厚生労働省による「過重労働解消キャンペーン」開催中!従業員50名以下でも選任が必要な「衛生推進者」とは?

平成26年から毎年11月に実施されてきた厚生労働省による「過重労働解消キャンペーン」が今年も実施されます。
[厚生労働省]「過重労働解消キャンペーン」を11月に実施します。

長時間労働が疑われる企業に対して重点的に実施されるこの取組みの平成28年度の結果が今年3月に公表されていますが、重点監督の実施対象となった約7,000の事業場の75%にあたる5,300近くの事業場が、過重労働による健康障害防止措置が不十分なために何らかの改善指導を受けています。

従業員の健康管理に対する企業側の認識の甘さが浮き彫りになった結果ですが、労働基準監督署(以下、労基署)による臨検では、残業時間の違法に係る部分だけがチェックされるのではなく、労働者の健康管理に関する部分もチェックされます。

今回は、企業に求められる「安全衛生管理体制」を取り上げます。労働者の健康管理への対応もきちんと法律で求められていて、企業の人事労務担当者は必ず把握しておく必要があります。

企業は「安全配慮義務」を負っている

「安全配慮義務」という言葉を、皆さんもどこかで耳にしたことがあるかもしれません。企業は従業員と雇用契約を結んでいますが、単に従業員に給与を支払えばよいわけでなく、従業員の安全と健康を守る義務も負っています。これが「安全配慮義務」です。

 従業員に長時間の過重労働をさせたり、劣悪な就業環境で労働を強いた結果、従業員の安全や健康が損なわれた場合、会社は安全配慮義務を怠ったとして損害賠償責任を問われることもあるのです(※)。

ここ数年、違法な長時間労働による過労死の問題など、大企業でさえ安全配慮義務を怠っている事例も目立ってきています。あらためて経営層からこの義務の重要性を認識し、これからお伝えする「労働安全衛生法」などの法令を遵守する姿勢が求められてきています。

    ※安全配慮義務には、従業員の身体だけでなく「心の健康」も含まれます

労働安全衛生法とは?

平成28年の過重労働解消キャンペーンの結果、多くの事業場が、過重労働による健康障害防止措置が不十分なことによる改善指導を受けたことは先に述べたとおりです。

具体的には、法律で義務付けられている健康診断が実施できていなかったり、一定規模の企業が備えるべき安全衛生管理体制が備わっていない(例えば、常時50人以上の労働者を使用している場合、産業医や衛生管理者を選任する必要があるが、できていない)といった理由で指導されているケースがあります。

労働安全衛生法(以下、安衛法:あんえいほう)」は、職場における労働者の安全と健康の確保のため、労働災害の防止に関する事項を定めるとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的とする法律です。

安衛法では、こうした目的を達成するために、事業場ごとに安全衛生管理体制を確立すること、作業現場などで使う機械等への規制、健康診断など健康管理に関する措置の実施を義務付けています。労働条件の最低基準を定めた労働基準法(以下、労基法)とはセットで見なされ、臨検では労基法だけでなく安衛法にも違反が無いかがチェックされるのです。

安全衛生管理体制の確立とは?

安衛法では、業種や規模などに応じて、衛生管理者や産業医などの選任、衛生委員会などの組織の設置が義務付けられています。

建設業や港湾運送業、鉄鋼業といった、機械や器具などを使い危険で有害な作業を必要とする業種では、安全衛生のうち「安全」を専門とする「安全管理者」の選任や、「安全委員会」の設置が義務付けられていますが、今回は特に、全ての業種に共通する衛生管理の分野について見ていきましょう。選任すべき「管理者」

① 総括安全衛生管理者

「産業医」や「衛生管理者」に比べると聞き慣れないかもしれませんが、建設業や製造業などの一部業種を除く全ての業種では、常時1,000人以上の労働者を使用する場合、総括安全衛生管理者を必ず選任しなければならないのです(※)。

総括安全衛生管理者となるための特別な経験や資格は必要ありませんが、安全管理者や衛生管理者を指揮し、安全衛生に関する業務を統括管理しなければならないため、誰を専任してもよいというのではなく、事業場で責任のある立場の方をあてる必要があります。

統括安全衛生管理者を選任した場合は所轄の労基署に届出る必要があります。

  • 林業、建設業、運送業等では100人以上、製造業や小売業では300人以上の労働者を使用する場合、選任が必要です

② 衛生管理者

業種に関わらず、常時使用する労働者が50人以上の事業場ごとに、事業場の規模に応じて、決められた人数の衛生管理者の選任が必要です(下の表参照)

衛生管理者は、事業場での衛生に関する技術的事項を担当し、少なくとも毎週1回、事業場を巡視する義務があります

衛生管理者の資格は、衛生管理者の免許を受けた人や医師など一定の要件を満たした人たちの中から、原則としてその事業場に専属で選任しなければなりません。選任した場合、労基署への届出が必要で、選任したことを職場内に周知する必要があります。

③ 産業医

長時間労働者への面接指導やストレスチェックの実施などで、今まで以上に大きな役割を期待されているのが産業医です。衛生管理者と同じく、業種に関わらず常時使用する労働者が50人以上の事業場ごとに選任が必要です。

産業医の役割は多岐にわたり、健康診断の実施や就業環境の維持管理といった従来の役割以外にも、長時間労働者への面接指導やストレスチェックの実施やストレスチェック後の面接指導の実施など、近年の長時間労働・過重労働の問題に対応するために産業医に求められる役割が広がり、かつ大きくなっています。

産業医には、少なくとも毎月1回、事業場の巡視義務があり(※)、必要な場合には事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができます

産業「医」なので、当然医師である必要があり、さらに労働者の健康管理等を行うのに必要な一定の要件を備えていなければなりません。産業医の選任については、所轄労基署への届出が必要です

●一定の要件を満たす場合は、巡視の頻度は2ヶ月に1回でかまいません

④ 衛生推進者

意外に知られていませんが、労働者が50人未満の場合でも、この衛生推進者の選任は必要です。

常時使用する労働者の数が10人以上50人未満の場合に選任が必要で、選任についての届出は不要ですが、職場での周知義務があります。一定の要件を満たした人を、その事業場に専属で選任しなければなりません。衛生推進者は、職場における衛生に関する事項を担当します。

以上が、どの業種にも共通して選任すべき、衛生管理面の責任者になります。いずれも、選任すべき事由が発生してから14日以内に選任する必要があります。また、選任する上での人数規模は企業単位ではなく事業場単位なので、事業場の労働者が常態として50人に達していれば、産業医や衛生管理者を選任しなければなりませんし、就業規則を届出るべき10人以上の事業場は、衛生推進者を選任しなければならないのです。

設置すべき「組織」 ー 衛生委員会

衛生委員会とは?

産業医と衛生管理者を選任しなければならない50人以上の事業場については、衛生委員会を設置する必要があります。事業者が指名する産業医や衛生管理者をメンバーに加えなければなりませんが、委員の半数以上は労働組合や従業員代表者からの推薦に基づいて指名する必要があります。

衛生委員会は、①労働者の健康障害防止のための基本対策に関すること、②労働者の健康の保持増進のための基本対策に関すること、③労働災害の原因・再発防止対策で、衛生に関すること等を調査審議し、事業者に対し意見を述べます。

毎月1回以上開催し、議事録の作成が必要となります。また、衛生委員会の開催にかかる時間は労働時間とされ、委員会が法定労働時間外に行われた場合には、割増賃金を支払わなくてはなりませんので注意が必要です。衛生委員会の設置に関しては、届出る必要はありません。

臨検でチェックされる項目

平成28年の「過重労働解消キャンペーン」の監督指導事例では、50人以上を使用しているにもかかわらず、衛生委員会や産業医が選任されておらず、衛生委員会が設置できていないことで安衛法違反を指摘され、是正勧告を受けた事業所の例が挙げられていました。

是正勧告を受けた場合は、速やかに改善をしなければなりません。事業場の規模に応じ、どの管理者を選任し、どの組織を設置しておく必要があるのかを把握し、選任する資格を備えた人物かどうかをきちんと確認し、選任した場合に届出が必要ならその届出を忘れずに行うようにしましょう。

また、健康診断や長時間労働に関する医師の面接指導等の未実施も、安衛法違反として指導の対象となります。実施結果の記録となる定期健康診断結果報告書や長時間労働者への面接指導の結果の記録の有無は、臨検時のチェック項目になります。管理体制の整備だけでなく、これらの項目についても法令違反が無いかチェックしておきましょう。

まとめ_過重労働解消キャンペーンへの対策

企業に課せられた「安全配慮義務」を経営レベルから認識し、安衛法で求められる衛生管理体制をまずはきちんと確立しましょう。

産業医や衛生管理者の選任義務がない50人未満の事業場でも、従業員の健康管理に十分に配慮した取組みが求められることは安全配慮義務の点から当然といえます。

従業員の衛生管理に十分なリソースを割くことが難しい中小規模の企業にとっては、各地の地域の産業保健センターを活用することで、無料で長時間労働者などへの面接指導を実施できます。上手に活用して従業員が安心して働ける職場作りを進めていきましょう。

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