厚生労働省より、雇用調整助成金について続報と簡素化された申請書類が4月10日に案内されました。そこで本稿では、どのように簡素化されたのか、また、解雇と雇用の維持の違い、そして、法定三帳簿について確認し、申請手続きの理解を深めましょう。
雇用調整助成金の概要については下記をご覧ください。
【参考記事】金山社労士note「雇用調整助成金の概要まとめ」
目次
申請書類の簡素化
緩和措置の詳細(続報)と合わせて、申請書類を簡素化します、ということと、支給期間(の目安)を2ヶ月からさらに1ヶ月に短縮します、という発表もありました。
申請書類についても公表されていますが、大幅に簡素化されていて、一層利用しやすくなったと思います。
様式のダウンロードは以下から
参考:厚生労働省「雇用調整助成金の様式ダウンロード(新型コロナウィルス感染症対策特例措置用)」
緊急対応期間用の雇用調整助成金ガイドブック(簡易版)は以下から
参考:厚生労働省「雇用調整助成金ガイドブック(簡易版)~雇用維持に努力される事業主の方々へ~」
緊急対応期間用ガイドブック(簡易版)、13ページにまとまっており、表現も平易で非常に読みやすいです。申請を検討される方はまずこれを読むと良いと思います。全て目を通すのにそこまで時間はかかりません。
解雇か雇用の維持かという選択
支給期間の短縮に関連して、雇用の維持という選択について、「解雇」と比較して考えてみましょう。
先日、タクシー会社がドライバーの方々を一斉に解雇した、というニュースがありました。休業手当を支給するよりも失業手当を受け取ってもらった方が従業員にとっても良い、という経営判断をした、会社が立て直しを図った際には希望者については再雇用する、という趣旨の会社発表がありました。(※本件の細かい事実関係については、別途ニュースを確認してください。)
もともとの雇用調整助成金の制度の複雑さや、支払った休業手当の全額が補填されるわけではないこと、さらに支給までの期間などを考えると、再雇用を前提に、一度解雇して失業手当を受け取ってもらった方が会社にとっても従業員にとっても良いのではないか、と考える選択肢も、経営者の方の頭の中には浮かぶものだと思います。
どちらの選択が良いのか悪いのか、というのは会社の状況にもよるし、最終的には経営者の方が責任を持って判断するところだとは思いますが、もし今回の件で検討しなければならないポイントをあげるとするならば、今回についても労働局の方が趣旨にそぐわない、とコメントしていたこともあり、「積極的に求職活動をし、いつでも就職が可能である」と言えるかどうか、非常に微妙な部分だと思います。
- 失業給付の受給要件
まず、再雇用を明言する形で解雇した場合、つまり、今回のように書面で発表した場合、再雇用を約束したとまで言えるかは解釈の余地があるのだろうと思いますが、そうした場合に解雇された期間について失業給付の受給要件を満たすのかどうか、失業給付の趣旨にそぐわないのではないかという部分。ここが解釈の余地があると思います。参考:Business Journal「ロイヤルリムジン、全乗務員一時解雇し失業保険勧める→労働局「受給資格を満たさず」」
- 再雇用の確約ではないこと
こうした事情から、失業手当を受け取ってもらうという趣旨で解雇するならば、書面などで明確に再雇用を約束しておくことはできないと考えられます。そうすると結局確約ができないため、たとえば会社の側が戻ってほしいと考えても従業員の側が転職するのは自由だし、逆に従業員側が戻ろうと考えていても、必ず再雇用されるとは言えません。ここが、雇用が維持されない、の意味するところです。 - 解雇の要件と解雇予告手続
それから、会社の都合で解雇する、つまり、整理解雇を行う場合には特に要件が厳しく求められます。加えて、解雇を行う場合には30日前までに予告する、という解雇予告の手続が必要です。その要件を満たし、手続きが適切に踏まれているかどうか。
こうした点がポイントになってくると考えられます。
整理解雇の要件や解雇手続については、【参考記事】金山社労士note「シルク・ド・ソレイユのレイオフと日本における整理解雇の4要件」で触れたので、参考にしていただければと思います。
そういう難しさもあって、政府としてはなんとかして雇用の維持を図ってほしいという趣旨で、今回、もともとアナウンスされていた雇用調整助成金の要件緩和に加え、「申請書類の簡素化」と「支給期間の短縮」を発表したと考えられます。
助成金の計算式には上限額が設けられているため、助成金額が実際に支払う休業手当の額よりも小さく、会社側の持ち出しが発生するなど、そういう面は当然あるかもしれませんが、少なくとも、支給期間の短縮という面を見れば、雇用の維持を図る選択をしやすくはなったのかなと思います。
書式についてもかなりシンプルになって、計算式が組み込まれたエクセルシートだとかになっているので、相当記入しやすくなっています。
様式のダウンロードは以下から
参考:厚生労働省「雇用調整助成金の様式ダウンロード(新型コロナウィルス感染症対策特例措置用)」
雇用保険被保険者以外の従業員は「緊急雇用安定助成金」が対象に
今回の4月1日〜緊急対応期間について大きな特徴が、雇用保険被保険者以外の方も対象になったことです。つまり、アルバイト・パートの方、それから学生の方も対象です。それらの方は厳密に言うと別立てで、「緊急雇用安定助成金」の対象となります。そのため、様式も「雇用保険被保険者」の分と分かれています。
出典:厚生労働省「雇用調整助成金の様式ダウンロード(新型コロナウィルス感染症対策特例措置用)」
そうした理由から助成率の計算式も異なっています。雇用保険被保険者以外の方については、「休業手当に相当する額×助成率」で計算します。助成率自体は同じですが、計算式は違って、計算の対象も分かれています、という整理になります。
上の図(雇用調整助成金助成額算定書)が、雇用保険被保険者を対象にした計算式、下の図(緊急雇用安定助成金助成額算定書)が、それ以外の方を対象にした計算式です。
出典:厚生労働省「雇用調整助成金の様式ダウンロード(新型コロナウィルス感染症対策特例措置用)」
原則の計算式についての考え方は【参考記事】「雇用調整助成金とは?|助成要件や支給額計算の仕組みや申請方法を徹底解説(申請書類付き)」も参考にしてください。
添付書類も簡略化されていて、既存の書類でも対応しやすくなっています。例えば、元々の労働日と休業させた日の実績を確認するための書類として出勤簿が必要ですが、今回は手書きのシフト表などでも良いとされています。
また、元々の給与額と休業手当の支払い実績を比較確認するための書類として賃金台帳が必要ですが、それも今回は、給与明細の写しなどでも良い、とされています。
出典:厚生労働省「雇用調整助成金ガイドブック(簡易版)~雇用維持に努力される事業主の方々へ~」
それに加えて、就業規則や給与規定(10名未満の事業所の場合には、雇用契約書や労働条件通知書の写しなどでも可)によって、労働日や労働時間、給与の構成(基本給と通勤手当、とか)などを確認することになります。
出典:厚生労働省「雇用調整助成金ガイドブック(簡易版)~雇用維持に努力される事業主の方々へ~」
なお、ちなみに、事業所の規模、大企業なのか中小企業なのかで助成率が変わりますが、それを確認するための書類についても労働者名簿で良いとされています。中小企業か大企業かというのは、資本金要件と従業員数要件のいずれかを満たしていれば良い、という形で、例えば飲食店であれば資本金5000万円以下または従業員数50人以下、のどちらかに当たれば中小企業です、という判断をします。
出典:厚生労働省「雇用調整助成金ガイドブック(簡易版)~雇用維持に努力される事業主の方々へ~」
なお、この従業員数というのは、2ヶ月を超えて使用されるものであり、かつ、週労働時間が通常の労働者と概ね同等であるもの、週5日フルタイムとすると週40時間程度、であるものをいう、とされています。
労働基準法における定義と少し違うので注意が必要かもしれません。
出典:厚生労働省「共通要領」
法定三帳簿&雇用契約書を整える機会に
今回、要件が緩和されて、添付書類も既存のもので対応できるようになりました。だからこそ、法定三帳簿(労働基準法で定める三つの帳簿、具体的には、賃金台帳、出勤簿、労働者名簿を言います)、それに加えて、雇用契約書、これを整えておくことが今こそ大切だと思います。
助成金というのは適正な労務管理が前提にあり、申請の要件として、必要書類を「整備」し、「労働局に提出」し、「保管しておいて提出を求められたらすみやかに提出」する、というのが共通の要件の一つです。それから、労働局の実地調査を受け入れることにも同意する必要があります。
出典:厚生労働省「雇用調整助成金ガイドブック(簡易版)~雇用維持に努力される事業主の方々へ~」
この先、どこかの時点で従業員の方を休業させるかどうか、という選択肢に直面する可能性がある企業が多いと思うので、会社を守るために、まずは今のタイミングで必要な書類が揃っているのか見直すことが非常に大切です。
法定三帳簿はいずれも必要記載事項が書かれていれば様式は問わないものなので、何を書いていなければならないか、というポイントを押さえれば整えられるものです。そこで、項目を確認してみましょう。
- 賃金台帳
賃金台帳については8つ。氏名、性別、賃金計算期間、労働日数、労働時間数、時間外労働・休日労働・深夜労働時間数、基本給と手当額、控除額。 - 出勤簿
出勤簿に付随して、労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドラインというものが設けられています。大まかに言うと会社は労働者の始業と終業の時間を適正に把握してください、というものです。参考:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」
労働者の出退勤時刻を目で見て確認する(現認)か、あるいは、タイムカードやPCの記録で客観的に把握するのが原則として望ましい、とされています。労働者の自己申告によって勤怠を管理する場合には、自己申告が適切になされるような措置をとってくださいと。例えば、自己申告されたものとビルの入退館記録などに著しいギャップがある場合には、おそらく自己申告の方が正しくないのでそれを正しく直してください、とか。あとは自己申告に関する上限を設けない(50時間までしか申告するな、としてしまうと、実際に100時間の残業があっても正しく申告できない)など、といったことがガイドラインに書かれています。
出勤簿には、氏名、出勤日、始業と終業の時刻、休憩時間、を記載します。 - 労働者名簿
労働者名簿には、氏名、生年月日、入社からの部署の履歴、性別、住所、従業員数が30名以上の会社の場合は従事する業務の種類、雇い入れの年月日、退職の年月日とその理由、解雇の場合はその事由もあわせて、あるいは死亡の場合はその年月日とその原因。
いずれも完了の日から3年間保存です。全て違反した場合には30万円以下の罰金の対象にもなります。
まとめ_適正な労務管理を
長くなりましたが、書類の整備が大前提として必要だということ、それから、会社も労働者も皆大変な時期なので、だからこそ会社と労働者との間の信頼関係が一層重要になると思います。
信頼関係の前提は適正な労務管理です。必要な事項が書かれていれば様式は問われないので、この機会に、ハードルを下げて取り組んではいかがでしょうか。
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本記事は金山社労士のnoteより転載させていただきました。
【転載記事】雇用調整助成金の緩和措置の詳細と法定三帳簿