
夏本番を目前に、早くも全国的に連日厳しい暑さとなっています。梅雨時期は湿度の高さも相まって、真夏と同じレベルで熱中症に警戒が必要です。御社では、適切な熱中症対策に取り組めているでしょうか?「大人なんだし、熱中症予防は各自の問題」と、職場で特段何の対策もしていなければ、会社は安全配慮義務違反となる可能性があります。今一度、会社が講じるべき熱中症予防に目を向けましょう。
熱中症対策は企業における安全配慮義務の一環
使用者である企業は、労働者に対し、労働者がその生命及び身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をする義務、つまり安全配慮義務を負っています。企業における安全配慮義務は、仕事上の病気やケガの予防措置や2022年度からすべての企業で義務化されたハラスメント防止措置等、多岐に渡ります。
各地で熱中症労災が増加傾向に
近年の地球温暖化を背景に、夏季の気温の上昇が顕著になる中、今や熱中症対策も企業の安全配慮義務に数えられます。2023年度の熱中症による労働災害発生状況を見ると、職場での熱中症による死傷者数は、1,106人となり、うち死亡者数は31人とのことで、顕著な増加傾向にあることが分かります。現場においてはこうした状況及び熱中症予防の必要性を正しく理解し、適切な措置を講じていかなければなりません。
参考:厚生労働省「職場でおこる熱中症」
安全配慮義務違反の判断基準
熱中症対策に限ったものではありませんが、企業における安全配慮義務違反の有無を考える際には、一般的に以下の観点から判断します。
① 事業者が対策を講じれば防止できることだったか(予見可能性および結果回避性の有無)
② 事業者が安全配慮義務を怠ったことが原因だったか(因果関係の有無)
③ 労働者に過失により、起こったことだったか(労働者側の過失の有無)
企業の熱中症対策として、労働者の体調を正しく把握すること、そして事業場で熱中症が起こらないための工夫を積極的に講じことが肝心です。
職場において必要な熱中症対策を考える
どんな熱中症対策が必要かは事業場ごとに異なりますが、例えば以下のような取り組みが考えられます。
○ 温度・湿度・WBGT値の測定による事前予測結果を元にして、適切な休憩回数や作業時間を検討する
○ 始業前に労働者の体調チェックを行い、体調に応じて負荷の小さな作業に変更する
○ 労働者に対して熱中症に関する教育を実施する
○ 特に屋外作業を伴う現場では、作業環境の整備を工夫する
(具体例)
・エアコン、冷水機、製氷機、シャワーの設置
・作業場所付近にテントを設置し日陰を作る
・作業場所及び休憩室その他に、スポーツドリンク、冷水、塩分及びミネラル補給用錠剤、冷たいおしぼり等を常備する
・へルメットの後部に日よけのたれ布を取り付けて熱幅射を遮る
併せて、屋内でのデスクワーク時の熱中症対策にも注意が必要です。熱中症は、高温多湿な環境下で体内の水分及び塩分のバランスが崩れたり、体内の調整機能が破綻したりすることで、屋内外を問わず発症します。空調管理や休憩・水分補給等、職場として行える熱中症予防対策に目を向けましょう。具体的な対策を検討する際には、厚生労働省が公開するリーフレットが参考になります。
参考:厚生労働省「職場における熱中症予防対策マニュアル」
厚生労働省「働く人の今すぐ使える熱中症ガイド」
熱中症対策を講じない企業に対する罰則は?
現状、熱中症対策を怠っている現場において、気がかりとなるのは「罰則の有無」ではないでしょうか。ひと口に「安全配慮義務」と言っても様々なものがあり、罰則の適用についても一概には言えません。例えば、労働者の雇入れ時に安全衛生育を実施しなかった場合の安全配慮義務違反については、労働安全衛生法の定めに則り50万円以下の罰金が科せられます。しかしながら、熱中症対策のような労働契約法の規定に基づく安全配慮義務では、違反をしても罰則はありません。
ただし、業務中の熱中症発症について、労働者が企業に対して損害の賠償を求めた場合、安全配慮義務を果たしていないと判断されると、損害賠償責任を負う可能性があります。企業の責任として、熱中症対策を適切に講じてまいりましょう!