「早上がり」の労務管理で押さえておきたいポイント4選

仕事が早く終わったとき、来客が予想以上に少なかったとき、台風が接近しているときなど、社員やアルバイトを「早上がり」させることがあると思います。実務上、「早上がり」をさせた場合の労働時間管理や給与計算で間違いが生じることが少なくありませんので、本稿では法的に注意しておきたいポイントを4点ご紹介したいと思います。

①早上がりと残業の相殺はできない

第1は、早上がりをした日の早上がり時間を、翌日の残業時間と相殺することはできないということです。たとえば、1日8時間が所定労働時間の人が、昨日2時間早上がりして6時間しか働かなかったので、今日は10時間働いても残業代は発生しない、というような考え方は成り立ちません。
労働基準法では、1日の労働時間が8時間を超えたら、「日」単位で残業代を計算しなければならないのが大原則ですので、前日が早上がりであっても、そのことは関係ないのです。
確かに、1か月の総労働時間が一定の枠内に収まっていれば日々の残業代は発生しないという、「フレックスタイム制」や「1か月単位の変形労働時間制」といった特別な労働時間制度は存在します。
しかし、これらの制度は、あらかじめ労使協定を結んだり、1か月のシフト表をあらかじめ確定させたりなど、労働基準法上で定められた手続きをきちんと踏んだ上で導入できるものですので、突発的な早上がりを翌日の残業と相殺するのとは、まったく別次元の話なのです。

②早上がりをさせた場合は休業手当の支払いが必要となる場合がある

第2は、「会社の都合」で早上がりをさせた場合は、休業手当の支払いが必要になる場合があるということです。労働基準法の定めによると、会社都合で労働者が休業をした場合には平均賃金の60%以上を休業手当として支払わなければならないとされています。そしてこの「休業」は、丸1日だけではなく、1日の一部を休業した場合も含まれるとされています。それゆえ、「早上がり」も法的には休業の一種となるのです。
たとえば、1日あたりの賃金が8,000円で1日の所定労働時間が8時間の人が早上がりをした例で考えてみましょう。なお、この人の平均賃金は8,000円×60%=4,800円とします。1時間だけ早上がりをした場合は、実労働時間は7時間で、この日の賃金は7,000円が支払われるので、4,800円を上回っており、休業手当の支払は必要ありません。4時間早上がりをした場合は、実労働時間は4時間で、この日の賃金は4,000円しか支払われず、4,800円を下回るので、会社は800円の休業手当を支払う必要があるということになります。
また「会社の都合」の範囲がどこまでなのか、の解釈でよく問題になるのは台風などの自然災害の場合ですが、猛烈な台風が直撃することがほぼ確実で、交通機関が麻痺したり、定時まで勤務したら明らかに労働者が危険という場合は、不可抗力であり「会社の都合」ではないと言えるでしょう。この場合は、休業手当の支払は必要ありません。

労働者への危険が差し迫っているとまでは言えないが念のために早く帰宅させるとか、「悪天候でどうせ来客も無いだろうから早じまいする」というような場合は、不可抗力による早上がりとまでは言えません。休業手当の支払いが必要となる可能性が高いと考えられます。

③早上がりを会社が一方的に有給消化扱いにしてはならない

第3は、早上がりした時間を、会社が一方的に有給消化扱いにしてはならないということです。
昨今の労働基準法の改正で「1時間単位の有給休暇」の制度も定められました。それに伴い、1時間早上がりした場合にその1時間を有給休暇で処理して減給が発生しないようにする、という考え方も出てくるかと思われます。この点、早上がりをする労働者が有給での処理を望んでいて、会社もそうしたいと考え、労使双方が有給消化で合意するならば早上がりの時間分を有給消化に充てることは問題ありません。しかし、労働者が有給消化を希望していないのにかかわらず会社が一方的に有給消化で処理をするのは違法です。有給休暇は、あくまでも労働者本人の希望に基づいて消化されるものだからです。
逆に、会社が早上がりを指示した際に、本人から有給消化の希望があったとしても、それを却下して、あくまで早上がりで処理することも問題ありません。

④労働者からの早上がりの希望を会社が拒めない場合もある

ここまでは、会社側からの指示による早上がりを前提に説明をしてきました。
第4は、労働者側からの希望による早上がりです。
まず、労働者側からの希望に基づいて早上がりが行われた場合は、会社に責任はありませんのでもちろん休業手当の問題にはなりません。不就労があった時間数分の賃金を控除すれば賃金関係の処理は解決します。問題なのは、そもそも、会社は労働者側からの希望による早上がりを認める必要があるのかということです。
この点、「生理休暇」「子の看護休暇」「介護休暇」のように、法律上定められた休暇の権利に基づいて早上がりをすることは、当然に認める必要があります。丸1日休む権利があるならば、早上がりをして部分的に休む権利もあると考えられるためです。また法律上認められた休暇ではなくとも、体調が悪いので早上がりしたいとか、子どもの学校行事があるので早上がりしたいというような、社会通念上も合理的な理由がある早上がりの希望は、労務管理上の配慮として原則としては認める方向で考えるべきでしょう。単に遊びに行きたいなどの、勝手な理由の早上がりは、当然認める必要はありません。

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早上がりした時刻をタイムカードできちんと打刻管理することは当然必要です。それに加え、早上がりした時間に関する給与計算や労務管理についても、法律上正しい考え方に基づいて行っていきましょう。

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