寒さが厳しくなり、インフルエンザが流行する季節となりました。実務上、インフルエンザにかかって欠勤をしたり、会社が出勤停止命令を出した従業員に関する勤怠処理について問い合わせを受ける機会が多いので、本稿では、ケース別に整理して解説をしたいと思います。
目次
従業員から欠勤の申出があった場合
従業員から「インフルエンザにかかったので会社を休みたい」という申し出が合った場合には、通常の風邪などの場合と同様、単純に欠勤の扱いにすれば問題ありません。
従業員が有給休暇の残日数を持っていれば、従業員からの申請があった場合は有給休暇として扱うことももちろん可能です。ただし、会社が従業員の申請がないにも関わらず、勝手に有給休暇として処理することは違法となりますのでご注意ください。
なお、もし就業規則に「病気休暇」や「インフルエンザ休暇」などの規定があり、当該規定に基づいて従業員が休暇を申請してきた場合は、就業規則のルールに沿って、休暇申請を受理し、有給扱いになるか無給扱いになるかを判断してください。
会社が出勤停止を命じた場合
会社側から出勤停止を命じた場合には、有給扱いになるか無給扱いになるかは、状況に応じてケースバイケースなので、慎重な判断が必要になります。
①新型インフルエンザ・鳥インフルエンザの場合
インフルエンザの中でも、新型インフルエンザや鳥インフルエンザに感染した場合は、「感染症予防法」という法律で就業が禁止されていますので、出勤停止は法律上当然ということになり、無給扱いで問題ありません。もちろん、福利厚生として任意恩恵的に給与を支払うことは差し支えありません。
②医師の診断書で労務不能とされている場合
新型インフルエンザ・鳥インフルエンザに限らず、通常のインフルエンザであっても、医師が労務不能である旨の診断書を出している場合は、客観的に労務の提供が不可能な状態にあると考えられますので、会社は無給扱いでの出勤停止命令を出すことができると考えられます。
出勤できる・できないで、労使に意見の対立がある場合には、本人に医師の診察を受けてもらい、労務の可否についての診断書を書いてもらうということが解決策になるでしょう。
③医師の診断書は無いが、明らかに労務不能な場合
仮に、医師の診断書が無かったとしても、本人が明らかにフラフラな状態で、このまま出社しても仕事にならないとか、事故が発生する恐れがあるというような場合には、会社は、無給扱いで出勤停止命令が出せると考えられます。
その根拠は、「フラフラな状態での労務提供」は、債務の本旨に沿った履行とは言えないので、民法上使用者はその受領を拒否できるということ、および、労働基準法や労働安全衛生法を根拠とした使用者の安全配慮義務により、労働者を就労させてはならないということです。
④念のために休んでもらう場合
本人の体調が回復し、マスクをすれば出勤可能であったり、完全に回復したように見えるが保菌による社内感染のリスクを避けるために出勤停止を命じるという場合には、無給扱いでの出勤停止命令を出すことはできません。
本人が一応は労務提供が可能な状態になっている以上、会社都合での休職となり、平均賃金の60%以上の休業手当を支払う必要があります。
なお、本人が100%の賃金を希望する場合には、本人と話し合いの上、有給休暇扱いとして処理することは差し支えありません。
テレワークの活用も
現在は、IT技術の発達により、多くの職種でテレワークを行えるようになりました。インフルエンザで寝込んでいるような場合は別ですが、④のような念のために休んでもらうような場合には、テレワークによる就業であれば認めるという選択肢も考えられるでしょう。
会社としては社内感染のリスクを避けつつ労務の提供を受け、本人にも通常通りの賃金が発生しますので、労使双方にとってメリットのある対応ではないでしょうか。
従業員の家族がインフルエンザになり、従業員が家族の菌を会社に持ち込んで社内感染をする恐れを避けたいというようなケースにおいてもテレワークは活用できるでしょう。
傷病手当金の申請も忘れずに
最後に、傷病手当金について補足をしておきます。
インフルエンザによる欠勤が長引き、連続4日以上になる場合には、3日間の待機が完成しますので、医師が労務不能と判断すれば、4日目以降の欠勤について、健康保険の傷病手当金を受給することも可能です。傷病手当金は、対象となる日、1日あたり、通常の賃金の約3分の2が支給されます。
傷病手当金を受給するためには、自社が加入している健康保険の保険者(全国健康保険協会または健康保険組合)が定める書類に、医師による労務不能の証明と、会社による欠勤および賃金不支給の証明を記載した上、本人が傷病手当金の入金口座などを記載して、保険者に提出する流れになります。
まとめ_インフルエンザによる欠勤や出勤停止を整理しておきましょう
本格的なインフルエンザ流行が始まる前に、インフルエンザによる欠勤や出勤停止に関する法的ルールや社内規程を整理しておき、実際に従業員がインフルエンザに感染してしまった場合には、過不足なく、スムーズな対応ができるようにしておきたいです。
しかし、インフルエンザに感染しないことがいちばんですから、会社から、従業員に予防接種を受けることを奨励したり、手洗いうがいを怠らないことをアナウンスすることも望ましい対応であると思います。