出張時間のうちどの部分が労働時間に該当するのかは様々なケースがあり、実務上もトラブルの多い論点です。
そこで今回は、具体例を用いて出張時の労働時間について整理をしていきたいと思います。
なお本稿においては、出張中の労働時間は管理されており、「事業場外のみなし労働時間制」は適用されないという前提条件で話を進めさせて頂きます。
目次
【事例】出張時の労働時間を考える
以下のように想定します。
所定労働時間:9:00~18:00(休憩12:00~13:00)
当日のスケジュール:
7:00~10:00 移動(自宅から出張先へ直行)
10:00~12:00 出張先で業務
12:00~13:00 昼食
13:00~19:00 出張先で業務
19:00~22:00 移動(出張先から会社へ)
22:00~23:00 帰社して出張報告書の作成
【解説】各時間の労働時間を考える
1.7:00~9:00(出発~始業時刻前)
出張の移動時間については、一定の制約はあるものの、基本的には自由利用が可能な時間であり、会社の指揮命令下には入っていないため、労働時間とはならないというのが判例や行政解釈などでも確立された考え方です。したがって、始業時時刻前に出張先に出発したとしても、原則としては早出残業扱いとはなりません。これは、社用車を運転して出張に向かっていた場合も同様です。
ただし、移動中に物品の管理を指示されているとか、上司と一緒に移動していて出張先での業務内容を打合せしているというような場合は、もはや自由時間ではなく会社の指揮命令下に入っていると考えられますので早出残業代が発生します。社用車の運転も、複数名で出張し、会社が運転手として特定の社員を指名したような場合は、指名された社員については労働時間に該当する可能性が高まります。
2.9:00~10:00(所定労働時間内の移動時間)
出張の移動時間が労働時間ではないとしたら、逆に、所定労働時間内の移動時間の扱いをどうすべきかというのが疑問点になります。
労働時間ではないから、移動時間は仕事していなかったとして、基本給などから移動時間分の不就労控除をしてもよい、という考え方が理論上は成り立たないわけではないですが、明らかに違和感があります。
この点、実務上は、出張全体が会社の指示に基づいて行われているのだから、そのために労働者が不利益を受けるのはおかしいということで、「労働時間ではないが、不就労控除は行わない」という扱いが法的に当然のこととして共通認識となっています。
3.10:00~12:00および13:00~18:00(出張先での所定内労働時間)
出張先での所定内労働時間は、たまたま勤務場所が出張先というだけで、労働しているという法的意味は変わりませんから、社内で通常勤務をしたのと同様に基本給に反映されます(月給制であればプラスマイナス何の影響もないということです)。
4.18:00~19:00(出張先での残業時間)
出張先での業務中に所定の終業時刻を超えてしまったときは、社内で勤務している場合と同様、残業の扱いとなり、残業代も発生します。
本稿の前提条件ように、出張先での労働時間の管理が可能で「事業場外のみなし労働時間制」が適用されていない場合は、出張手当などが支払われていても、その出張手当が残業代としての名目で支払われている場合を除き、出張手当とは別に残業代が発生します。なお、出張手当が残業代として支払われていたとしても、実際の残業時間数に基づいて計算した残業代が出張手当の額を超える場合は差額を追加で支払う必要があります。
何の根拠も無く「出張先での残業は残業代の対象になりません」という扱いにしている会社も実務上は少なくないようですが、法的には未払い残業代のリスクが発生していることになりますので注意が必要です。
5.19:00~22:00(終業時刻後の移動時間)
往路の説明で述べました通り、出張の移動時間は原則として労働時間にはなりません。ただし、帰りの電車の中でノートパソコンを使って出張報告書をまとめていたとか、軽い雑談程度は別として上司と反省会をしていたというような場合は労働時間に該当することとなります。
6:22:00~23:00(帰社後の出張報告書作成時間)
出張先から直帰せず、会社に戻ってきて業務を行う場合は、そこから労働時間のカウントがスタートします。本事例においても、会社で出張報告書を作成していた1時間は、労働時間となり、残業代の対象となります。なお、本事例では22時以降の労働となりますので、深夜割増手当も発生します。
出張時の労働時間を明確に!「クラウド勤怠管理システム」が便利
実務上、出張時の労働時間は「事業場外のみなし労働時間制」で所定労働時間勤務したものとして一律に処理されてしまうことも多いですが、現在はスマートフォンなど電子機器の発達により遠隔地にいる社員の管理は容易になっているので、裁判になった場合は「労働時間が管理できていたはずなので、みなし労働時間制には当てはまらない」とされてしまうリスクが高まっています。また、労働時間の管理者である上司が同行で出張しているような場合は、法的にそもそも「事業場外のみなし労働時間制」は使えない場面です。
出張時の労働時間を安易に「みなし」扱いとせず、正しい出張時の労働時間の管理方法や残業代の計算方法を是非身につけましょう。
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