【2020民法改正】採用時の『身元保証契約』に関わる見直しが必要です

2020年4月に予定される民法改正は、企業における労務管理にも少なからず影響を及ぼしますが、そのひとつに「身元保証」への影響が挙げられます。現状、入社時に身元保証人を求める企業も多いことと思いますが、このたびの民法改正に伴い、その必要性や目的を改めて見直す必要が生じることになりそうです。

民法改正で身元保証はどう変わる?

2020年4月より、「保証」に関わる民法の規定が大きく変わります。具体的には「個人保証人の保護強化」を目的に、極度額(上限額)の定めのない個人の根保証契約※は無効とされることになります。

※根保証契約:一定の範囲に属する不特定の債務について保証する契約。つまり、保証人となる時点では現実にどれだけの債務が発生するのかが明確ではない等、どれだけの金額の債務を保証するのかが分からないケースを指す。

入社時の身元保証契約は、従業員が会社に損害を与えた場合に本人と連帯してその賠償を行うという契約(連帯保証)ですから、今後は賠償の極度額(上限額)を定めておかなければならないこととされます。

入社時の身元保証契約 極度額(上限額)はどう決める?

とはいえ、賠償の上限について仮に会社が「1億円」等と定めて身元保証書に明記すれば、採用時の保証人選定を困難にさせることにもなりかねませんし、額としても現実的ではありません。そもそも、万が一の際の賠償額は会社側が決めるのではなく、企業側に過失が無かったか、身元保証人が保証を引き受けた理由と実際に注意を払えた程度、本人の仕事の変化など一切の事情を踏まえて、裁判所が決定するものとされています。身元保証契約締結時に、具体的な金額の定めをすること自体が不可能です。
それではどうすれば良いか、この点については今後現場で検討すべき事項ですが、一例として「被用者に支払われる給与額を考慮した上限(目安として「月給の36ヵ月分」など)」を定めた上で、「裁判所が決定する額」としておく方法があります。

改めて、社内における「身元保証人制度」の在り方を考える

現状、御社における「身元保証人制度」は機能しているでしょうか?入社時に身元保証人を立ててもらっているが「実際に賠償請求した実績がない」「念のため、一応、といった位置付け」等、制度自体が形骸化している事例は珍しくありません。このようなケースでは、このたびの改正民法対応の一環として、改めて身元保証制度の在り方自体を見直してみるべきです。そもそも本当に必要な制度なのか、身元保証人に何を求めるか等を明らかにすることで、実態に即した制度構築につなげることができるでしょう。

身元保証契約の見直し時には「身元保証ニ関スル法律」を要確認

身元保証人について規定した「身元保証ニ関スル法律」では、身元保証人保護を目的に、保証人の責任範囲を明確に定めています。企業における身元保証人制度を考える上で必要な知識となりますので、確認しておきましょう。以下に概要を記します。

✓ 期間の定めのない身元保証契約は、原則、成立の日より3年間のみ有効。
✓ 身元保証契約の期間は、5年を超えることはできない。
これより長い期間を定めたときは5年に短縮される(更新時も同様)。
✓ 身元保証人は前条の通知を受けたとき、もしくは身元保証人自体が
  前条の事実を知ったとき将来に向けて契約の解除をすることができる。
✓ 裁判所は、身元保証人の損害賠償の責任及びその金額を定めるとき、
  被用者の監督に関する使用者の過失の有無、身元保証人が
  身元保証をするに至った事由及びそれをするときにした注意の程度、
  被用者の任務または身上の変化、その他一切の事情を踏まえる
✓ 本法の規定に反する特約で身元保証人に不利益なものは、
  すべてこれを無効とする。
✓ 使用者は、左の場合においては、遅滞なく身元保証人に
  通知しなければならない。

  • 被用者に業務上不適任または不誠実な事跡があって、
    このために身元保証人の責任の問題を引き起こす
    おそれがあることを知ったとき
  • 被用者の任務または任地を変更し、このために身元保証人の
    責任を加えて重くし、またはその監督を困難にするとき

参考:WIKISOURCE「身元保証ニ関スル法律

身元保証契約については、これまで慣例的に取り交わされてきた部分もあるかと思います。今一度その必要性、意義を見直し、意味のあるものとして機能するよう考えてまいりましょう。

LINEで送る

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

Twitterでフォローしよう

おすすめの記事