新型コロナウイルスの影響で、テレワークを実施する企業が一気に増えました。テレワークを機に、自宅での柔軟な働き方を可能とするため、フレックスタイム制を導入したいという相談が筆者の事務所でも増えています。
本稿では、そのような相談の中から、よく出てくる疑問について、Q&A形式で解説をしていきたいと思います。
目次
Q1:1か月の労働時間の総枠を超えたら、割増賃金が発生するのですか?
A1:フレックスタイム制は、1か月の労働時間の総枠を労使で合意し、その労働時間の総枠の中で、一定のルールのもと、従業員に出勤時間・退勤時間の自由を認める制度です(3か月単位のフレックスタイム制もありますが、説明が複雑になるのでここでは除外します)。
まず、フレックスタイム制では、月の暦日数によって法定労働時間の上限が次表のように定められています。
暦日数 | 週40時間の事業所 | 週44時間の事業所 |
31日 | 177.1時間 | 194.8時間 |
30日 | 171.4時間 | 188.5時間 |
29日 | 165.7時間 | 182.2時間 |
28日 | 160.0時間 | 176.0時間 |
各会社が自社の1か月の労働時間の総枠を定める際には、この表の上限を超えることは、法的に許されません。
一般的には、1日の所定労働時間に所定労働日数を乗じて、「8時間×20日=160時間」のような形で1か月の労働時間の総枠を決める形になります。その上で、割増賃金の処理は、次のような区分なります。
- 1か月の労働時間の総枠(=所定労働時間)以内: 基本給で吸収
- 1か月の労働時間の総枠を超え、法定労働時間以内: 割増のつかない残業代(1.00倍)
- 法定労働時間の上限超: 割増のつく残業代(1.25倍)
Q2:休日出勤をした場合の労働時間はどのようにカウントされますか?
A2:休日出勤には、法定外休日と法定休日の2種類があります。法定休日は、労働基準法での取得が義務付けられている週1回または4週間に4回の休日で、法定外休日は、それを超える会社が独自に定める休日となります。
フレックスタイム制の適用時における休日の考え方についてですが、まず、法定休日については、1か月の総労働時間の総枠とは分けて考えなければなりません。すなわち、法定休日出勤分の時間数を含めて1か月の総労働時間の総枠に時間数がおさまっていたとしても、法定休日出勤の時間数分は、1.35倍の割増率を付けて別枠で休日出勤手当として支払う必要があるということです。法定休日出勤の時間数を別計算した結果、それ以外の時間数で1か月の総労働時間数に達しない場合は、不足時間数を不就労控除することが可能です。
一方で、法定外休日の出勤時間数を、フレックスタイム制の総枠に含めるかどうかは、法的にはどちらも可能ですので、労使協定の定め方次第ということになります。
Q3:有給休暇の半休を利用することは可能ですか?
A3:フレックスタイム制の場合、1日の労働時間数を従業員が決められるため、半休制度を導入することができるのか、という質問をしばしば受けることがあります。
この点、結論から申し上げますと、半休制度の導入は可能です。
フレックスタイム制の場合、労使協定で、「標準となる1日の労働時間」を必ず定めなければならないことになっていますので、標準となる労働時間の半分が、半休取得時の時間数ということになります。
たとえば、1日の標準となる労働時間を8時間と定めている会社であれば、4時間が半休取得時間となります。
月の労働時間の総枠が160時間の会社で、月に3回半休を使ったとしたら、1か月の労働時間の総枠のうち、4時間×3時間=12時間分は勤務したものとみなされ、残りの148時間分を実働すれば、給与は満額支払われるということになります。
Q4:コアタイムに遅刻した場合は、欠勤控除は可能ですか?
A4:コアタイムに遅刻したとしても、他の日に長く勤務して、1か月での実労働時間に不足が無かったとしたら、欠勤控除を行うことはできません。
しかし、フレックスタイム制対象者は、決して遅刻自由というわけではありません。コアタイムに遅刻をした場合は、懲戒処分(始末書を書かせるなど)を行ったり、人事考課のマイナス要素として考慮することは可能です。
教育指導や懲戒処分、人事考課などで対応し、それでも改善が見られないようならば、フレックスタイム制の適用には向いていない自己管理ができない人ということになりますので、当人に関してはフレックスタイム制の適用を解除し、通常の労働時間制で勤務をしてもらわざるを得ないでしょう。
Q5:必ず出席してほしい会議がある場合は、会議時間の出社を強制できますか?
A5:いかなる場合であっても、フレックスタイム制の適用者に対し、会社が出勤時刻や退勤時刻を指定することはできません。
重要な会議等に関しては、コアタイムの時間帯に行うようにすることが一般的な対応となります。
コアタイムを定めていない場合には、実務上は、労使の信頼関係の基づいて、「お願い」ベースで参加を依頼する形になりますので、フレックスタイム制を円滑に運用するためには、労使の信頼関係が不可欠と言えます。
Q6:テレワークの日だけフレックスタイム制にすることは可能ですか?
A6:残念ながら、テレワークの日だけフレックスタイム制を適用するということは不可能です。フレックスタイム制は、月単位で適用することが必須要件となっているためです。
Q7:本人の判断で深夜勤務があった場合も深夜割増賃金を支払う必要はありますか?
A7:テレワークのエンジニアの方など、本人が夜型で、フレックスタイム制のもと夜型勤務を希望することがあります。
本人の希望による深夜勤務であったり、本人が割増賃金を辞退した場合であっても、法律上、深夜割増手当は支払わなければなりません。
実務上の対応としては、固定割増手当のような考え方で、基本給の一部を「固定深夜割増手当」として支給することが合理的です。
このような形にすれば、会社には追加の金銭的負担が生じず、また、本人も希望する時間帯に気兼ねなく勤務することができますので、労使双方にとってハッピーな落としどころとなるでしょう。
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