高年齢雇用継続給付金が段階的廃止へ|今一度考えるべき高年齢者への同一労働同一賃金

現状、60歳以上65歳未満の雇用保険一般被保険者に対する賃金低下への対応として支給される高年齢雇用継続給付金が、2025年度以降、段階的に廃止の方向で検討されていることが明らかになりました。現状、有期雇用や派遣の労働者に対して適用される「同一労働同一賃金」ですが、今後は高年齢労働者の処遇に関わる検討も併せて求められることになります。

高年齢雇用継続給付金は2025年度以降半減、その後廃止の見込み

高年齢労働者に対する賃金等の処遇は、同一の会社に勤めていたとしても定年前後で見直しが行われ、個々に程度の差はあれど賃金が低下する例は珍しくありません。

このような、高年齢労働者特有の賃金引下げ問題に対応するのが、「高年齢雇用継続給付金」。高年齢雇用継続給付金は、60歳以上65歳未満の高年齢労働者が、60歳到達時点と比較して賃金が75%未満となった場合、賃金の最大15%(ただし上限額あり)までを65歳まで受け取ることのできる給付金です。

しかしながら、政府は「2025年度に60歳に到達する人から給付率を半減」、さらにその後段階的に廃止する見込みである旨を示しています。その背景には、2025年度までに、希望者全員が希望すれば65歳まで働けるようになること、さらには同一労働同一賃金の企業への浸透が見込まれること等があります。

参考:厚生労働省「第137回労働政策審議会職業安定分科会雇用保険部会資料1

高年齢雇用継続給付金の縮小廃止に伴い、急務となる「高年齢労働者の処遇改善」

高年齢雇用継続給付金が縮小され、いずれは廃止となることを受け、今後は60歳前後の賃金変動をカバーする給付に頼らない賃金制度設計が求められます。現場においては、高年齢労働者の処遇について、より慎重に検討していくことになるでしょう。

重要判例「長澤運輸事件」

定年後再雇用の高年齢労働者の処遇を考える上では、長澤運輸事件(平成30年6月1日最高裁判決)を理解することが最重要です。詳細についてここでは割愛しますが、まずは下記より判例をご確認ください。

参考:裁判所「平成29年(受)第442号 地位確認等請求事件

本件は、定年後に再雇用された嘱託乗務員3名が、

  • 仕事内容は定年以前の正社員時代と変わらないにもかかわらず、
  • 嘱託への転換後、正社員との間に不合理な賃金格差を設けられた

として訴えを起こしたものです。第1審では労働者側全面勝訴、第2審では会社側の全面勝訴となり、最高裁判決に注目が集まりました。

結果として
✓ 一部手当(精勤手当、時間外手当)の不支給については不合理であった

との判決を下し、会社に対しその支払いを命じることとなりましたが、一方で、概ねの賃金引下げについてはその趣旨や実態を鑑みて「不合理ではない」と判断しています。つまり、原則としては同一労働同一賃金の考え方に正しく則り、基本給や諸手当といった要素を個別に検討し、引き下げや不支給について合理性の有無を導き出す必要がある、ということです。

本判決を踏まえ、定年後再雇用制度の構築に際しては、

  • 定年後であることのみを理由に「年収〇%減」といった取扱いはできないこと
  • 基本給、諸手当、賞与等について、正社員との間で差を設ける場合に合理的な理由を説明できること

に留意しなければなりません。

有期雇用でなくとも、不合理な格差の設定は厳禁

改正高年齢者雇用安定法では、「定年年齢を引き上げ(65歳まで)」「65歳までの継続雇用制度を導入(原則希望者全員)」「定年制の廃止」のいずれかを導入することが事業者に課せられています。よって、継続雇用制度の導入により有期雇用となった定年後再雇用者の処遇改善を講じるべきことは、同一労働同一賃金の観点から不可欠と言えましょう。

その一方で、社会的観点から言えば、同一労働同一賃金の対象外となる高年齢労働者(非正規雇用ではない高年齢労働者)についても同一労働同一賃金を意識した処遇検討に取り組む必要があります。例えば、定年年齢の引き上げや定年制の廃止を導入した企業においても、60歳到達を機に賃金見直しを行い、不合理な賃金引き下げがされていたとすれば問題です。もちろん、職務内容や責任の程度等にも相応の変更が生じればそれに合わせた処遇決定は不可欠ですが、一概に「定年後は賃金が下がる」と考えることはできない点に注意しなければなりません。

あらゆる観点から慎重に進めるべき高年齢労働者の処遇決定、同一労働同一賃金対応は、労務管理の専門家である社会保険労務士のご活用が得策です。

LINEで送る

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

Twitterでフォローしよう

おすすめの記事