働き方改革の柱の一つ、「同一労働同一賃金」が2021年4月より適用となってから、間もなく3年目を迎えようとしています。報道等では大企業における非正規労働者の処遇改善を見聞きする機会が増えたように感じられますが、かたや中小企業ではまだまだ課題に頭を悩ませるケースもあるようです。
そんな中、厚生労働省は、2023年3月15日から5月31日までを取組強化期間として、同一労働同一賃金の遵守の徹底に向けた集中的な取り組みに踏み出すことを発表しました。
目次
同一労働同一賃金強化期間における取り組みの概要
出典:厚生労働省「非正規雇用労働者の賃金引上げに向けた同一労働同一賃金の取組強化期間(3/15~5/31)について」
このたびの同一労働同一賃金の取組強化期間において、具体的に実施される政府の取り組みは上図の通りです。業界団体や企業への働きかけ等が挙げられる中、注目すべきは「労働基準監督署と都道府県労働局が連携した同一労働同一賃金の徹底」という部分ではないでしょうか。
「労基署による事実関係確認」が本格実施へ
実は、同一労働同一賃金取組強化期間の設定に先立ち、厚生労働省はすでに2022年12月時点で、非正規雇用労働者の待遇改善に向けた都道府県労働局と労働基準監督署の連携強化を打ち出しています。これにより、労基署が定期監督等を利用して非正規雇用労働者の基本給や諸手当などの処遇について事実確認を実施し、その結果を労働局における報告徴収の対象企業の選定に活かしていく流れが確立されることになります。今後の是正指導においては、より一層の実効性強化が見込まれます。
出典:厚生労働省「同一労働同一賃金に関する労働基準監督署と都道府県労働局の連携について」
同一労働同一賃金未対応の企業は、早急に対応を
このたびの同一労働同一賃金の取組強化期間の目的は「大企業における賃金引上げの流れを中小企業・小規模事業者の従業員や非正規雇用労働者に波及させること」にあります。今年の春闘では各業界で大幅な賃上げ回答が相次いでいること、これに加えて大企業を中心に非正規労働者の処遇改善が着実に進められていること等に鑑みれば、確かに今、日本企業は賃金引き上げの流れにあると考えられます。もっとも、中小企業において、大企業のような大胆な施策を打ち出すことは難しいでしょうが、「ウチには無理」と決めつけてしまえば企業成長を止めることになります。同一労働同一賃金への取り組みの中で、非正規労働者の処遇改善に目を向けることが、結果的に賃金引き上げにつながっていくことを理解し、中小の現場においても可能な限り、前向きに取り組んでいく姿勢が求められます。
まずは、同一労働同一賃金を正しく理解することから
同一労働同一賃金については、厚生労働省が専用ページを設けて詳細に解説しています。具体的な処遇の考え方についてもガイドラインが公開されていますから、判断に迷われる際には参考にされると良いと思います。
とはいえ、現場のお声を伺っていると、同一労働同一賃金についてはまだまだ誤解されている部分が多く、これによって検討が前に進まないケースも多いのではないかと感じます。
合理的な理由による正規・非正規間の待遇差は問題なし
現場における「誤解」の一例として、「パートにも、正社員と同じ制度を適用するのはおかしい」というご意見があります。確かに、一般的に考えてパートタイマーと正社員とでは労働時間も業務内容も職責も異なりますから、これらの違いを踏まえずに同じ制度を適用するとなれば疑義が生じます。この点、同一労働同一賃金で求められるのはあくまで「正規・非正規間の不合理な待遇差の解消」ですから、合理的な待遇差(つまり、労働時間や業務内容、職責等を理由とした待遇差)については問題なく認められることを理解しておく必要があります。つまり、理由があれば、パートと正社員とで制度の適用の有無を分けても良いのです。
ただし、パートタイマーであっても、正社員と変わらない労働時間、業務内容、職責で勤務されているなら、雇用形態が違っても同等に処遇しなくてはなりません。
雇用形態の別によって、一律に適用の有無が分かれている制度は要見直し
パートタイマーと正社員の働き方に差がある場合でも、雇用形態によって一律に制度適用の有無が判断されることは望ましくありません。例えば、ガイドラインには、労働に関係のない制度については正規・非正規を問わず適用とするべきであること、貢献度等による差がある場合は差に応じた適用をすべきであることが記載されています。一つひとつの制度について、今一度、不合理な違いがないかどうかを確認する必要があります。
出典:厚生労働省「同一労働同一賃金ガイドライン」
専門家を交えて、これまでの「当たり前」の見直しを
同一労働同一賃金への対応は、既存の社内制度を見直す作業であることから、長く現場にいらっしゃる皆さんだけでは遅々として検討が前に進まない傾向があります。こんなとき、社会保険労務士等、専門的知識を持った第三者による支援を受けることで、新たな視点からこれまでの「当たり前」を見つめ直すことが可能となります。同一労働同一賃金の取組強化期間を機に、今、本格的に取り組んでまいりましょう。