要確認!キャリアアップ助成金正社員化コース 支給申請時の注意点

昨今の働き手不足や人件費高騰を背景に、助成金申請に関わるご相談が増加傾向にあります。数ある雇用関係助成金の中でも、比較的多くの企業が注目するのが「キャリアアップ助成金正社員化コース」です。この助成金は支給対象となる取り組みがシンプルで使い勝手が良いとされる一方、助成金申請ならではの手順・要件を遵守する必要があることから、「申請をしたが不支給決定となってしまった」という失敗談を伺うケースも少なくありません。今号では、キャリアアップ助成金正社員化コースの支給申請時の注意点について確認しましょう。

キャリアアップ助成金正社員化コースの注意点① 事前に計画書を届け出ていますか?

キャリアアップ助成金の各コースで共通して言えることですが、いきなり対象となる取り組みを実施しても助成金はもらえません。まずは、雇用保険適用事業所ごとに、対象労働者に係るキャリアアップ計画書を作成し、管轄労働局長による受給資格の認定を受けなければなりません。
キャリアアップ計画では、3年以上5年以内のまとまった期間を想定し、取組目標や目標達成のために講ずる措置等を検討することになります。そして当初の計画に変更があった場合には、変更届を提出して、計画書に沿った内容で取り組みを進めていかなければなりません。つまり、計画書作成時点と支給申請時点できちんと整合性がとれていなければならないことから、十分に検討し、作り込む必要があります。併せて、労働者からの意見の聴取も行わなければなりません。
キャリアアップ計画書の記載内容はさほど複雑なものではありませんが、適当に作成して届け出てしまうと、後々不利益が生じる可能性が高いと言えます。キャリアアップ計画を考える際には、以下のガイドラインをご一読いただくことをお勧めします。

参考:厚生労働省「有期雇用労働者等のキャリアアップに関するガイドライン

キャリアアップ助成金正社員化コースの注意点② 賃金の「3%以上増額」を正しく理解しましょう

キャリアアップ助成金正社員化コースでは、対象従業員の賃金について、「正社員化後6ヶ月間の賃金を、正社員化前6ヶ月間の賃金より3%以上増額させていること」と「第1期(正社員化後、通常の勤務をした6ヶ月間)の賃金と比較して、第2期(第1期後、通常の勤務をした6ヶ月間)の賃金を、合理的な理由無く引き下げていないこと」という2要件を満たす必要があります。
ここでいう「賃金」とは、基本給および定額で支給されている諸手当を含む賃金の総額のことであり、諸手当に関しては「名称の如何を問わず、実費弁償的なものや毎月の状況により変動することが見込まれる等、実態と
して労働者の処遇が改善しているか判断できない手当は除く」「原則として労働者に支給する諸手当について、適切に就業規則または労働協約に記載している必要がある」とされています。
具体的に、以下は名称を問わず賃金総額に含めることができないため注意が必要です。また、以下の手当以外の諸手当についても、その趣旨等に応じて算定から除かれる場合があるため、あらかじめ労働局や社労士等にお問い合わせいただくと安心です。

 

特に注意が必要なのは、「歩合給」です。業績や成果により上下する歩合給は対象となりません。

キャリアアップ助成金正社員化コースの注意点③ 正社員転換制度に沿って転換を行いましょう

キャリアアップ助成金正社員化コースでは、労働協約または就業規則その他これに準ずるもの(事業所におい
て周知されているものに限る)に、正社員転換制度を定めており、これに則した転換を行っている必要があります。正社員転換制を規定する際には、具体的には「面接試験や筆記試験など適切な手続き「要件(勤続年数、人事評価結果、所属長の推薦などの客観的に確認可能な要件・基準等)」「実施時期(必ずしも具体的な月日を規定する必要はなく、例えば「実施時期(転換時期)は随時とする」との規定でも可)」を明示していなければなりません。就業規則等の規定において、いずれか一つでも欠けている場合は対象外となります。
併せて、正社員転換前後の労働条件等についても、就業規則との整合性が確認されます。例えば、以下のケースでは就業規則等の規定どおりに転換されていないと判断され、助成金申請の対象となりません。

・ 就業規則(賃金規程)では正規雇用労働者の賃金について「月給制」としているが、正規雇用転換後の雇用契約書では「時給制」としている。
・ 就業規則では正規雇用労働者の休日を土曜、日曜及び祝日としているが、正規雇用転換後の雇用契約書では日曜、祝日としている。
・ 就業規則では正規雇用労働者の1日の所定労働時間を8時間としているが、正規雇用転換後の雇用契約書では1日7時間としている。

御社にとって「必要な取り組み」に、助成金を活用しましょう

巷では助成金ビジネスがいたる所で立ち上がり、企業向けの「助成金活用」が盛んに謳われています。広告を見る限り、あたかも簡単に助成金を受給できるようにも感じられますが、「助成金がもらえるからとりあえず○○をやってみたが、必要性を感じられない」「助成金申請用に就業規則を作成してもらったが、会社の実態に則していない」等のトラブルを見聞きすることは少なくありません。また、助成金申請を目指す上では、日々の労務管理の徹底等、企業側にご対応いただくことも多く、「楽をして助成金獲得」とはいかないケースがほとんどです。助成金申請を考える上では、「助成金がもらえるから取り組もう」ではなく、「会社が〇〇に取り組みたいから、これに使える助成金を活用してみよう」という観点からのご検討が理想です。「○○に取り組みたいが、使える助成金はあるの?」といった主体性のあるご相談を、ぜひお待ちしております。
また、助成金申請書類は、一度提出してしまうと、よほどのことがない限り修正はできません。不備なく申請するためには、専門家である社会保険労務士のご活用が得策です。

参考:厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内(令和6年度版)(パンフレット)

LINEで送る

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

Twitterでフォローしよう

おすすめの記事