「退勤後にちょっとだけ仕事」をした場合の労務管理

コロナ禍でテレワークが増えている中、筆者に次のような労務相談が寄せられました。

「退勤の打刻後に、細々としたビジネスチャットの返信をしている従業員がいるのですが、どのように対応すべきでしょうか?」

コロナ禍前の通常のオフィスワークにおいても、ノートパソコンを持ち帰ったり、スマートフォンでメールに返信をした場合など、類似の相談を受けたことはありました。

しかし、目下は、テレワークの増加により、良くも悪くも仕事と私生活が近接したことで、この手の相談は実務上増えています。

退勤打刻後の業務は原則禁止

この相談への回答として、社会保険労務士として真っ先に申し上げたいのは、「たとえテレワークであったとしても、そもそも、退勤打刻後に業務を行うこと自体がイレギュラーである」ということです。

テレワークは、働く場所が自宅になったというだけで、労務管理のルールなどは、基本的にはオフィスワークと同様です。

ですから、退勤の打刻後に業務を行ってはならないのです。

確かに、「どうしてもこのメッセージだけは返信しておきたかった」とか「了解です、とだけ返信をして、顧客を安心させたかった」など、様々な事情はあるでしょう。

しかし、従業員個人個人に勝手な対応を許してしまうと、会社としても労務管理の統制が聞かなくなってしまいますので、労働基準法の趣旨にのっとり、退勤打刻後の業務は、一律に禁止とすべきです。

その上で、どうしても緊急の対応が必要な場合に限り、上長に申請の上で(やむを得ない場合は事後申請も認める)、退勤後に業務を行う、というルールを徹底しましょう

ルールを破って勝手に退勤打刻後に業務を行う従業員に対しては、黙認をせず、注意を与えるようにし、それでも改善されなければ懲戒処分も含めて検討すべきです。

PCのログやメールの送信履歴は裁判や労基署の調査の証拠となる

このように、懲戒処分も含めて検討すべきという話をすると、事業主の中には「先生、ちょっと大げさすぎませんか?」という反応をされる方もいらっしゃいます。

しかし、未払い残業代を巡って労働者と裁判になった場合や、労基署の調査を受けた場合には、PCのログやメールの送信履歴は、「業務を行っていた」という強力な証拠となります。

会社側で有力な反証ができない限り、PCのログの最後の時刻までが全て業務時間と推定され、膨大な残業代を支払うことにもなってしまい兼ねないリスクが発生してしまいます。

PCのログやメールの送信履歴は、裁判や労基署の調査において、それだけ強力な証拠になるということをご認識ください。

実務上の対応

実務上の対応としては、前述しましたよう、退勤打刻後の業務は原則禁止とした上、どうしても必要な場合は、上司の許可を得るということを徹底するようにしてください。

勤怠の記録の残し方としては、その日、2回目の出勤をしたという形にするのが妥当です。

たとえば、18時に退勤をし、緊急のメールを21時から21時30分まで対応したという場合は、その日の21時に再出勤し、21時30分に再退勤をしたという記録になります。

労基法上、1日2回出勤・退勤をすることは、特段の違法性はありません。ただし、労働時間を通算して8時間を超えるならば、割増賃金の支払が必要となります。

なお、上記の例において、18時から21時までを休憩として勤怠を記録するというのも一つのアイデアとしては考えられます、しかし、休憩とは、休憩後の業務の再開を前提として取得するものですので、この事例のように、緊急事態が発生したので、退勤後に急遽業務の再開が必要になったという場合には、実態に即していないので、筆者としましては、望ましくないと考えます。

ニューノーマル時代の労務管理

テレワーク化や、IT化が進む中で、今回の事例のように、これまでに無かったような労務問題も多々発生しています。

先例が無い中で、人事労務担当者も大変だと思いますが、労基法の原理原則に立ち戻って考えたたり、必要に応じて専門家に相談をしながら、1つ1つ問題を解決し、ニューノーマル時代の労務管理を構築していってほしいと思います。

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