台風等による大規模災害時|使用者が守るべき労働関係の対応Q&A

未曽有の広域災害となった、2019年10月の台風19号。会社として、大きな被害を受けた事業所も多かったものと思われます。被災を受けられた皆様には心よりお見舞い申し上げると共に、一日も早い復興をお祈りいたしております。このたびの災害を受け、厚生労働省からは、大規模災害が発生した際に事業主様が留意すべき労働基準法・労働契約法に関するQ&Aが公開されています。個別の事案については労働局、労基署にご相談いただくこととなりますが、まずは賃金等の労働者の労働条件に関わる原則的な考え方を把握しておきましょう。

参考:厚生労働省「賃金などの労働条件について、使用者が守らなければならないことをQ&Aにまとめました

台風被害に伴う休業、休業手当の支払いは必要?

台風被害に伴い、通常の事業活動が困難となる場合、やむを得ず労働者を休業させる必要が生じることとなります。労働基準法第26条では、「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合には、使用者は、休業期間中の休業手当(平均賃金の60/100以上)を支払わなければならない」とされていますが、そもそも休業が「使用者の責に帰すべき事由」に該当するか否かの判断が求められます。
実際の対応時には、実態について「使用者の責に帰すべき事由」による休業かどうかを適切に判断するとともに、労使話し合いの上、労働者の不利益を回避するように努力すること、休業時の労働者保護についても留意する必要があります。

Q. 今回の台風による水害等により、事業場の施設・設備が直接的な被害を受け労働者を休業させる場合、労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由」による休業に当たるかどうか?

A. 天災事変等の不可抗力の場合は、使用者の責に帰すべき事由に当たらず、使用者に休業手当の支払義務はありません。ここでいう不可抗力とは、下記の2要件を満たすものでなければならないと考えられています。
①その原因が事業の外部より発生した事故であること
②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であること
今回の台風による水害等により、事業場の施設・設備が直接的な被害を受け、その結果、労働者を休業させる場合は、休業の原因が事業主の関与の範囲外のものであり、事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故に該当すると考えられますので、原則として使用者の責に帰すべき事由による休業には該当しないと考えられます。

Q.  今回の台風により、事業場の施設・設備は直接的な被害を受けていませんが、取引先や鉄道・道路が被害を受け、原材料の仕入、製品の納入等が不可能となったことにより労働者を休業させる場合、「使用者の責に帰すべき事由」による休業に当たるでしょうか。

A. 本件は原則として「使用者の責に帰すべき事由」による休業に該当すると考えられます。ただし、休業について、①その原因が事業の外部より発生した事故であること、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であることの2つの要件を満たす場合には、例外的に「使用者の責に帰すべき事由」による休業には該当しないと考えられます。具体的には、取引先への依存の程度、輸送経路の状況、他の代替手段の可能性、災害発生からの期間、使用者としての休業回避のための具体的努力等を総合的に勘案し、判断する必要があると考えられます。

台風災害時にも賃金支払義務は生じる?

労働基準法第24条においては、「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を、毎月1回以上、一定期日を定めて支払わなければならない」と定められています。しかしながら、会社が台風で被災した場合、一時的に労働者への賃金支払が困難となるケースが想定されます。このような場合の考え方についても把握しておきましょう。

Q.  今回の台風で、①事業場の倒壊、②資金繰りの悪化、③金融機関の機能停止等が生じた場合、労働基準法第24条の賃金の支払義務が免除されることはあるでしょうか。

A. ご質問については、労働基準法には、天災事変などの理由による賃金支払義務の免除に関する規定はありません。なお、事業活動が停止し、再開の見込みがなく、賃金の支払の見込みがないなど、一定の要件を満たす場合には、国が事業主に代わって未払賃金を立替払する「未払賃金立替払制度」を利用できる場合があります。

Q.  台風により店舗の被災はなかったものの、来客数が激減し、売上げが大幅に下がっています。このため、従業員の賃金を引き下げようと考えていますが、問題はありますか。

A.  賃金引下げなどの労働条件の変更は労働者と使用者の個別の合意があれば可能ですが、就業規則の変更により賃金の引下げを行う場合には、労働者の受ける不利益の程度、変更の必要性、変更後の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況等に照らして合理的であること、また、変更後の就業規則を労働者に周知させることが必要です。

まとめ

このたび被災された会社においては、事業再開に向けた取り組みと併せて、労働者の不利益回避や休業時の支援についても目を向けていく必要があります。判断に迷われる際には労働局や労基署にご相談の上、適切な対応をとれるようにしましょう。

【参考記事】台風の日に休んだ社員の正しい勤怠管理とは?賃金支払いや有給奨励テクニックも紹介

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