【働き方改革】「契約社員への退職金不支給は不合理とはいえない」|最高裁判決にみる同一労働同一賃金のポイント(メトロコマース事件)

今号で解説するメトロコマース事件は、前号で取り上げた大阪医科薬科大学事件同様、高裁判決を覆し、最高裁判決において正規・非正規間の待遇差の合理性を肯定したことで話題になった事案です。契約社員に対する退職金不支給について争われたメトロコマース事件の概要から、同一労働同一賃金の観点を考察しましょう。

関連記事:『【働き方改革】「アルバイトへの賞与不支給、不合理ではない」|同一労働同一賃金に影響をもたらす最高裁判決を解説(大阪医科薬科大学事件)

同一労働同一賃金とは?「契約社員への退職金不支給」が認められた背景を探る

同一労働同一賃金とは、労働者の待遇について、正規・非正規間の不合理な格差を是正し、雇用形態の別を問わず労働に応じた水準で処遇すべきという考え方です。具体的には、以下の「均等待遇」「均衡待遇」に基づきます。

✓ 同じ労働に対しては、同じ待遇で処遇しよう(均等待遇)
✓ 労働に違いがあれば、違いに応じた待遇で処遇しよう(均衡待遇)

待遇決定の基準となる「労働」について、正規・非正規で同一であるか否かの違いは、「業務内容」「責任」「職務内容・配置の変更範囲」「その他の事情」の観点から判断します。

メトロコマース事件の概要

これから解説するメトロコマース事件は、売店勤務の正社員に退職金が支払われる一方、同じ場所で勤務する契約社員に対しては退職金の一切支払いがないことについて、不合理な格差の違法性が問われた事案です。

売店勤務をしていた労働者の雇用形態は、正社員・契約社員A・契約社員Bであり、メトロコマース事件の原告は契約社員Bにあたる労働者です。

○ 正社員
・無期労働契約を締結した労働者で、65歳定年
・本社の経営管理部、総務部、リテール事業本部及びステーション事業本部の各部署に配置されるほか、各事業本部が所管するメトロス事業所、保守管理事業所、ストア・ショップ事業所等に配置される場合や関連会社に出向の可能性あり
・所定労働時間は週39時間10分
・業務の必要により配置転換、職種転換又は出向を命ぜられることがあり、正当な理由なくこれを拒むことはできなかった
・正社員のうち、売店勤務に従事する者はごく一部(全体の3%ほど)

○ 契約社員A(後に「職種限定社員」に改められ、無期労働契約に)
・契約期間を1年以内とする有期労働契約(ただし期間満了後は原則として契約が更新され、65歳定年)
・契約社員Bのキャリアアップの雇用形態として位置付けられ、本社の経営管理部施設課、メトロス事業所及びストア・ショップ事業所への配置あり

○ 契約社員B
・契約期間を1年以内とする有期労働契約(ただし期間満了後は原則として契約が更新され、65歳定年)
・「一時的,補完的な業務に従事する者」の位置付け
・大半の者が週40時間勤務
・業務の場所の変更を命ぜられることはあったが、業務の内容に変更はない
・配置転換や出向を命ぜられることはない

正社員、契約社員A、契約社員Bにはそれぞれ異なる就業規則が適用されていました。

メトロコマース事件最高裁判決文から探る同一労働同一賃金のポイント

判決文には、同一労働同一賃金の判断基準となる「業務内容」「責任」「職務内容・配置の変更範囲」「その他の事情」からの考察が記されています。正社員と契約社員Bでは、各項目において一定の相違があったことが伺えます。

《業務の内容、責任の程度》
正社員は、販売員が固定されている売店において休暇や欠勤で不在の販売員に代わって早番や遅番の業務を行う代務業務を担当していたほか、複数の売店を統括し、売上向上のための指導,改善業務等の売店業務のサポートやトラブル処理。商品補充に関する業務等を行うエリアマネージャー業務に従事することがあった。
一方、契約社員Bは売店業務に専従していた。

《職務内容・配置の変更範囲》
正社員は業務の必要により配置転換等を命ぜられる現実の可能性があり、正当な理由なく、これを拒否することはできなかった。
契約社員Bは、業務の場所の変更を命ぜられることはあっても業務の内容に変更はなく、配置転換等を命ぜられることはなかった

《その他の事情》
・売店業務に従事する正社員は、その他の正社員と同じ就業規則等により同一の労働条件の適用を受けていたが、職務の内容及び変更の範囲を異にしていた。ただし、こうした状況を鑑みて再編成がされてきた経緯がある。また、その職務経験等に照らし、賃金水準を変更したり、他の部署に配置転換等をしたりすることが困難な事情があった。
・契約社員Bから契約社員B、契約社員Bから正社員への登用試験制度があり、実際の登用実績もあった。

そして、そもそも退職金は、「職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払いや、継続的な勤務等に対する功労報償等の複合的な性質を有するものであり、正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対して支給されるもの」とされていました。

参考:裁判所「令和元年(受)第1190号,第1191号 損害賠償等請求事件 令和2年10月13日 第三小法廷判決

以上より、最高裁判決は、正社員と契約社員Bの働き方の違い、加えて退職金支給の目的を鑑み、契約社員Bへの退職金不支給について不合理とまでは言えないと結論づけました。

なお、本判決文の終わりには、本判決に関連して裁判官の方々の補足が加えられています。裁判官林景一氏は、補足の末尾に、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善の観点から「有期契約労働者に対し在職期間に応じて一定額の退職慰労金を支給すること」の可能性に触れていますが、個人的にはこの意見に賛同します。

メトロコマースの事例では、原告はいずれも10年ほど勤務をしてきた人達です。いざという時の責任の程度や配置転換等の可能性に違いがあったとしても、日常的には正社員も契約社員も概ね共通する業務に従事してきたにもかかわらず「契約社員は退職金ゼロ」とされてしまうことについて、理屈はどうあれ単純に納得のいかない労働者は多いと思います。

もちろん、退職金制度や慰労金制度を設けるためには、原資をどう確保するか等の難しい問題もあるでしょう。しかしながら、非正規労働者の処遇改善は、同一労働同一賃金関連の労使トラブル回避の観点からはもちろん、働き手不足対策への一助ともなりますから、前向きに検討できるのが理想といえるでしょう。

同一労働同一賃金で明示すべき、「正規・非正規の相違」と「非正規のキャリアアップ」

今号で解説したメトロコマース事件は、前号の大阪医科薬科大学の事例同様、同一労働同一賃金の判断要素と処遇の目的を主軸に検討することで、待遇差の合理性を判断することができました。

御社の同一労働同一賃金へのご対応はいかがでしょうか?正規・非正規で「職務内容も配置等の変更範囲も待遇もまったく区別なし」という現場はほとんどないように思われますが、両者に待遇差を設ける場合、同一労働同一賃金の観点から相応の合理性を説明できなければなりません。

厚生労働省ホームページでは、同一労働同一賃金に取り組む事業主支援として、取り組み方の解説やチェックツールを公開しています。併せて、同一労働同一賃金ガイドラインにも、「問題となる例」「問題とならない例」の具体的な例示をご確認いただけます。

参考:厚生労働省「同一労働同一賃金特集ページ

上記より、必要な情報・ツールをご活用いただき、御社の体制整備にお役立てください。

また、このたびの大阪医科薬科大学、メトロコマースの事案における最高裁判決では、いずれも「その他の事情」として非正規雇用労働者に対して正社員登用試験等のキャリアアップの道が開かれており、実際に実績もあったことが加味されているものと思われます。同一労働同一賃金への対応の一環として、非正規労働者が活用可能なキャリアアップ体制の整備にも取り組まれることをお勧めします。

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