【未払い賃金の時効期限延長とは】未払い賃金の時効が2年から5年に?その企業のリスクとは

この6月に、人事担当者、企業で働く従業員の双方にとって、インパクトのあるニュースがあったことをご存知でしょうか。
それは厚生労働省の有識者検討会が、「未払い賃金の請求期間を延長すべきとの見解」をまとめたというニュースです。

現行では、「給与支給日から“2年間”」が、未払い賃金請求の認められる期間(=時効)とされています。
しかし、2020年4月に施行される改正民法において、債権請求出来なくなる期限(=債権の消滅時効)が“5年”へ統一されることを踏まえ、未払い賃金請求権の消滅時効に関してもこの“5年”を軸に労働政策審議会で時効年数の延長が検討されることとなりました。

延長年数の確定は今後の検討状況を見守るしかないですが、2年から5年へ延長される可能性があります。

今回は、この重要なトピックについて解説していきます。

未払い賃金請求の時効が改正される理由、その背景とは?

現行の民法においては、債権の消滅時効は下記のとおり定められています。

・一般的な債権(民法上の取引によるもの):原則10年

・例外
①商行為により生じる債権:5年 
⇒商行為は取引が迅速に行われる必要があるため。

②飲食代金の支払い等日常的に生じる債権:1~3年

③賃金債権:1年 …取締役等労基法上の賃金に該当しない場合

④労働基準法で定められる賃金債権:特例で2年(退職手当は5年)
⇒労働者保護の観点から修正する特則

今回の改正民法では上記の①~④の例外が削除され、「債権者が権利を行使できることを知った時」(気づいたとき)から5年「権利を行使することができる時」から10年、との規定へ変更されます。

よって、賃金請求権の消滅時効が“2年”のままではその他の債権消滅時効に比べてもかなり短期間となってしまうことになります。これは労働者保護の観点から問題があるとして、見直しが必要との意見が多くあり、こ労働政策審議会で検討されるに至ったのです。

未払い賃金の時効延長による企業のリスクとは?

既述のとおり、賃金請求権の消滅時効についても、改正民法に合わせて“5年”へ延長される可能性がでてきました。
消滅時効の延長により生じる企業リスクとはどういたものがあるのでしょうか。

もちろん一番企業へのダメージが大きいものが、「多額の未払い残業代を請求されるリスク」であると考えます。
“そのときになれば支払うしかない”と考えている企業もあるかもしれませんが、時効が 延びることで今までより大きなダメージを受ける可能性があります。

例えば従業員に支払う残業代や労務管理が適切ではない(なかった)場合、
従業員から≪未払い残業代として請求される≫、もしくは≪労働基準監督署の調査が入り、是正勧告により未払い残業代の支払いを迫られる≫ケースもあります。
この場合、現行の2.5倍の金額が請求されることとなります。

例えば平成29年度に労働基準監督署から未払い残業代に関する是正勧告があった企業、1企業当たりの支払平均額が「2,387万円」となっています。これが単純計算で「約6,000万円」へと膨れ上がってしまう計算です。
元従業員が過去の賃金の未払い分を請求するケースも、より長期間にわたって遡ることができるようになるため、今まで泣き寝入りせざるを得なかった者が主張してくるという可能性もあります。
また、本来支払われる期日から遅れるほど、その期間にしたがって「遅延利息」「遅延損害金」が未払い残業代に加算されてしまいます。

さらに裁判もしくは労働審判に発展した場合は、労基法114条の規定により、労働者は未払い残業代と同額の「付加金」を請求することができます。「付加金」は賃金不払いや残業代未払いを行った企業へのペナルティー的な性質をもっています。
(※支払われるかどうかは事案による。)

以上より、<未払い残業代自体+遅延利息(or遅延損害金)+付加金>のすべてを支払うこととなった場合、未払い残業代の金額が膨大な額になることが想定されます。

一度未払い残業代請求をされた企業の場合、その後同様の訴訟が複数人から繰り返される可能性も高く、未払い残業代のリスクを過少評価していると、もし時効が伸びた場合には、より大きな打撃となるリスクであると認識していただく必要があります。

また、参考ではありますが、厚労省の発表によると、全国の労働基準監督署が残業代未払いで是正指導した企業による支払総額は、近年120億円程度となっておりましたが、平成29年度に約446億円と過去最多を記録しました。働き方改革への機運の高まりから来たものと考えられます。

こういった企業への金銭的ダメージを最小限にとどめるために、今、企業としてはどういった施策を講じる必要があるでしょうか。

企業がするべき未払い賃金対策とは?

そもそも、まず自社に、「未払い残業代」があるかどうかを知るというのが大切です。
予め調査し、未払い残業代を全て清算してしまうというのが、企業へのダメージを最小限にとどめるにあたり有効かと考えています。

自社の未払い残業代チェックのポイントとしてはいくつかありますが、今回は【勤怠管理方法】【雇用契約書】の2項目をピックアップします。

勤怠管理方法の確認項目

【CHECK1】

・タイムカードと会社への入退館記録に乖離していませんか?
乖離に“合理的な理由”がない限り、会社への入退館記録が正しい労働時間であるとみなされる可能性があります。
近年の労基署調査においては、IDカード等入退館の警備記録やパソコンのログイン等のログ履歴といった客観的証拠を、タイムカードの出退勤打刻と照合されることも多くなっています。

※“合理的な理由”とは、労働時間でないことが明白に証明される必要があります。「自己啓発」などといっても、実際には労働時間とみなされるような場合は“合理的な理由”とはいえません。従業員へ監督官から直接ヒアリングを実施する場合もあります

・自己申告による勤怠管理を行っていませんか?
この度の働き方改革法の施行に伴い「労働時間の状況を客観的な記録方法で把握する義務」が課されることとなりました。
会社はタイムカード、パーソナルコンピュータ等使用時間(ログインからログアウトまでの時間)の記録などの客観的な記録により、労働者の出退勤時刻や入退室時刻の記録等を把握する必要があります。
社員からの自己申告等で勤怠を把握しているような企業は、未払い残業代のリスクに加え法令違反のリスクも抱えている可能性があります。

【CHECK2】

・労働時間の切り捨ては行われていませんか?
顕在化しづらい内容ですが、労働基準法では、残業時間の端数処理を行うことは違法とされています。つまり、「○分未満切り捨て」といった運用は認められません。端数は1分単位で管理し、残業時間を算出する必要があります。
切り捨てた端数時間も、一日や一ヶ月単位でみれば少額ですが、数年分累積すれば相当な金額となる可能性があります。

労働条件通知書の確認項目

【CHECK1】
・固定残業代の記載は、固定残業代の金額「○円分」と残業相当時間「○時間分」が明記されていますか?
近年企業による固定残業代の導入が加速していますが、固定残業代の支給に際しては、労働条件通知書へ次の内容を明記する必要があります。

‣固定残業代のみの金額
‣何時間分の固定残業代か
‣固定残業代分を超過した残業代は別途支給する旨

これらの記載が不十分で、固定残業代が認められない場合は、下記の手順により清算します。
支給していた固定残業代の支払いが無効となり、相当額分の残業代が未払いの状態となってしまいます。

労働条件通知書の記載が適正であっても、固定残業代相当時間以上勤務したにも関わらず別途残業代を支払っていないといった企業も散見されますが、この不払い分ももちろん未払い残業となります。固定残業代を支給していれば残業代は一切支払わなくて良いということはあり得ませんのでご注意ください。

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以上、記述のチェック項目を確認したうえで「自社の労務管理に問題はありそう」「未払い残業がありそうだ」と気づいた企業は、専門家へ早期の相談を行い2020年4月までの解決を目指すのが得策といえるでしょう。

企業体制改善の良い機会。残業代請求権の消滅時効延長に対応した体制作りを

ここまで残業代請求権の消滅時効延長がなされる可能性があるというニュースから、未払い残業代の支払い額増等の企業のリスクを記載してきました。
近年「慢性的な長時間労働を放置する」「残業代を支払わない」といった企業は、人員不足や採用難といった影響をはじめかなり逆風が吹いているといえます。

時効延長の今後の動向も意識しながらも、これを機に企業の体制を一新する良い機会と捉えてみてはいかがでしょうか。

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