もしかして違法かも?経営者が知らないとは言えない「労働時間の定義」

法令順守への第一歩は、「労働時間の正しい定義付け」からはじまります。昨今の長時間労働問題を受け、いよいよ政府主導の働き方改革が具体的に始動します。
政策の柱はいくつかありますが、その内のひとつに掲げられている「労働時間の適正化」については、企業経営に影響を及ぼす大きな課題となるのではないでしょうか。とりわけ、個々のマンパワーに依存しがちな従業員数50名以下の中小企業においては、法令に従いたくとも現場レベルでは立ち行かないといったケースを散見します。業務見直しや効率化等、今まさに、諸々の検討に頭を悩ませる事業主も多いかもしれません。

とはいえ、一度に状況を変えようとしても、なかなか上手くいくものではありません。

労働時間適正化への取り組みの第一歩は、「労働時間の定義」を正しく認識することから。
一つひとつ、順を追ってクリアにしてまいりましょう。

労働時間は「使用者の指揮命令下にあるかどうか」の実態で判断

労働時間の考え方については、今年1月に公表された「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置 に関するガイドライン」をご一読いただくと、定義や使用者が実施すべきこと等の具体的なことについて理解を深めることができます。

参照:厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(平成29年1月20日策定)」

ガイドラインによると、“労働時間に該当するか否かは、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんによらず、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであること”とのこと。社内ルールでどうなっているか、ではなく、あくまで「実態としてどうなのか」が重要になります。

通常、会社が把握している始業から終業の時間内で、休憩時間以外を「労働時間」として把握する方法が一般的ですが、この枠に当てはまらないケースについてはもちろん個別に検討する必要があるでしょう。

“ランチミーティング”は?“電話番”は?グレー時間の考え方

「うちはそんな複雑な働き方はさせてないし、問題ないよ」という会社でも、今一度、個々の従業員にヒアリングする等して、就労状況を把握してみてください。日々の勤務の中で、労働時間かそうでないかの判断が微妙となる場面は、実はいくつも生じているかもしれません。

例えば、

  • 職場では、朝礼前に「掃除を済ませる!」が慣習に。この掃除時間は労働時間?
  • 昼の休憩時間、電話対応等のために、当番制で常にオフィスに人がいるようにしている。当番の時はデスクで昼食を済ませるけれど、お昼休憩とはいえないのでは・・・?
  • 泊まり勤務中の仮眠時間に電話応対。そもそも仮眠時間って働いているの?それとも休んでいるの?
  • ランチミーティングで、食事しながらざっくばらんな意見交換。あれ?これって本当に休憩?
  • 原則時間外労働は認められないけれど、仕事が終わらずやむを得ず残業・・・。仕事をしているのに手当が出ないってありなの?
  • 育児中の時短勤務、残業出来ないから終わらない分は持ち帰りで。自分の事情だから、手当なんてもらえない?
  • 終業後に上司が主催する研修会。出ないわけにはいかないけれど、残業ではないよね・・・

・・・等々、日常のちょっとした局面において、労働時間か否かの判断に迷う事例は想定されます。

結論として、厳密に法に照らし合わせるのであれば、「使用者の指揮命令下に置かれたもの」「事実上、参加や業務の遂行が義務付けられているもの」の場合、これらはすべて労働時間に該当します。100%自主性に委ねられているケースでない限り、暗黙の了解や無言の圧力も含め「指揮命令を受けている」と捉えられ、適切な賃金が支払われるべき例ばかりです。ただ、「ほんのちょっとの時間だから」「皆そうしているから」「今までそうだったから」といった理由で、上記は何となく労働時間外として処理されがちになっているのではないでしょうか?

「残業をなくすこと」のみに躍起になるのは大間違い

また、少し話は逸れますが、始業・終業のデータを正しく管理しているつもりでも、実態との相違があれば、やはり問題となるでしょう。例えば、記録上の出退勤時刻と、パソコンを使用していた時間やビルの入退出記録等とが大きくかけ離れていれば、その点については万が一の際に実態調査や補正が求められることになります。例えば常日頃、会社が過度に残業禁止を強いている様な場合に、使用者の意図せぬところで、仕事をこなしきれない従業員によるサービス残業が生じているケースがあるようです。

御社は大丈夫でしょうか?

長時間労働は各所で問題視されているとはいえ、会社がただ残業をなくすこと“だけ”に躍起になるのはいかがなものでしょう。労働時間を適正に把握し、その上で業務分担の見直しや業務効率化を図り、結果として時間外労働が減らされることこそ、このたびの働き方改革の柱の一つであるように思います。

ひょっとしたら御社でも、本来労働時間として認められるべき時間が黙殺されている状況があるかもしれません。労働時間の長時間化がこれだけ社会的に問題視され、政府としての取り組みが具体化されている背景を受け、働く人個々の意識も高まりつつあります。このページでご紹介した例が、現状、さほど大きな問題に発展せずに済んでいるかもしれませんが、今後どうなるかは分からないわけです。

「労働時間の適正把握」は、今すぐにでも取り組める、最も身近な労使トラブルのリスク回避策です。適切な労務管理のファーストステップとして、まずは正しい勤怠管理から始めてみてはいかがでしょうか?

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