
国際標準化推進機構(ISO)が、2018年12月、初の国際標準ガイドライン「ISO 30414」(社内外への人事・組織に関する情報開示のガイドライン)を創設したことをご存じでしょうか。
今回は、このISO30414について解説します!
1.ISO30414の創設の経緯は?
昨今ESG投資といった、Environment(環境)・Social(社会)・Governance(企業統治)に配慮している企業を重視・選別して行なわれる投資が話題になっています。
また、2015年9月に国連サミットで採択され、現在大企業やグローバル企業を中心に経営戦略上の軸として目指すべきターゲットとしても活用されているSDGs(Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標))も同様にメディア等で取り上げられることも多くなり、「より環境・社会に配慮した経営」を行うことの重要性が認識されています。
日本においても、こうしたESGやSDGsといった枠組みは、企業の中の人材管理や労務コンプライアンスといった面にも影響を及ぼしており、企業で不当なハラスメントや過重労働の防止、ダイバーシティ―への配慮といった、「企業で働く従業員が生き生きと働ける労働環境づくりや、健康経営の実現」にも取り入れられ、生かされ始めています。
一方取り組みが進む、アメリカでは、2020年8月に、米国証券取引委員会(SEC)が、投資家の合理的な意思決定が行われるよう、上場企業に対して「人的資本の情報開示をヒューマンキャピタルレポートの策定として義務づける」と発表し、大きな話題となりました。
このように昨今人的資本の情報開示を求める動きは、欧米の投資家を中心に加速しています。
こうした世界的な潮流の中で、国際標準化推進機構(ISO)が、2018年12月、初の国際標準ガイドライン「ISO 30414」(社内外への人事・組織に関する情報開示のガイドライン)は創設されました。
2.ISO30414って具体的にはどういうもの?
ISOといえば、日本企業でも「ISO9001(品質マネジメントシステム)」や「ISO14001(環境マネジメントシステム)」を取得している企業は多く、どこかで聞いたことがあるという方もいるのではないでしょうか。
ISOというのは、様々なカテゴリの国際標準規格のことです。
「ISO 30414」は、この国際標準規格の一つであり、「社内外への人事・組織に関する情報開示のガイドライン」として2018年12月に新設されました。
企業の人事や労務という分野においては、これまで各国の労働法規制の内容や、労使慣行の違いが大きく、国際的に標準化された運用ルールがありませんでした。
しかし、いわゆる経営資源の3要素と言われるヒト・モノ・カネの「モノとカネ」については企業の財務諸表としてかなり細かく示される一方、「ヒト」に関しての企業の取り組みについては特段決まったルールで公開するということがなかったことから、ヒトに関しての企業の取り組みや数値も公表すべきという金融市場からの声の高まりを受け、整備されました。海外ではすでにISO30414が浸透してきており、日本国内でも大企業を中心にこれに対応する動きが始まっています。
では、実際にISO30414で社内外にどのような項目について報告をすればいいとされているのでしょうか。
具体的には下記のような11領域(さらに細分化された49項目)が示されています。
1.コンプライアンスと倫理 2.コスト 3.ダイバーシティ 4.リーダーシップ 5.組織文化 6.組織の健康、安全、福祉 7.生産性 8.採用、異動、離職 9.スキルと能力 10.後継者育成 11.労働力確保 |
なお、企業はこれらの全ての項目について公開することが求められているわけではなく、自社が属する業種・業界・企業規模等を鑑み、判断することができます。
また、これらの項目については、客観的なデータを伴って説明することが求められていることから、ISO30414に対応するためには、今後は企業にとってはHRTech等を利用し、データに基づいた人的管理が必要不可欠になってくるといえます。
3.ISO30414の今後の流れ
こうした欧米諸国での流れは日本企業にも無関係ではありません。
実際に、日本の政府や法制においても、企業に人事的な取り組み数値を公表するような流れは高まっています。
例えば、日本での政府の動きとして、金融庁は2021年6月、コーポレートガバナンス・コードの改訂を予定しており、上場企業に対し、「女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等、中核人材の登用等の多様性の確保についての考え方と、測定可能な目標を示すとともに、その状況の公表を求める」こととしています。
また、「多様性の確保に向けた人材育成方針・社内環境整備方針をその実施状況とあわせて公表するよう求めるべきである。」といわゆるダイバーシティについての人的資本の開示についても言及されています。
また、厚生労働省では、2021年4月より、常時雇用する労働者が301人以上の企業は、求職者が容易に閲覧できるかたちで「直近の3事業年度2の各年度について、採用した正規雇用労働者の中途採用比率」を公表することを義務化しています。
こうした客観的なデータでの人的資本、人材管理についての公表が求められる流れは、今後も加速するものと考えられます。日本企業としても、人的資本や人材管理についての取り組みをHRテクノロジーを活用しながら客観的データで見える化していくということが強く求められてくるものと推測されます。
また、ISO30414に準拠した報告を行うためには、社内各組織の横断的な協力が必要になりますし、より人事・労務が経営に深く関わってくることから、CHRO(最高人事責任者)が果たす役割はますます大きくなるものと考えられます。
4.今後は人材に関する戦略の在り方についても見直しが必要
これまで解説してきたとおり、今後、企業は、経営戦略と同様、人材に関する戦略の在り方についても見直しが迫られているといえます。
新型コロナウイルス感染症への対応に伴い、社会全体がニューノーマルを模索している今、変化に対してスピード感をもって対応していく企業と、従来のやり方に固執する企業とはますます差がついていくものと考えられます。
企業で働く従業員の働き方についてもまさにニューノーマルの模索が続いており、企業においてはこうした人事管理の在り方について今一度見直す時期に来ているのかもしれません。