同一労働同一賃金関連の最高裁判決でカギとなった「正規雇用転換制度の有無・実績」。非正規労働者を雇用する現場での必要な体制整備とは?

企業における同一労働同一賃金対応に大きな影響を与えることとなった大阪医科薬科大学事件、メトロコマース事件の最高裁判決においては、いずれも、非正規労働者に対して「正規雇用等への転換制度が設けられており、実際の転換実績もあった」ことが「その他の事情」として重視されました。

契約社員やパート・アルバイトを雇用する企業においては、非正規労働者へのキャリアアップ体制が整っているでしょうか?現場で必要な体制整備について考えてみましょう。

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「通常の労働者への転換」に関わる措置を講じることは事業主の義務に

パートやアルバイトから正社員に転換できる会社というと、「ごく一部の限られた現場」と考える方も少なくないかもしれません。ところが、大企業では2020年4月1日、中小企業でも2021年4月1日より適用の同一労働同一賃金に伴う改正パートタイム・有期雇用労働法には、第13条として下記の通り定められています。

事業主は、通常の労働者への転換を推進するため、その雇用する短時間・有期雇用労働者について、次のいずれかの措置を講じなければならない。

① 通常の労働者を募集する場合、その募集内容を既に雇っている短時間・有期雇用労働者に周知する。
② 通常の労働者のポストを社内公募する場合、既に雇っている短時間・有期雇用労働者にも応募の機会を与える。
③ 短時間・有期雇用労働者が通常の労働者へ転換するための試験制度を設ける。

現状、契約社員やパート・アルバイトといった非正規雇用者に対する正規雇用等への転換推進を行っていない事業主様は、早急に体制整備に着手する必要があります。

「通常の労働者=正社員」ではありません

さて、ここで一つ疑問となってくるのが「通常の労働者」の定義ではないでしょうか?

「通常の労働者」とは、パートタイム・有期雇用労働法では「いわゆる正社員を含む無期雇用フルタイムの労働者」としています。つまり、必ずしも正社員である必要はなく、幅広く、雇用期間を定めないフルタイム勤務の労働者への転換を推進すればよいということになります。

もしくは、「短時間正社員」への転換措置を講ずることでも法の趣旨に合った取り組みに該当しますが、その場合には、短時間正社員への転換後に「正規型のフルタイムの労働者」に転換できる制度を設けるのが望ましいとされています。

正社員とは別に無期雇用フルタイム労働者・短時間正社員等を設ける場合は注意が必要です

ただし、正社員とは別に無期雇用フルタイム労働者や短時間正社員等の異なる雇用形態を設ける場合、人事制度上、職務や賃金等の処遇面や想定するキャリアパス等の観点から、正社員と無期雇用フルタイム労働者・短時間正社員等との取り扱いの違いを明らかにしておく必要があるでしょう。

必ずしも、通常の労働者への転換をしなければならないわけではありません

また、事業主様の義務としてはあくまで「通常の労働者への転換を推進すること」にとどまります。よって、必ずしも非正規雇用の労働者を正社員等にしなければならないというわけではありません。個々の希望、適性や能力等を総合的に判断し、適切な人材を通常の労働者へと転換できれば問題ありません。

しかしながら、「一応制度だけはあるが、長期間転換実績なし」ということでは、やはり制度運用の実態が問題視されかねません。現場においては、形だけの対応ではなく、意味のある制度設計に取り組む必要があります。

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