少子高齢化に伴う働き手不足への対応、さらに労働生産性向上や世界競争力の強化を目的に、「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太方針2022)において示された「多様な働き方の推進」。その柱の一つに盛り込まれた「フリーランスが安心して働ける環境の整備」に向けた取り組みが、今、着々と動き出しています。現状、フリーランスとの取引のある企業においては、発注者として適正な対応ができているかを再点検する必要があるかもしれません。
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労基署判断で「労働者性あり」なら、年金事務所から社会保険適用を促される可能性
働き方の多様化により、いわゆるフリーランスとして請負・準委任契約を締結する就労形態が増加傾向にある中、フリーランスであっても実態として労働者に該当する場合は珍しくありません。こうした背景を受け、今後、労働基準監督署において労働基準法上の労働者であると判断した事案について、日本年金機構年金事務所に情報提供を行い、被用者保険の更なる適用促進が図られる方針が厚生労働省より示されました。
参考:厚生労働省「被用者保険の更なる適用促進に向けた労働行政及び社会保険行政の連携について」
併せて確認したい、労働局と労基署の連携強化
また、既に別記事にて解説した通り、非正規雇用労働者の待遇改善に向け、すでに都道府県労働局と労働基準監督署の連携強化が図られているところです。具体的には、労働基準監督署が把握した情報について、労働保険料の適正徴収の観点から、都道府県労働局にも提供することとされました。必要な調査をより効率良く円滑に進めるため、今後、労働局と年金事務所の合同調査の対象となる企業が出てくる可能性があります。
関連記事:『「同一労働同一賃金の取組強化期間」スタート!現場における早急な取り組みを』
労基法上の「労働者性」とは?
たとえ雇用契約を締結していなくても、実態としてフリーランスが労基法上の労働者と認められる場合、フリーランスは労働基準法の保護を受けることとなります。労働者性が認められるフリーランスに対しては、労働基準法に則った処遇、労務管理を行っていかなければなりません。
「指揮監督下」にあり「使用従属性」が認められれば労働者性有
今一度、労働者性の有無を判断するための基準を確認しておきましょう。
出典:厚生労働省「被用者保険の更なる適用促進に向けた労働行政及び社会保険行政の連携について」
労働者性の有無の判断において、重視されるのは「使用従属関係」にあるかどうかです。判断基準となる具体的な要素としては、以下が挙げられます。
① 「指揮監督下の労働」であるかどうか
・仕事の依頼,業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
・業務遂行に当たっての指揮監督の有無
・勤務場所および勤務時間に関する拘束の有無
・労務提供の代替性の有無
② 報酬が労務対償性を有するか否か
また、上記要件の補強要素として、以下が挙げられます。
・事業者性(独立して事業を営む自営業者としての性質)を有するか
・ある特定の相手との間に専属性が認められるか
・その他、採用の過程、公租公課の負担関係
「労働者性」の判断については、以下の記事でも解説しています。
関連記事:『「労働者性」の判断基準を正しく理解!業務委託でも「労働者性あり」と判断される可能性があります』
契約形態よりも「実態」重視
繰り返しになりますが、労働者性の有無の判断は「実態」重視です。雇用契約を締結せず、あくまで請負契約や準委任契約等の契約であっても、個々の働き方の実態として労働者性が認められる場合、そのフリーランスは労働関係法令や社会保険の適用を受けることになります。
フリーランスを不当に拘束していませんか?
働き方改革や人手不足への対応として、近年、業務の外部委託を進める企業が増えています。業務量の多寡や自社のマンパワーに応じ、外部の労働力を積極的に活用すること自体は、業務改善や雇用管理を考える上で有効な手段と言えます。ところが、雇用する労働者とフリーランスを混同し、同じように管理しようとする事例は後を絶たず、この点については問題視すべきでしょう。実態として、フリーランスに対して勤務時間や勤務場所を拘束する、指揮命令下に置く等の取扱いがある場合、「偽装請負」と判断される可能性があります。
これまで遅々として進まなかったフリーランス保護のための施策ですが、近年、法整備や体制強化が動き出しています。発注者側はフリーランスの性質を正しく理解し、あらゆる面で不当に拘束することのない様に配慮しましょう。
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