罰則の軽さです。
法定三帳簿の作成義務違反は30万円の罰金にとどまり、労働安全衛生法における労働時間に把握義務違反に対しては、なんと罰則は何もありません。

となると、たった30万円の罰金を払うリスクがあるくらいなら、押印だけの出勤簿しか作らずにおいて残業代を闇に葬ってしまおう、と考える事業主が出てきても不思議ではありません。

紙に押印をするだけの出勤簿は会社にとって逆にリスク

しかし、筆者は社労士としての職業倫理上見過ごせません。

単純に損得で考えたとしても、労働時間を管理しないことは逆に会社にとって非常に大きなリスクになると考えています。
その理由は、紙に押印しただけの出勤簿しか無いからといって、裁判で未払い残業代が認定されないということは決してないからです。

労働者の手帳のメモなどから残業の事実が認定されることもありますし、近年は、弁護士が開発したGPSで会社にいたことを証明するスマホアプリも登場しています。

また、パソコンのメール送信記録やログイン・ログアウトの記録が残業の間接的な証拠として採用されることもあります。
弁護士が介入すると、裁判所に申し立てて「証拠保全手続」を行い、PCのログ、ICカードによる入退室記録、防犯カメラの映像など、残業の痕跡となる証拠を差し押さえていくこともあります。
ですから、出勤簿に労働時間を記録ないだけで、残業の痕跡を消し去ることなど到底できないということです。

さらに、スタジオツインク事件(東京地判平23・10・25)において、裁判所は以下のような見解を示しています。

「本来、労働時間を管理すべき使用者側が適切に積極否認ないし間接反証を行うことが期待されているという側面もあるのであって、合理的な理由がないにもかかわらず、使用者が、本来、容易に提出できるはずの労働時間管理に関する資料を提出しない場合には、公平の観点に照らし、合理的な推計方法により労働時間を算定することが許される場合もある」

すなわち、残業時間がどれくらいあったか労働者が立証できなかった場合、労働者を敗訴させるのではないということです。その場合は使用者側に労働時間の解明に協力を求めます。もしそれができなければ、裁判所が残業時間がどれくらいあったかを推定した上で、未払い残業代の支払を命じるということです。

使用者が労働時間を管理していなかったせいで、休憩や仮眠をしていた時間なども含め、会社にいた時間全てが残業時間として包括的に認定されてしまう可能性さえあるのです。こうなってはむしろマイナスです。

まとめ_勤怠管理をクラウドでするべき理由

ここまでの話を踏まえると、紙に押印するだけの出勤簿で未払い残業代の支払を逃れることは決してできないということを実感できるでしょう。むしろ、逆に会社が残業時間を管理していないことを逆手に取り、労働者側から実態以上の残業代の請求を受けるリスクさえもあります。

ですから、結局のところはクラウド勤怠システムなどを導入し、しっかりと始業・就業時刻の管理や残業時間数の集計を行うのが賢いやり方です。勤怠システムを参照しながら正しい残業代を毎月支払っていくことが、会社にとっていちばんのリスク対策になるのではないでしょうか。

【関連記事】タイムカード・アプリ比較|保管期間等の基本情報から機械の選定ポイントまで

【動画で確認】紙に押印するだけの出勤簿がブラックのみならずリスクである理由

https://youtu.be/etJUQln5r1g

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