在職老齢年金の制度が変わる!~65歳以上の働き方に要注意

2020年5月に成立した「年金制度改正法」により、2022年4月から年金制度が変わります。70歳定年延長の努力義務化により、働く高齢者は今後ますます多くなることが予想され、さらに労働人口の減少により、高齢者施策は待ったなしの状況です。また、現在65歳未満の方に支給されている「特別支給の老齢厚生年金」は、男性は2025年度、女性は2030年度で終了するため、年金が支給停止となる方は徐々に減少することになります。
そこで、新たな「在職老齢年金=働きながら受け取る年金」の制度が、改正されることになったのです。すでに始まっているこの制度について解説いたします。

在職老齢年金支給停止額の変更

現行は、厚生年金に加入して働く場合、一定の収入があると年金が減額され、65歳未満の場合、ほとんどの人が該当していました。老齢厚生年金の基本月額と総報酬月額相当額を足した額が、28万円を超えた場合、その1/2が減額されるというものでした。
ところが、改正により下記のように変更となりました。

参考:日本年金機構「在職老齢年金の計算方法

今までは、年金の支給停止基準額が28万円だったものが、65歳以上と同じ47万円になるため対象者は大幅に減ると予想されています

基本月額:加給年金額を除いた老齢厚生年金の月額
総報酬月額相当額:その月の標準報酬月額(社会保険料の計算も基になる報酬額でほぼ給与額)+その月以前1年間の標準賞与額の合計÷12ヶ月

【ケース1】
年金月額:10万円
総報酬月額相当額:標準報酬月額20万円+標準賞与額(60万円÷12)=25万円
10万円+25万円=35万円 47万円以下なので、支給停止なし【ケース2】
年金月額:15万円
総報酬月額相当額:標準報酬月額35万円+標準賞与額(60万円÷12)=40万円
15万円+40万円=55万円  55万円−47万円=8万円 8万円÷2=4万円
基準額の47万円を超えていますので、その半分の4万円が支給停止となります。
15万円−4万円=11万円  年金額は11万円となります。

在職定時改定の新設

厚生年金に加入しながら働く場合、保険料を支払っていますので、当然年金額は増えていきます。しかし今までは年金額が見直されるのは、65未満の「特別支給の老齢厚生年金」が終り、65歳からの「老齢厚生年金」が支給される時と70歳(厚生年金の被保険者期間終了)の時と退職時の3つのケースの時だけでした。

ところが、4月から在職定時改定の制度が導入されて、年金額が毎年1回定時に改訂されることになりました。改定の時期は、9月1日の時点で厚生年金の被保険者である場合は、10月分の年金から改定されます。前年9月から当年8月までの1年間の加入実績に応じて年金額が増えます。65歳以降、年金をもらいながら働く高齢者にとって、47万円を超えない限り年金が毎年増えていくことは、うれしい制度改定と言えます。

年金改正における企業の留意点

今回の改正は、働く高齢者にとって大きな影響を与えるものです。そこで、企業としては、高齢者に対する対応を考えておく必要があります。

1つ目は、65歳以上の労働者のモチベーションを保ちつつ長く働ける職場環境を整備することです。厚生年金に加入して働き続けることにより、実際に手にする年金が少しずつ増えていきます。改正前は、働いている間は年金額が増えなかったので、加入している恩恵をあまり感じなかったかもしれません。しかし、改正後は、毎年受け取る年金額が増えていくので、実感として感じることになるでしょう。そうすると、少しでも長く働こうという意欲がわいてくるものです。また、働き方を柔軟に選択できる制度設計も必要です。週5日出社ではなく、週4日を選択できたり、病気やケガにかかりやすくなることを考えて特別休暇を創設したりして、健康でいる限り働ける職場を提供することがポイントです。

2つ目は、賃金の見直しです。高齢者だからといって賃金をアップしないわけではなく、やはり人事評価をして評価に合った賃金を支給することは当然です。しかし人事評価と言っても一般社員としての評価項目や基準とは異なりますので、別途高齢者を対象とした人事評価を作るとよいでしょう。また、毎年の年金額のアップと賃金アップにより、在職老齢年金の支給停止基準である47万円を超える労働者が出て切る可能性があります。今までは、賃金を上げなければ、47万円を超えなかったものが、年金額が増えていくために途中で超えるケースがでてきます。その場合は、支給停止になってもよいのか、それとも賃金を減らすのか等の話し合いが必要となります。

まとめ

2022年4月より高齢者が長く働けるようにと、改正された年金制度が施行されました。高齢者の「老齢厚生年金が支給停止となる=働かない」という風潮を一新し、働く高齢者を支える制度で60歳以降も働けば働くほど年金が増えていきます。ただし、会社としては、働き方と賃金と年金を新たに考える必要がでてきます。今までは、定年退職後、年金が支給停止となるから厚生年金に加入しないでパートで働くという労働者がいたと思います。しかしこれからは、2022年10月からの中小企業のパートの社会保険の加入拡大に備えて、どのように働いてもらうのか、新たな枠組みを今から考えていく必要があります。

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