前号では、今後引き上げとなる「障がい者法定雇用率」の具体的な数字と、これに伴い新たに義務化の対象となる企業を検討する際の基準となる「常用雇用労働者」の算定方法について解説しました。今号では、障がい者雇用率制度の対象となる障がい者の範囲と算定方法について確認しましょう。
障がい者法定雇用率制度の算定を正しく理解
ひと口「障がい」といっても、その程度や状態は様々です。障がい者法定雇用率制度では、一定規模以上の企業における障がい者雇用が義務付けられていますが、対象となる障がい者の定義や算定方法を正しく理解しておく必要があります。
障がい者法定雇用率制度上の障がい者の定義
障がい者雇用率制度では、2023年1月25日現在、以下の通り、身体障がい者手帳、療育手帳、精神障がい者保健福祉手帳の所有者を実雇用率の算定対象としています。
- 身体障がい者:
身体障がい者福祉法による「身体障がい者手帳」を所持している方
障がいの程度によって1~7級の等級に区分される - 知的障がい者:
都道府県知事が発行する「療育手帳」を所持している方
障がいの程度によって「A最重度、重度」「B中度」、「C軽度」の3区分に分けられる - 精神障がい者
精神保健福祉法による「精神障がい者保険福祉手帳」を所持している方
障がいの程度によって1~3級の等級に区分される
障がい者の法定雇用は、1976年より身体障がい者を対象に義務化され、その後1998年には知的障がい者、そして2018年には精神障がい者と、対象が拡大されています。
障がい者雇用の原則的な算定方法
障がい者雇用率制度では、労働者数によって企業で雇用すべき障がい者数が決められています。前号でも解説した通り、2023年度中は常用雇用労働者数43.5人につき1人、2024年度からは常用雇用労働者数40人につき1人、そして2026年度からは常用雇用労働者数37.5人につき1人の障がい者を雇い入れることが義務となります。
ただし、障がい者法定雇用率を満たすかどうかは「労働時間数」や「障害の程度」によって判断されますから、算定方法について正しく理解しておく必要があります。
出典:厚生労働省「障害者雇用率制度について」
図の通り、障がい者雇用率制度では原則として、週30時間以上勤務の常時雇用労働者は1人、週20時間以上30時間未満の短時間労働者は0.5人としてカウントします。
障がい者を雇い入れたとしても、週の労働時間が20時間未満であれば、現状では算入できません。ただし、2024年度以降、週10時間以上20時間未満勤務の重度身体障がい者、重度知的障がい者及び精神障がい者に関しては、雇用率において0.5と算定できるよう法改正が予定されています。
参考:厚生労働省「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律案の概要」
障がい者雇用率制度におけるダブルカウントルール
併せて、以下のダブルカウントルールについても理解しておきましょう。
- 身体障がい者、知的障がい者の場合、重度によるダブルカウントがある
具体的には「身体障がい者のうち、等級が1級または2級に該当する方」「知的障がい者のうち、等級がA(自治体によっては1度及び2度、もしくは等級Aに相当する判定書を受けている)に該当する方」について、常用雇用であれば2人カウント(本来は1人カウント)、短時間労働者であれば1人カウント(本来は0.5人カウント)が適用されます - 精神障がい者である短時間労働者について、要件を満たす場合にダブルカウントがある
精神障がい者である週20時間以上30時間未満の短時間労働者は、原則、0.5人としてカウントされますが、以下①②のいずれも満たす方は1人としてカウントされます。
① 新規雇入れから3年以内の方、又は精神障害者保健福祉手帳取得から3年以内の方
② 2023年3月31日までに、雇い入れられ、精神障害者保健福祉手帳を取得した方
本制度は、2022年度末までの時限措置となっています。2023年度以降の取扱いについては明らかになっていませんが、効果等を踏まえて延長の可否が議論されているようです(2023年1月25日時点)。
参考:厚生労働省「平成30年4月1日から障がい者雇用義務の対象に精神障がい者が加わりました 」
障がい者雇用率制度の動向に注目
障がい者雇用については、今後、法定雇用率の段階的な引き上げ、対象となる障がい者の範囲等の見直し等、重要な改正が多く予定されています。企業においては、引き続き、最新情報に注目してまいりましょう!