ワーケーション導入が企業にもたらす3つのメリットと労務管理上の課題とは?

先日政府が「ワーケーションなどの普及に取り組んでいく」と表明したことでワーケーションへの注目が高まっています。

ワーケーションとは、仕事(ワーク)と休暇(バケーション)を組み合わせた造語で、観光地やリゾート地といった普段の勤務場所から離れたところで仕事(主にテレワーク)を行う新たな働き方を指しています。

今回はこの、「ワーケーション」と労務管理の関係について解説していきたいと思います。

ワーケーションがもたらす企業のメリットとは?

ワーケーションについては観光業界、地方自治体、企業、企業で働く従業員のそれぞれの立場でそれぞれメリットとデメリットがあります。特に今般のコロナ禍で観光業界は業績が低迷しており、観光業界からすれば、これまでにない観光ニーズが掘り起こせますし、地方自治体の観点で見ても人が集まれば、経済が潤うなどのメリットがあります。

では企業にとってのメリットはどのようなものがあるのでしょうか。企業がワーケーションを導入するメリットとしては、次のようなものがあります。

①優秀な社員の確保・採用力強化

経営者であれば、自律的に働き成果を出せる優秀な人材を確保したいと考えていることと思います。

ただこうした自律的に働ける優秀な人材については、業務プロセスを管理するよりも、成果で評価してほしいという希望を持つ方も多く「9時~18時までは必ずオフィスにいる」といった固定的な働き方がマッチしないケースが多くあります。

そのため、自律的に働ける優秀な人材ほど柔軟な働き方ができる企業を選択する傾向にあります。そのため、ワーケーションを導入することでこうした人材を惹きつけ、採用力を高める効果があると考えられます。

②年次有給休暇の取得促進

2019年4月から年次有給休暇の5日取得が義務化されているところですが、ワーケーションによって通常の勤務日に年次有給休暇取得をくっつけることで、従業員も余暇を充実して過ごせることになり、年次有給休暇の取得促進につながると考えられています。
年次有給休暇の取得が促されれば年間の労働時間の削減にも効果がありますし、こうした働き方改革の文脈でもメリットがあります。

③従業員のリフレッシュ効果

これは従業員側のメリットにもつながりますが、通常の勤務地を離れ、家族等と観光地・リゾート地で業務を行うことにより、仕事が終われば温泉にはいったり、観光地を巡ったりできることになります。

これによりワークライフバランスが確保できることになりますし、従業員がリフレッシュし、また新たな気持ちで業務に取り組んでいただくことができれば、新たなビジネスアイディアや発想が生み出されることにつながるかもしれません。

ワーケーションの労務管理上の課題とは?

一方で企業がワーケーションを導入するに当たっては次のような労務管理上の論点が存在します。

労働時間管理

まず、企業でどういったワーケーションを設計するかにもよりますが、どのように労働時間管理を行うのか?という点は検討しなければなりません。

通常の固定的な労働時間制でもワーケーション自体行う事は可能と考えますが、通常の固定的な労働時間制度を使う場合、従業員が所定労働時間中に中抜けするということがしにくいことになります。つまり、始業9:00~終業18:00までの間でどこかで観光に行くといった場合中抜け時間としてその時間は労働時間になりませんので、終業時間を繰り下げることなどが必要となります。

このような取扱いとなる場合、結局従業員からすれば一日の労働時間を満たすためには終業時刻を繰り下げる必要があり、なかなか柔軟には観光などには所定労働日は動けないことになります。

このようなことを解決するためにはフレックスタイム制や裁量労働制といった柔軟な労働時間制を導入することになり、就業規則の改定や労使協定の策定・届出などが必要となります。

こうした導入のコストもワーケーションを阻む壁と考えられます。

勤怠管理

今般のコロナ禍で勤怠管理ソフトもクラウドで打刻可能な勤怠ソフトをいよいよ導入したという企業も多いかと思いますが、ワーケーション時でも勤怠管理は欠かせません。(たとえ管理監督者であっても、裁量労働制適用者であっても勤怠管理は必要です。)

また、在宅勤務でも同様ではあるのですが、ワーケーションで重要な論点としては、「仕事をしている時間」「仕事をしていない時間」の区別をつけておく必要があります。

ここが曖昧になると会社としても「ワーケーション中に社員が働いているのか働いていないのかがわからない」という社員への不信感につながってしまいます。

また後述しますが、労災保険については業務との関係性で労災認定がなされますので、例えば観光中に怪我をした場合には労災の適用にはなりません。一方ワーケーション中とはいえ、仕事中になんらかの怪我をした場合には労災認定される余地はあります。

そのため、通常のオフィス勤務とは異なり、就労しているのかしないのか外形的に見えにくい状況の場合、少なくとも勤怠管理で、働いている時間、働いていない時間が区別できている必要があります。

そのためメールやチャットツール等で、社員がワーケーション中に観光などで不在とする場合には「●時~●時まで不在にする」といった連絡を適宜、確実に行うルールにするなどの工夫が求められます。
社員側にとっても、働いていないのでは?というあらぬ疑いがかけられないよう、こうした連絡・報告はワーケーション中にはとりわけ重要になると考えます。

労災

ワーケーション時の留意点として、通常のリモートワークでも同様ではあるのですがやはり労災の問題は避けて通れません。

ただでさえリモートワーク時の労災は、「私的行為中であったのでは」ということで通常勤務時よりは認められにくいと考えられます。

これがワーケーションになる場合、通常業務を遂行する場所でもないことから、業務起因性・業務遂行性がより認められにくいことが予想されます。

この点、今後政府がワーケーションを推進していくのであれば厚生労働省より指針などが示される可能性もありますが、現時点では労災認定について、通常よりも認められにくいリスクというものは企業としても留意しておく必要がありますし、ワーケーションを行う前には従業員にこうしたリスクを説明しておくなどの対応が求められると考えています。

また上記に挙げた他にも、ワーケーションに係る費用負担の問題や、コミュニケーションロスの問題などもクリアーにする必要があると考えます。

筆者の顧問先では、「就労場所選択の同意書」といったものをつくりこうした労災リスクや、費用負担のルール、ワーケーション時に守っていただきたいルールなどをまとめ、従業員側の理解・同意をいただきながら進めている企業もあります。

ワーケーションの導入の際には専門家に相談を

今般のコロナ禍の数少ないプラスの面でもありますが、「コロナ禍で必要性に迫られ初めて在宅勤務を導入した」という企業も多く、働き方の多様化は新型コロナの影響で、少なからず進んだと考えられます。
つまり、これまでよりも柔軟な働き方を試す土壌が醸成されたと言えると考えています。

ただ、述べたような労務管理論点のほか、セキュリティの論点などもあり、企業にとっては制度・ルールなどを決めて導入することが必要と考えています。

ワーケーションの導入の際には専門家に相談しながら進めると安心です。

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