あなたの会社にはサービス残業はありませんか?
サービス残業を許さない世論の強まりや、働く人の権利意識の向上により、昨今、あからさまなサービス残業を強要したり、サービス残業を見て見ぬふりをしたりする企業は減ったという印象です。
しかしながら、昔からの労使慣習で大丈夫だと思っていたことや、「まさかこれも残業になるなんて」と寝耳に水なことで、未払い残業が発生してしまっているというケースが存在します。
そのようなケースに対し、会社はどのような対策を取れば良いのでしょうか。
本稿では「よくある話」を具体例を挙げながら、説明をしていきたいと思います。
着替えの時間に関わる未払い残業防止策
工場で作業服に着替えなければならない場合や、オフィスで制服の着用が義務付けられている場合など、業務を行うにあたって着替えが必須ということであれば着替えは労働時間として扱わなければなりません。
それにも関わらず、着替えを終えた後にタイムカードを打刻すというルールになっている会社は、未払い残業が発生してしまっていることになります。
正攻法で考えると始業時刻後に一斉に着替えを開始するものですが、更衣室の広さや作業場所からの距離などを考えると、現実的ではないでしょう。しかし着替えの前にタイムカードを打刻することとした場合、余分な賃金が発生する可能性があります。例えば遅刻をしないよう早めに会社に来ている人の着替え後の時間や、化粧直しや雑談などをしながら時間をかけて着替えをする人などの場合です。
現実的な対応としては、「更衣手当」を支払うという方法が考えられます。例えば通常着替えに必要な時間が長く見ても10分とすれば、その時間内に着替えを終わらせるよう就業規則等で明示した上で、始業前・終業後を合わせて20分間相当の賃金額に、その月の出勤日数を乗じた金額を「手当」 とするのです。あるいは基本給の中に、更衣手当に相当する「みなし残業手当」を組み込むという方法も成り立つでしょう。
朝礼・掃除に関わる未払い残業防止策
正規の始業時刻の前に朝礼や掃除を行っている会社もあると思います。
朝礼や掃除を業務命令として行わせている場合はもちろん、明示的な業務命令が無くとも事実上朝礼や掃除に参加をしなければならない場合については、それは労働時間として扱わなければなりません。参加をしなければ人事考課上の不利益があるといった場合なども同様です。
やはり、始業時刻後に朝礼や掃除を行うようにすることが合法的な対応です。何らかのやむを得ない事情があり、朝礼や掃除を始業時刻後に行うことが難しい場合は、先ほどの「更衣手当」と同じ考え方で、朝礼や掃除にかかる時間と出勤日数を踏まえ「朝礼手当」や「掃除手当」を支払うようにすべきでしょう。
なお掃除であれば、社外業者にアウトソーシングをするという選択肢も考えられます。掃除もコストはタダではないのです。「新入社員だったら早く出社して無償奉仕で掃除をするのが当然」といったような、年功序列や徒弟制度的な古い考え方は捨てなければ、それが労務リスクに直結する時代になったことを会社は認識しなければなりません。
昼休みに関わる未払い残業防止策
昼休みも未払い残業発生の温床となっていることがあります。
就業規則や雇用契約書で昼休みは12時から13時の1時間としている会社が多いと思いますが、昼休みが労働基準法上の休憩時間と認められるためには、労働から完全に開放されていることが必要です。
たとえば当番制で昼休みに電話番をさせているとか、来客があった場合は対応が求められているといったような、労働から完全に開放されていない場合は合法的とは言えません。
このような電話番付きや来客対応付きの昼休みは、労働基準法上は休憩時間ではなく、労働時間に含まれる「手待ち時間」に該当します。ですから、こういった「手待ち時間」を事実上休憩として扱っている会社は、日々未払い残業が発生してしまっているということになります。
なお労働基準法では、1日の労働時間が6時間を超える場合には45分以上、1日の労働時間が8時間を超える場合は1時間の休憩時間を絶対的に付与しなければなりません。休憩時間は残業代を支払っても買い取ることはできませんので、手待ち時間を休憩時間としている会社はこの点でも違法行為を行ってしまっているということになります。
具体的な対策ですが、まずは交代制で休憩を取るようにすることが考えられるでしょう。それが難しければ、昼休みの時間は電話受付の対象時間外とすることも検討できます。電話が鳴ると気になってしまうという場合は「只今の時間は電話受付の時間外です。13時以降におかけ直しください」という自動メッセージが流れるように電話機を設定するのも一手でしょう。
どうしても昼休み中も電話対応が必要な場合は、労働基準法を遵守するための次のような対応をとるしかありません。休憩や労働時間に関する規定が適用除外となる「管理監督者」や、そもそも労働者扱いではない「役員」が電話対応をすることです。
一般社員がやむなく電話を取ってしまった場合は、昼休みを延長するか、別途休憩時間を与えて正味1時間の休憩を取得できるようにしましょう。どうしても別途の休憩を与えられなかった場合は、休憩時間付与義務に対しての違法は残りますが、次善の策として取得できなかった休憩時間数に対応する残業代を支払うようにすべきです。
退社時に関わる未払い残業防止策
残業代は1分単位で支払わなければなりませんので、定時ピッタリに業務が終わらず定時を過ぎて業務を行った場合は、わずかな時間であっても残業代を支払わなければなりません。実務上行われている「10分まるめ」や「15分まるめ」は、切り上げならば合法ですが、切り捨ての場合は違法となります。
とはいえ、たとえば定時が18時だとしたら、毎日定時ピッタリに業務を終了させるのは難しいでしょう。そこで現実的に考えられる策としては、「退社時間帯の設定」か「みなし残業手当の活用」です。
それぞれ解説します。
まず「退社時間帯の設定」についてです。
例えば18時が定時ならば、17時45分から業務が終わった人から順に退社開始を認め18時までに完全退社するという、退社時間に幅を持たせるという制度です。17時45分以降の退社であれば、給与計算上は早退控除されないし、勤怠管理上も所定労働時間正常に勤務したとみなされます。17時45分から退社準備を開始するのを認めることで、18時ちょうどにバタバタ退社をしようとして数分間の微妙な未払い残業が発生してしまうのを防ぐことができます。
次に「みなし残業手当の活用」です。
こちらは逆に、18時から18時15分までを退社時間帯にするという考え方です。定時は18時なので18時以降は1分単位で残業代の対象になりますが、15分のみなし残業代をあらかじめ固定給に組み込んでおくことで、18時15分までに退社すれば未払い残業代が発生しないという実務運用が可能になります。
未払い残業防止策は完璧?未払いを発生させないための工夫を!
残業時間の細かい部分の切り捨てやごまかしは、かつては暗黙のルールにあったかもしれません。何となく曖昧なままにしておくことが通用していた節もあるでしょう。
しかしこれからの時代は、完全に合法なやり方にシフトしていかなければなりません。いつ労基署の調査があったり、労働組合から団体交渉を持ちかけられたり訴訟を起こされたりしてもおかしくないからです。
民法の改正に伴い、未払い残業代の時効も5年に延長される見通しです。社員数が多ければ1人あたりの未払い残業代が少額であったとしても、総額では経営にとって大きなインパクトを与えるほどに膨らむ恐れもあります。
リスク管理の一環として、細かいところまで気を配りながら未払い残業代を発生させないようにしていきたいものです。