あなたの会社では、残業代の計算を1分単位で行なっていますでしょうか?実は労働基準法では、1分単位で残業代を計算し支払うことが求められているのですが、その煩雑さゆえか実施できていない企業が多いように感じます。
今回はそんな企業のために、無理なく1分単位で労務管理を行い残業代を支払うための3つの方法をご紹介します。
そもそも、なぜ1分単位での残業代支払いが重要なのか
労働基準法では1分単位の管理を求められていても、実務上は昔から、1分単位で労働時間を管理したり、1分単位で残業代を集計したりすることは困難でした。この細かさは非現実的であると言われてきており、10分単位や15分単位で残業代を切り捨てる「丸め」が公然の事実として行われてきました。
労働基準監督署の調査があった場合も、所定の終業時刻からおおむね15分以内にタイムカードが打刻されていれば、残業代の未払いとして指摘を受けることはほとんどなかった、というのが実務的な感覚です。
たしかに終身雇用が当たり前で労使関係が安定していた時代は、労働者側も「うちの会社は昔から15分単位だったからそんなもんだ」とか「雇用の安定が大事なんだから、残業代のことで会社と揉めて居心地が悪くなるほうが嫌だ」といったような、残業代の「丸め」に対して寛容な考えを持っていたので、大きなトラブルなることは少なかったという印象です。
しかしながら、労使関係が流動的になり、労働者の権利意識も高まっている現代においては、「残業代は1分単位で支払う」という考えを持っておかなければ経営上のリスクが生じる時代になったと思います。
無理なく1分単位で労務管理を行い、残業代を支払うためには、どうすれば良いのでしょうか。
①タイムカードの打刻通り支払え
第1の方法は「タイムカード通り支払う」です。
タイムカードの打刻と、業務開始・業務終了には差があるのは当然です。タイムカードはあくまで職場の「入退場」の記録である、という考え方は多くの企業に浸透していて、残業代の計算は別途の自己申告等に基づいて行う、という二重管理がなされている会社は現在でも少なくありません。
たしかに、業務終了後に同僚と喫煙を楽しんだり、化粧直しをした後にタイムカードを打刻して退社する、という流れも充分考えられますので、このような二重管理の考え方にも一定の合理性はあります。
しかしもし裁判になった場合、「どこまでが業務の延長でどこまでが業務外の時間だったのか」について会社側が立証することは非常に困難です。その結果、タイムカードの打刻通りの未払い残業代の精算が求められてしまうリスクを否定できません。
そこでこの対策として、二重管理をやめるのです。タイムカードの打刻時間通りに、1分単位で残業代を支払うこととするのが一つの方法です。
そのかわり、タイムカードは出入り口付近ではなくデスクのすぐ近くに設定するなどの工夫が必要になるでしょう。加えて、スマートフォンやパソコンのアプリで各自が業務終了と同時に直ちに打刻できるような環境も整えるべきです。さらに、就業規則で「業務終了後直ちにタイムカードを打刻しなかった場合」を懲戒事由に加えるなどし、「業務終了→即打刻」の流れを徹底して定着させるのです。
このうえでタイムカード通りに支払えば、会社のロスは最小限にしながら、1分単位の残業代の支払いが実現します。
②「退社調整手当」を利用せよ
第2は「退社調整手当」を使う方法です。
退社調整手当とは、私が独自に開発した用語ですが、簡単に言えば固定残業代の一種です。
定時で業務が終了する日でも、現実的には数分間の残業は発生してしまうものでしょう。例えば、後片付けをしたり、終業時刻間際にかかってきた電話に対応していたりなどです。
他にも第1の方法でも述べたよう、タイムカードの置かれている場所によっては業務終了からタイムカードを打刻するまでにタイムラグが生じてしまうことも現実的には避けられません。
こういったグレーな時間を吸収するために、特殊ルールを作るのです。たとえば18時が定時であれば「時間外労働の申請を行わない社員は業務終了後、18時15分までにタイムカードの打刻を完了させること」などです。その上で、18時から18時15分までの15分間は「退社調整手当」として吸収するのです。
休日出勤があった場合も考えると、「15分✕31日=7.75時間」です。8時間分程度の残業代に相当する「退社調整手当」を固定残業代として、給与体系に組み込むこむのです。
こうすれば日々の業務終了後の15分が、グレーな時間帯から残業代の支払われているホワイトな時間帯に変わります。
そして本当の意味で残業を行う場合には、18時以降の残業に対し、実残業時間に応じた残業代を別途支給することとします。
このような仕組みにすれば「定時退社時のロスタイム」は退社調整手当で吸収され、法的には1分単位で正しく残業代が支払われていることになります。
③「業務終了時間帯」を設けよ
第3は「業務終了時間帯」にタイムカードの打刻を行うことです。
例えば、定時が18時の会社であれば、17時45分から18時の間の15分間を業務終了時間帯と定義するとしましょう。
社員は、17時45分になったら退社準備を始めることができ、遅くとも18時までにタイムカードの打刻を完了させなければならない、というルールにします。
その場合、17時53分などといった時刻にタイムカードが打刻されることになりますが、17時45分以降の打刻であれば、早退控除は行わず、18時まで勤務したものとみなして、給与計算は行うことにします。
会社にとっては、最大で15分間の不就労時間に対する賃金支払のロスが生じてしまいます。しかし、労働時間の短縮は時代の流れですので、これを機に業務の効率化を進めたり、従業員のモチベーションアップを図ったりするなども必要なことでしょう。工夫次第ではロス以上のメリットを得ることもできるかと考えます。それに、やはり未払い残業のリスクから解放されることはロス以上に大事なことではないでしょうか。
1分単位の勤怠管理と残業管理を!
現代の労働環境に対応した、1分単位の労務管理や残業代支払に対応した打刻や労務管理の方法を3つ紹介しました。
本稿に掲げた手法が全てではないかもしれませんが、是非、自社に合った1分単位で労働時間管理や残業代支払を行える方法を構築して、未払い残業代に対するリスクを低減していって下さい。
なお、紙のタイムカードから脱却して、電子タイムカードを導入したり、スマホのアプリで打刻できるような仕組みを導入することをおすすめします。業務終了時に素早く打刻を完了させ、業務終了と打刻の誤差を極小化し、より正確な1分単位での労務管理ができるようになるはずです。
[打刻ファースト編集部より]リスク管理として、様々な手法を紹介いただきました。
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