社労士監修|産休期間前の女性社員が利用できる法的制度とは

私事で恐縮ですが、筆者の妻は現在妊娠しています。直近では妊娠5か月に入り、体調が安定してきたようですが、妊娠初期はつわりもひどく、とても心配でした。

筆者は、出産直前の女性は産前6週間(多胎妊娠の場合は8週間)の産前休暇を取得できることは知っていました。

しかし、個人差はあると思うのですが、自分の妻が妊娠をしたことで、妊娠初期においても、つわりや、ホルモンバランスの変化による体調不良など、その大変さを実感しました。

仕事を持っている女性は、そのような、つわりや体調不良もある中でも、産前休暇の時期がくるまでは原則として就労をする義務があります。

そこで、本稿では、産前休暇に入る前の時期に、妊娠をしている女性が利用することのできる法定制度を取りまとめて紹介したいと思います。

働く女性1人1人が知識として身につけるとともに、企業の経営者や人事労務担当者の立場の方も、コンプライアンスや福利厚生の充実のため、是非とも知っておいてください。

傷病手当金|妊娠期間中でも利用可能

怪我や病気で働くことができなくなったときに、健康保険の傷病手当金を利用することができるのは広く知られています。傷病手当金を利用すると、最大で1年半、もとの給与の約3分の2の所得補償を受けることができます。

実は、この傷病手当金は、妊娠をしている女性も利用することができる場合があります

つわりがひどくて就労が難しかったり、切迫流産の危険があって安静にしていなければならないと医師が判断した場合には、傷病手当金の申請が可能となります。

医師が労務不能と判断したときから、産前6週間(多胎妊娠の場合は産前8週間)までは傷病手当金を受給し、その後は産前休暇として出産手当金の受給に移行する流れとなります。

なお、上記の場合であっても、社会保険料の免除を受けることができるのは、産前休暇に入った以降の期間のみですので、その点はご注意ください。

母性健康管理のための休暇等

妊娠をしている女性は、定期的に産婦人科で検査や健康診断等を受けなければなりません。男女雇用機会均等法では、妊娠中の女性社員が、産前休暇に入るまでは、仕事と妊娠を無理なく両立できるよう、いくつかの制度が定められています。必ず押さえておきたいのは、同法の第12条と第13条です。

男女雇用機会均等法の第12条 健康診断の時間の確保

まず、男女雇用機会均等法の第12条には次のように定められています。

事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、その雇用する女性労働者が母子保健法の規定による保健指導又は健康診査を受けるために必要な時間を確保することができるようにしなければならない。

「必要な時間を確保」の具体的な基準については、厚生労働省令により、次のような頻度で、通院をするための時間を取ることができるとされています。

妊娠23週まで・・・・・・・・・・4週に1回
妊娠24週から35週まで・・・・・・2週に1回
妊娠36週から出産まで・・・・・・1週に1回

なお、医師又は助産師が上記と異なる指示をしたとは、その指示の内容が優先され、医師や助産師が必要とした時間を確保することができます。

男女雇用機会均等法の第13条第1項 勤務の軽減

次に、男女雇用機会均等法第13条第1項には次のように定められています。

事業主は、その雇用する女性労働者が前条の保健指導又は健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするため、勤務時間の変更、勤務の軽減等必要な措置を講じなければならない

「必要な措置」の具体的な基準は、厚生労働省の「妊娠中及び出産後の女性労働者が保健指導又は健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針」によって、次のように示されています。

①妊娠中の通勤緩和(時差通勤、勤務時間の短縮等)
②妊娠中の休憩に関する措置(休憩時間の延長、休憩の回数の増加等)
③妊娠中又は出産後の症状等に対応する措置(作業の制限、勤務時間の短縮、休業等)

これらの措置は、会社の制度として必ず設けなければならないということまでは求められていませんが、妊娠をしている女性社員からの申出に応じて、必要となる措置を適宜講じることは会社の法的義務となります。

軽易な作業への配置転換

妊娠中の女性社員は、軽易な作業への職務変更を会社に申し出ることができます。その根拠は、労働基準法第65条第3項で、次のように定められています。

使用者は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない

会社は、軽易な業務がない場合、新たに軽易な業務を無理やり創設するまでの義務はありません。しかし、軽易な業務がない場合であっても、現在の業務の中から重労働となる部分を外したり、仕事全体のボリュームを減らすなど、工夫の余地はあるはずですので、前述した男女雇用機会均等法第13条第1項と相まって、可能な限り、妊娠中の女性社員に負担がかからない職場環境を作る法的義務はあると言うことができます。

妊娠を理由とした解雇を禁止|解雇の無効化

妊娠中の女性社員を、妊娠していることのみをもって解雇することはできません。

条文が長いのでここでは引用しませんが、男女雇用機会均等法第9条では、妊娠を理由とした解雇を禁止するとともに、妊娠中および産後1年以内になされた解雇は、別段の事情があることを会社が証明しない限り、解雇は無効になると定めています。

ひと昔前であれば、結婚や妊娠を機会に退職するということも珍しくありませんでしたが、現在は、共働きが当然の時代になり、産前産後休業や育児休業を取得して職場復帰することは、女性社員の当然の権利です。

妊娠を理由とした退職勧奨は当然断ることができますし、万が一、妊娠を理由として解雇をされた場合は、労働基準監督署に相談をしたり、裁判で解雇無効を主張することができるということです。

まとめ

このように、妊娠中の女性が安心して無理なく仕事を続けられるよう、様々な制度が設けられています。必要に応じて是非活用してください。

また、会社の経営者や人事労務担当者の方は、現在は人手不足の時代ですから、妊娠した女性社員が安心して産前休暇前の勤務や、出産後も職場復帰をできるように支援したり、他の女性社員が「この会社では出産や育児は無理そうだ」と、愛想をつかして転職をしてしまったりしないよう、妊娠中の女性社員へのサポートをしっかりと行っていきたいものです。

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