企業の経営・人事労務担当者が知っておきたい!従業員との不妊治療と向き合い方とは

近年では晩婚化等を背景に不妊治療を受ける夫婦は増加しており、実際に不妊の検査や治療を受けたことがある夫婦も増加しています。
今号では、企業の経営・人事労務担当者が知っておきたい、従業員との不妊治療と向き合い方についてまとめていきます。

1. はじめに

近年の晩婚化等を背景に不妊治療を受ける夫婦は増加しており、実際に不妊の検査や治療を受けたことがある夫婦は18.2%となっており夫婦全体の5.5組に1組の割合になっています。(出典:国立社会保障・人口問題研究所「2015年社会保障・人口問題基本調査」)

また、生殖補助医療により生まれた赤ちゃんの割合は2017年において6%とも言われており、16.7人に1人に及んでいます。

また、体外受精などの不妊治療に対し2022年4月から保険適用が拡大される見通しとなったことはニュース等でも大きく取り上げられています。

企業においても従業員が不妊治療と仕事の両立が難しいために退職してしまったということや、そもそもセンシティブな事柄であり、従業員の不妊治療に対し会社としてどう向き合っていくべきかわからない、といったお悩みを抱えている企業もあるのではないでしょうか。

企業にとっては、、不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりに取り組むことで、従業員の離職の防止や、モチベーションの向上、優秀な人材を引き付けることなどにつながります

また、上述した不妊治療の保険適用については、保険適用の対象者が厚生労働省より、女性の年齢が43歳未満であることが要件として示されており、これにより30代後半から40代前半の女性従業員にとっては、今後、よりこの43歳にさしかかる前に仕事と不妊治療の両立を積極的に進める、という現実的なタイムラインとしてシビアに受け止められることになります。

このくらいの年齢層の女性は管理職としてバリバリ活躍している方も多く、このような人材がいきなり退職してしまうということは会社としてはかなりの痛手となるはずです。

企業にとっても、健康保険適用の対象となるこの30代後半から40代前半の女性が、今後不妊治療に積極的に取り組む時期となりえることを想定し、これまで以上に、両立ができるような制度作りに取り組む意義は増していると考えられます。

2. 不妊治療と仕事の両立をめぐる現状

不妊治療をしたことがある(または、予定している)労働者のなかで「仕事との両立ができなかった(または両立できない)とした人の割合は実に34.7%にも及ぶということです。(出典:厚生労働省「平成29年度「不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査」)

また、そもそも不妊治療をしている(または、予定している)労働者のうち職場に一切伝えていない(または、伝えない予定)とした人の割合は最も多く、反対に、職場でオープンにしている人は8分の1程度にとどまっていることがわかっています。

そもそもセンシティブな問題として職場にオープンにすることをためらう方が多いのもあるでしょうが、周囲から理解を得られない、特段企業に両立をするためのサポートがないということの裏返しでもあるのだと推察します。

また、実際に不妊治療に取り組んでいる方が仕事と不妊治療を両立する上でどういうことを企業に希望しているのかという点については、不妊治療のための休暇制度が最も多くなっており、次いで柔軟な勤務を可能とする制度(勤務時間、勤務場所)や、有給休暇を時間単位で取得できる制度が挙げられています

3. 企業が取り組みやすい不妊治療との両立を支援する制度とは

上述のように、不妊治療に取り組む方が企業に希望する制度はまとめると

①不妊治療のために休める制度
②柔軟な働き方を可能とする制度
③有給休暇を時間単位で取得する制度

というところですが、実はいずれも大企業だけでなく中小企業にとっても現実的に導入は難しくない制度だと考えています。

①不妊治療のために休める制度

従業員が不妊治療のために休める制度として、企業では特別休暇(有給・無給どちらでも)を創設するか、休職制度を適用させるといった選択があろうかと考えます

特別休暇の場合、慶弔休暇と同じように、会社独自で特別休暇として不妊治療のために休める休暇制度を作ることになります。もちろん有給のほうが従業員にとっては嬉しいとは思いますが、必ずしも有給である必要はありません。すべてが無給の特別休暇という立て付けもありえますし、年間10日間を特別休暇として不妊治療のために使える制度としつつ、うち5日間は有給といった折衷案もあるかもしれません。

無給で意味あるの?と思うかもしれませんが、無給でも賞与の出勤率には入れて差し上げたり、人事考課で不利益に取り扱わないとしたり、法定の年次有給休暇の発生要件である出勤率8割には出勤しているものとしてみなして差し上げるといった取扱いを行うことで、より従業員にとっては休みやすいでしょうし、そもそもこうした休暇があることでどうどうとお休みできる、会社にサポートしてもらっているという安心感は得ることができると考えます。

また、休職については傷病時の際などに休める制度としてすでに制度として導入している企業は多いかもしれませんが、この休職事由として不妊治療も対象にするということで制度導入が可能です。こちらも無給であっても問題ありません。会社として不妊治療でも休職ができますよ、という制度自体があることが、重要と考えます。

いずれも就業規則の変更等は必要になりますが、あまりお金もかからずに企業として導入できる制度です。

②柔軟な働き方を可能とする制度

こちらは、フレックスタイム制度や、リモートワーク制度が該当します。フレックスタイム制度はご自身で始業・終業時刻を決めることができ、月で総労働時間が決まっているため、日によって従業員自身で働く時間を決められる制度です。そのため、不妊治療で通院の予定がある日には短い労働時間にして、通院日でない日には長く働くといった調整が可能になります。
導入には労使協定の整備、就業規則の改定は必要となりますが、コストもかからず比較的簡単に導入できる制度です。

リモートワーク制度はコロナ禍で導入した企業も多いですが、従業員の自宅での勤務等オフィス以外での勤務を認める制度ですが、通勤時間の短縮にもなり、不妊治療で頻繁な通院をする方にはあると嬉しい制度であると考えます。こちらも就業規則の改定やリモートワーク規程の整備はありますが、導入しやすい制度であると考えます。

③有給休暇を時間単位で取得する制度

通常法定の年次有給休暇は一日単位で取得することが原則ですが、企業の裁量で半日単位や時間単位で付与することも可能です。時間単位の年次有給休暇制度を導入する場合には労使協定の策定のほか、就業規則の改定が必要です。

いずれも、大掛かりな改定が必要になるというものではなく、既存の制度の枠組みを広げたりすることで十分に対応可能なものも多く、コストがかからず企業にとって取り組むことは十分可能と考えます。

参考:不妊治療との両立支援制度導入で企業が使える助成金

両立支援等助成金 (両立支援等助成金<不妊治療両立支援コース>)というものがあり、不妊治療のために利用可能な休暇制度・両立支援制度(①不妊治療のための休暇制度(特定目的・多目的とも可))、②所定外労働制限制度、③時差出勤制度、④短時間勤務制度、⑤フレックスタイム制度、⑥テレワーク)の利用しやすい環境整備に取り組み、不妊治療を行う労働者の相談に対応し、休暇制度や①~⑥の両立支援制度を労働者に利用させた中小企業事業主に対して助成されます。2021年から登場した新しい助成金です。

支給額

①環境整備、休暇の取得等
1事業主当たり 28.5万円 < 36万円 >
※「不妊治療プラン」を策定し、不妊治療と仕事の両立のための社内のニーズの調査や、利用できる休暇制度等の周知を行い、当該プランに基づき、休暇制度・両立支援制度を合計5日(回)以上利用労働者に取得又は利用させた事業主

②長期休暇の加算
1人当たり 28.5万円 < 36万円 >
※連続20日以上休暇を取得し、原職復帰後3か月以上継続勤務させた場合
1事業主当たり、1年度5人まで
主な要件:
以下の全ての条件を満たすこと。
(1)不妊治療と仕事の両立のための社内ニーズ調査の実施
(2)整備した上記①~⑥の制度について、労働協約又は就業規則への規定及び周知
(3)不妊治療を行う労働者の相談に対応し、支援する「両立支援担当者」の選任
(4)「両立支援担当者」が不妊治療を行う労働者のために「不妊治療両立支援プラン」を策定

支給対象事業主

不妊治療のために利用可能な休暇制度・両立支援制度について、次の①~⑥のいずれか又は複数の制度について、利用しやすい環境整備に取り組み、不妊治療を行う労働者に休暇制度・両立支援制度を利用させた中小企業事業主

① 不妊治療のための休暇制度(特定目的・多目的とも可)
② 所定外労働制限制度、
③ 時差出勤制度
④ 短時間勤務制度
⑤ フレックスタイム制
⑥テレワーク

こうした助成金を利用することも一案です。

4. 終わりに

不妊治療については、今後保険適用の拡大もあいまって、より逼迫した問題として企業にとっても両立支援に取り組む必要性が増してきていると考えます。

不妊治療は、個人のプライベートな部分ではあるものの、治療を行うにあたり、仕事との両立は従業員にとって逼迫した問題です。

人生100年時代、従業員の職業生活も長くなっていくことから、こうした従業員のライフイベントに寄り添う企業文化、人事施策づくりがまさに求められているところではないでしょうか。

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