【働き方改革】「アルバイトへの賞与不支給、不合理ではない」|同一労働同一賃金に影響をもたらす最高裁判決を解説(大阪医科薬科大学事件)

今般の働き方改革の柱の一つである「同一労働同一賃金」。派遣労働者への対応は企業規模を問わず既に始まっていますが、契約社員やパート・アルバイトについて、中小企業では2021年4月の適用に向けてまさに準備を進めているところだと思います。

このたび、非正規雇用労働者への賞与、退職金支払いについて争っていた2つの訴訟について、最高裁判決が下されました。事業主様、企業のご担当者様は、さっそく概要を確認しておきましょう。

今号では、アルバイトへの賞与と私傷病による休職給を争った大阪医科薬科大学事件について解説します。

大阪医科薬科大学事件最高裁判決「アルバイトへの賞与は不合理とはいえない」

本件は、有期契約のフルタイムアルバイト職員に対し、正社員に支給される「賞与」「業務外の疾病による欠勤中の賃金(休職給)」が支給されないなどの相違の不合理性が争われたものです。

争点は「賞与の支給目的」

まずは、賞与に関わる解説から。

18年1月の一審は、正職員の賞与について「長期雇用を想定したものである」としてアルバイト職員の請求を退けました。これに対し、19年2月の二審決では、正職員らに支払われる賞与は年齢や業績などに連動しておらず「就労自体への対価の性質がある」と判断。同時期に就労していたアルバイト職員に支給しないことは不合理とされました。

こうした経緯を受け注目された最高裁判決では、一転、二審の判決が覆され、アルバイト職員への賞与不支給が直ちに不合理な待遇格差とは認められないとされたのです。

判決文を確認すると、判決に至った背景を以下の通り読み解くことができます。

・賞与は、業績に連動するものではなく、基本給をベースとしたものであり(基本給の4.6か月分)、算定期間における労務の対価の後払いや一律の功労報償、将来の労働意欲の向上などの趣旨を含むものと認められる
・賞与の算定ベースとなる正職員の基本給については、勤務成績を踏まえ勤務年数に応じて昇給するものとされており、勤続年数に伴う職務遂行能力の向上に応じた職能給の性格を有するもの
・よって、基本給をベースにする賞与についても、正職員としての職能を有する人材に対し支給するものである

つまり、賞与支給の目的として、二審で示された「就労自体への対価」は否定され、最高裁判決では「使用者が想定するレベルの職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図ること」が示されたわけです。この目的に則れば、所定の職務能力を有さないアルバイト職員への不支給は「必ずしも不合理な待遇格差とは言えない」という考え方になります。

同一労働同一賃金の均衡待遇に関わる4要素を主軸に、待遇差の合理性を検討

正職員とアルバイト職員の待遇格差の合理性を示すためには、同一労働同一賃金の定義のひとつである「均衡待遇」の4要件を満たしていることを確認する必要があります。4要件とは、「業務内容」「責任」「業務内容・配置の変更範囲」「その他の事情」です。

前述の「使用者が想定するレベルの職務」は「正職員としての職務」に置き換えることができますが、正職員とアルバイト職員との職務の相違を均衡待遇の要件に照らし合わせてみましょう。

✓ 業務内容
正職員は大学や附属病院等のあらゆる業務に携わり、その業務の内容は,配置先によって異なるものの、総務、学務、病院事務等多岐に及んでいた。正職員が配置されている部署においては、定型的で簡便な作業等ではない業務が大半を占めた
✓ 責任
正職員が従事する業務の中には法人全体に影響を及ぼすような重要な施策も含まれ、業務に伴う責任は大きい
✓ 業務内容・配置の変更範囲
人材の育成や活用を目的とした人事異動として、出向や配置転換がある

一方で、アルバイト職員の業務は定型的で簡便な作業が中心であり、原則として業務命令によって他の部署に配置転換されることはなく,人事異動は例外的かつ個別的な事情によるものだったとされています。

なお、判決文には、学校にはアルバイト職員から契約職員、契約職員から正職員への試験による登用制度が設けられており、実際の登用実績もあったことも付け加えられています。この点は、前述4要件のうち、「その他の事情」に該当します。

つまり、本件の場合、賞与の支給要件が単純に正規・非正規の雇用形態によって区別されたものではなく、均衡待遇に則って定められているものと考えることができそうです。

休職給についても賞与同様、「支給目的」が争点に

一方で、休職給についても、二審では生活保障の必要性の観点から、正職員に休職給が設けられている以上、アルバイト職員に対して欠勤中(本件の場合は適応障害)の賃金を一切支給しないことは不合理とされました。

ところが、最高裁判決では、正職員に対する休職給の目的が「長期にわたり継続して就労し、又は将来にわたって継続して就労することが期待されることに照らし、正職員の生活保障を図るとともに、その雇用を維持し確保するため」であることを明らかにした上で、下記の理由から二審の判決を覆しました。

・アルバイト職員は契約期間を1年以内とし、更新される場合はあるものの、長期雇用を前提とした勤務を予定しているものとはいい難い
・よって、雇用を維持し確保することを前提とする制度の趣旨が直ちに妥当するものとはいえない

もっとも、本件の原告であるアルバイト職員は、勤務開始後2年余りで欠勤扱いとなり、欠勤期間を含む在籍期間をみても3年余りにとどまっていました。こうした事実から、アルバイト職員の勤続期間が相当の長期間に及んでいたとはいい難く、有期労働契約が当然に更新され契約期間が継続する状況にあったことをうかがわせる事情も見当たらないといった背景があります。

企業の同一労働同一賃金を考える上で、重視すべき「均衡待遇」

本件では、賞与や休職給の支給目的を争点とし、正規・非正規の就労実態を踏まえた上で、アルバイト職員への不支給の妥当性が細かく検討されました。ここでは判決の概要のみをご紹介しましたが、判決文には労働条件、職務内容、職責、配置転換など正職員とアルバイト職員の取扱いの違いが書かれていますので、さらに詳しく知りたい方はご一読いただくとより一層理解が深まるかと思います。

本判例を踏まえ、現場で検討すべきは「均衡待遇」の在り方でしょう。繰り返しになりますが、同一労働同一賃金では、正規雇用と非正規雇用の働き方や役割に相応の差異があれば、それに基づいた待遇の相違については合理性ありとされ、「業務内容」「責任」「業務内容・配置変更範囲」「その他の事情」の4要素に照らし合わせた検討が必要になります。

よって、賞与や休職給、各種手当については、

✓ 従業員に対して支給目的や対象を正しく周知すること
✓ 正規・非正規で支給の有無が異なる場合には、社内における正規・非正規の位置付けを十分に踏まえた上で、支給目的に則り、「業務内容」「責任」「業務内容・配置の変更範囲」「その他の事情」に基づいた合理的な説明ができるよう準備しておく

ことが大切です。中小企業においては、2021年4月からの適用に向けて準備を進めましょう。

参考:裁判所「令和元年(受)第1055号,第1056号 地位確認等請求事件 令和2年10月13日 第三小法廷判決

LINEで送る

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

Twitterでフォローしよう

おすすめの記事