すでにご存じの方も多いと思いますが、2022年4月より、体外受精等の基本的な不妊治療に幅広く医療保険が適用されています。政府の統計によれば、2015年時点で「不妊を心配したことがある夫婦」は全体の35.0%(約2.9組に1組の割合)、「実際に不妊の検査や治療を受けたことがある(または現在受けている)夫婦」は18.2%(約5.5組に1組の割合)であることが明らかになっており、このたびの保険適用範囲の拡大によって不妊治療を前向きに検討する夫婦が増えることが予想されます。企業として、従業員の不妊治療と仕事の両立をどのように支援していくかに、本格的に目を向けていく必要があります。
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2022年4月より変更となった不妊治療の医療保険適用範囲を理解しましょう
不妊治療に関しては、これまでも一部保険適用となっていましたが、その範囲は検査(原因検索)や原因疾患への治療に限られていました。この点、今春からは関係学会のガイドライン等で有効性・安全性が確認された治療について幅広く保険適用となっています。新たに追加された治療範囲として、具体的には、タイミング法や人工授精、体外受精、顕微授精、男性不妊の手術等が挙げられます。
出典:厚生労働省「不妊治療に関する支援について」
ただし、保険診療となる治療には年齢と回数について制限があります。
治療開始時において女性の年齢が43歳未満であること
治療開始時の女性の年齢が40歳未満は1子ごとに通算6回まで
40歳以上の場合には1子ごとに通算3回まで
人材確保・定着の柱の一つとなり得る「不妊治療と仕事の両立支援」、御社の取り組み状況は?
御社では、従業員の不妊治療と仕事の両立支援としてどのような取り組みをされているでしょうか?もしかしたら、「うちでは、従業員の誰かが不妊治療をしているといった話を聞いたことがないから」と、特に何も取り組まれていない現場も多いかもしれません。ところが、冒頭でもご紹介した通り、不妊治療に取り組む夫婦は決して少なくありません。また、厚生労働省によれば、不妊治療をしたことがある(または予定している)労働者のうち、「仕事との両立ができなかった(または両立できない)」とした人の割合は「34.7%」とのこと。これに対し、不妊治療と仕事の両立支援に取り組む企業の割合は全体の3割程に止まることが分かっています。
出典:厚生労働省「不妊治療と仕事との両立サポートハンドブック」
深刻化する働き手不足を背景に、「不妊治療関連離職」への対策を
不妊治療と仕事との両立が困難なために、離職を選択する労働者は少なくありません。不妊治療に関連する離職によって、企業における労働力の減少、ノウハウや人的ネットワーク等の消失、新たな人材を採用する労力や費用の増加等がもたらされる原因に。一方で、不妊治療と仕事の両立支援への取り組みは、離職の防止、従業員の安心感やモチベーションの向上、新たな人材確保等といった良い結果につながります。不妊治療への保険適用拡大を受け、従業員が前向きに不妊治療に取り組める様、職場環境の整備に取り組むことが今、企業に求められているのではないでしょうか?
両立支援の検討に役立てたい、「不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりのためのマニュアル」
不妊治療と仕事の両立支援に向けた検討は、まず「知ること」から始まります。不妊治療の概要、治療の当事者が求めている支援、さらに企業における具体的な取り組みを把握することで、これらの情報を元に、自社で対応可能な支援を具体的に考えることができるようになります。
両立支援への取り組みの第一歩を踏み出すには、厚生労働省が公開する「不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりのためのマニュアル」が役に立ちます。両立支援を考える上で必要なデータの他、現場における不妊治療と仕事との両立支援導入ステップについても詳しく解説されているので、事業主様、人事ご担当者様であればご一読いただくと良いでしょう。
企業における不妊治療と仕事の両立支援に関しては、今号で解説した2022年4月からの「保険適用範囲拡大」の他、同じく今春よりくるみん認定に新たに追加された「プラス」認定等、国の支援が進められている分野です。また、企業に義務化されたパワーハラスメント防止措置の観点からも、不妊治療を受ける従業員への対応は一考すべきテーマと言えます。今一度、御社に必要な取り組みに目を向けてみませんか?