
労使間に生じるトラブルの火種には様々なものが想定されますが、比較的多く耳にするのが「労働時間」関連の問題であるように思います。「この時間は労働時間に含まれるはず」「労働時間の端数処理が不適切なのでは?」等、労働時間の定義や計上方法についてのご相談は、社労士事務所に多く寄せられるテーマです。今号では、横浜北労働基準監督署が作成した労働時間の考え方に関するリーフレットを参考に、「労働時間」を考える上で問題になりやすいポイントと正しい考え方を確認しましょう。
目次
「労働時間」とは?該当する例・しない例を解説
労働基準法上、「労働時間」は「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」を指します。これは、就業規則や労働契約等に定められる範囲の時間だけでなく、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間についても幅広く含まれます。一方で、使用者からの指揮命令がないにもかかわらず労働者自身の意思によって職場で過ごす時間については、職場にいたとしても労働時間にはカウントされません。以下、リーフレットより具体事例を確認しましょう。
業務を行っている時間や、業務上義務付けられている行為を行う時間は「労働時間」
図中の「×」(労働時間となる行為)について確認しましょう。
危険予知(KY)活動とは、職場に潜む危険について、業務開始前に従業員同士で話し合い、対策を検討することです。こうした定義から、KY活動は業務の一環として行われるものであることが明らかですから、労働時間に含まれます。KY活動の他、業務メールの処理や業務日誌の作成等が「×」に含まれていますが、これらは業務であることが明らかですね。
引き続き、「▲」についてですが、これらは労働時間への該当・不該当がケースバイケースとなる項目であり、労使間でトラブルになりやすいポイントです。判断基準としては、その行為が業務上義務付けられているかどうかです。このあたりは別記事にて解説していますので、参考になさってみてください。
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そして「△」に関しては、通常労働時間には該当しないものと考えられる事例です。食事や新聞の閲覧、雑談等は、業務とは無関係に、労働者の意思によって行われるケースが主ですから、仮に始業・終業後にこうした行為があったとしても時間外労働のカウントには含まれません。出勤時刻と始業時刻、退勤時刻と終業時刻の乖離は勤怠管理上の懸念事項となりやすいですから、極力、「打刻=始業・終業時刻」となるような労働時間管理を目指す必要があります。
労働時間の端数処理、1日単位の切り捨ては労基法違反
御社では、勤怠管理をどのような方法で行っているでしょうか?「従業員が日々紙に始業・終業時刻を記入している」「特に記録は取らず、何となく毎日同じ位の時間働いている」といった労働時間管理では、法律上の義務を満たしたことにはなりません。併せて、意図せぬ未払賃金発生の温床となる労働時間の端数処理についても、問題となるケースを復習しておきましょう。
「労働時間の適正把握」は2019年4月より使用者の義務に
労働時間の適正把握は、使用者が行うべき法的義務です。2017年1月20日に「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」が策定され、その後2019年4月施行の改正労働安全衛生法に盛り込まれたことで、法の定めるところとなりました。
労働時間の把握は、原則として「客観的な方法その他の適切な方法」で
使用者が始業・終業時刻を確認し、記録する方法としては、原則として次のいずれかの方法によることとされています。
(ア) 使用者が、自ら現認することにより確認し、記録すること。
(イ) タイムカード、ICカード等の客観的な記録を基礎として確認し、記録すること。
例外的に「自己申告による労働時間把握」も認められていますが、以下のケースでは例外の適用は認められません。
・ 事業場外から社内システムへアクセス可能で労働時間の状況が把握可能
・ タイムカード等のデータがある
・ 事業者の現認による把握が可能
労働時間の適正把握が使用者の法的義務となって以降、クラウド勤怠管理システムの導入率は右肩上がりで増えています。背景には、労働時間把握を「客観的な方法」で行うため、そして出勤簿の保存義務にペーパーレスで対応するため、テレワーク対応のため等の要因が挙げられます。その他、給与ソフトとの連携や各種休暇管理等がしやすくなることも、勤怠管理システム導入の大きなメリットです。
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労働時間の端数処理では、原則「切り捨て禁止」
勤怠管理によって集計した労働時間に関しては、「1分単位」での記録し、この数字を元にして給与計算を行う必要があります。以下の図の「×」のケースはすべて労基法違反となりますので、ご注意ください。
ただし、1ヶ月の時間外労働、休日労働および深夜業の各々の時間数の合計に1時間未満の端数が生じる場合、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げることは、例外的に認められています(図中の「◎」)。
労働時間の端数処理については、以下の記事でも解説していますので、ご確認ください。
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以上、図の出典と参考:神奈川労働局「その時間 労働時間ですよ!(労働時間に関するリーフレット)」