【実録・労基が来た!】初めての臨検でわたしが学んだ最も大事なこと

どんな方でも、突然労働基準監督署による立ち入り調査が行われれば、慌ててしまうと思います。もしもの時のために、「実際にどのようなことを指摘されるのか」「どのような対応をしなければならないのか」などを知りたい方も多いのではないでしょうか?

今回も、実際に労働基準監督署による立ち入り調査(=臨検)を経験した方にご寄稿いただきました。指摘内容、報告内容、実際にどのような対応をしたのかなどの「現場の生の声」をお届けします。

ある日突然、予告もなく「労基がきた!」

こんにちは。わたしは、食料品の小売・卸売りをしている中小企業で、総務・労務の担当をしています。ある日の朝、所轄の労働基準監督署の監督官が突如として、わたしの会社に現れました。「〇〇労基署ですが、総務・労務担当の方をお願いできますか?」

そう、労基署による立ち入り調査、通称「臨検」がやって来たのです。

さすがに、資料を提出したり、是正勧告を受けたりするまでには時間をもらえるだろうと思っていたのですが、現実はそんなに甘くはなく、その場で書類の提出を要請され、監督官による内容確認から是正勧告・指導まで一気に進みました。要した時間は約6時間。その体験をご紹介します。

書類提出・是正勧告、それと助言

(1)提出したもの

最初に、「ご用意いただく書類」と題されたA4用紙を1枚、手渡されます。

そこには、「作成していない場合は、ご用意いただかなくて構いません。また、この他の書類を追加でご用意いただくことがあります。ご不明な点は担当官にお尋ねください」という、優しいのか恐ろしいのかわからない文言とともに、以下のような書類の提出を求められました。

  1. 労働者数(パートアルバイト含む。男女別、雇用形態別)がわかる書類(メモ可)
  2. 企業全体の労働者数(メモでも構いません。)
  3. 組織図
  4. 労働条件通知書、労働契約書の控え
  5. 時間外労働休日労働に関する労使協定(36協定)等、現在締結している労使協定
  6. 就業規則
  7. 勤務予定表、配車表(最近6か月分)
  8. タイムカード、出勤簿、運転日報(最近6か月分)
  9. 賃金台帳(最近6か月分)
  10. 残業申請書等、残業の際に作成している書類
  11. 各労働者の時間外労働の実績が判る書類(各月及び6か月累計)
  12. 長時間労働を行った労働者の健康確保(医師の面接指導等)に係る書類
  13. 年次有給休暇管理簿(取得状況がわかる書類)
  14. 労働者名簿
  15. 健康診断個人票(定期、特殊健診とも。最近実施したもの)
  16. 有資格者(免許・技能講習・特別教育)一覧
  17. 特定自主検査(フォークリフト、プレス機械等)点検記録
  18. 定期自主検査(クレーン、局所排気装置等)点検記録
  19. 作業環境測定結果記録(最近2回分)
  20. 使用している化学物質(物質名、使用量)が分かる書類
  21. メンタルヘルス対策にかかる資料

  22. 常時使用する労働者が50人以上の場合は、以下の書類もご用意ください。

  23. (安全)衛生管理体制組織図
  24. (安全)衛生委員会規程
  25. (安全)衛生委員会議事録

そして、「このうち1~15で作成できているものをすぐに持ってくるように」とのこと。幸い、12の「長時間労働を行った労働者の健康確保(医師の面接指導等)に係る書類」以外は作成していたので、即提出しました。

(2)指摘されたこと

ところで、わたしの会社は、従業員はパート・アルバイトを含めて約75名。このうち45名が臨検の対象でした。

定額残業制をとっており、月30時間分の固定残業代は支給していましたが、それを超える分は支給していません。36協定は結んでいましたが、長時間労働が常態化していたため「特別条項付き」は難しく、通常の36協定で1か月の残業時間は45時間としていました。また、産業医はいませんでした。

やはりそうした点が問題となったようで、しばらく書類の内容を確認した後、監督官から渡された「是正勧告書」で次のような違反事項が指摘されました。

是正勧告書

法条項等 違反事項 是正期日
労基法第32条 時間外・休日労働に関する協定の範囲を超えて、時間外労働を行わせていること。 即時
労基法第条第1項、第4項 時間外・深夜・休日労働について、法令で定める率以上の率で計算した割増賃金を一部支払っていないこと(不足額については、過去6か月分支払うこと。)。
◎月◎日
*1か月後

安衛則第52の2第3項 時間外労働時間(1週間あたり40時間を超えて労働させた場合におけるその超えた時間)が1か月あたり80時間を超えた労働者に対し、通知していないこと。
◎月◎日
*1か月後

安衛法第66条第1項(安衛則第43条)(安衛則第44条) 常時使用する労働者を雇い入れるとき、雇入時の健康診断を実施していないこと。

常時使用する労働者に対し、1年以内ごとに1回、定期健康診断を実施していないこと。

◎月◎日
*2か月後

さらに、もうひとつ渡されたのが「指導票」です。ここには具体的な指導内容が書かれていました。

定額残業手当について
貴事業場においては、定額残業代制度が導入されていますが、適切に運用されていない実態が見受けられます。
つきましては、設定した時間(30時間)分を超えて時間外、深夜、休日労働を行わせた場合は、当該時間を超えた分について、法定以上の率で計算した割増賃金を支払うようにしてください。
上記措置を講ずることができないのであれば、定額残業代制度を廃止し、各労働者が実際に行った時間外・深夜・休日労働に対し、実際の時間数分の割増賃金を支払うようにして下さい。

過重労働による健康障害防止について
過重労働による健康障害を防止するため、貴事業場においては、☑(チェック)を付した事項について、改善等の措置を講じてください。
なお、改善等の状況については、〇月〇日(*1か月後)までに報告してください。

☑貴事業場においては、時間外・休日労働時間が1か月当たり80時間を超える労働者が2人、1か月当たり100時間を超える労働者が1人、(1か月当たりの時間外・休日労働時間が最も長い者の時間外・休日労働時間数 113.72時間)認められる。
時間外・休日労働時間を1か月当たり80時間以内とするための具体的方策を検討し、その結果、講ずることとした方策を〇月〇日(*1か月後)までに実施すること。
また、時間外・休日労働時間を1か月当たり45時間以内とするための具体的方策を併せて検討し、その結果、講ずることとした方策の着実な実施に努めること。

☑(常時50人未満の労働者を使用する事業場の場合)関係労働者の意見を聴くための機会等を利用し、長時間にわたる労働による労働者の健康障害の防止を図るための対策、及び、労働者の精神的健康の保持増進を図るための対策について、速やかに関係労働者の意見を聴取するようにすること。

(3)助言されたこと

以上のような是正勧告・指導にあたっては、監督官から、その内容の詳しい説明がありました。また、それを聞いて、会社の実態やそうならざるを得なかった背景などを正直に伝えたところ、是正報告に向けた具体的なアドバイスもしてくれました。それは次のようなものです。

  • 時間外・休日労働時間を即時に1か月当たり45時間以内にすることは現実的に無理な状況だと理解しているので、まずは法令違反をしないよう、特別条項付き36協定を締結し、届け出ること(臨検の翌月がちょうど36協定更新月だったので幸いしました)
  • その際に、1か月当たり法定残業時間を超えることのできる時間数は60時間としてほしいが、現実的に違反者が出ない時間としてまずは80時間としていいのではない
  • 医師の面接指導が実施されておらず、そのための要領を作る必要があるが、この文面を参考にして作るように(具体的な文案を提示してくれました)

こうした助言をもらえたことで、こちらも落ち着いて是正報告に向けた対応を進めることができたように思います。

改善報告

1か月後の正式報告の前に、未払賃金の計算過程を確認してもらうため、わたしは労基署を訪問しました。そこで、報告に向けての内容確認を行ったところ、計算過程も、その結果の金も正しいことが確認でき、ほっと一安心。

最終報告は以下のような内容です。

是正勧告書

法条文 是正完了日 是正状況
労基法第32条 〇月〇日 時間外労働等を減らすとともに、当月に更新を迎える36協定を業務実態に鑑み特別条項付き36協定を締結しました。

締結後最初の〇月分は時間外労働及び休日労働を合算した時間は協定の範囲内になりました。

労基法第37条 〇月〇日 割増賃金を支払っていない対象者全員に対し、未払賃金に遅延延滞金を加算した金額を過去6か月分、〇月〇日に支払いました。
安衛則第52の2 〇月〇日 〇月分(臨検月)及び〇月分(36協定更新月)は時間外労働時間が1か月あたり80時間を超えた労働者はおりませんでした。

今後、80時間を超えることがあれば、該当労働者宛に社内コミュニケーションツールにて通知し、後述の「面接指導要領」に則り労働者から「面接指導申出書」による申出があった場合に面接指導を実施します。

安衛法第66条 〇月〇日 今後、常時使用する労働者を雇い入れるとき、雇入時の健康診断を実施いたします。

常時使用する労働者に対する定期健康診断を全員〇月〇日までに実施しました。

 

「指導票」で指摘された事項についても、それぞれの是正状況を報告しました。

定額残業手当について
是正完了日:〇月〇日
是正状況:〇月分(臨検月)に30時間を超えて時間外労働等をした労働者に対して、法定率で計算した割増賃金を〇月〇日に支給しました。なお、今後も定額残業代制度は続けますが、設定した時間(30時間)を超えた時間外労働等の分は適正に支給いたします。
なお、事業継続に関わる業績悪化に伴い翌〇期より(臨検月の2か月後が決算月)固定残業時間を45時間に増加する計画でおります。ただし、これは来年度も今年度と同様に特別条項付き36協定を締結する前提で、締結できなければ固定残業時間を30時間に戻す考えでおります。

過重労働による健康障害防止のための措置状況
時間外・休日労働時間を1か月当たり80時間以内とするための具体的方策として、年次有給休暇の取得勧奨、他の労働者との業務量均衡を図るための業務移管をしてまいります。また、当該労働者は〇〇の業務を担当しており、外販だけでなく社内小売店への社内流通をしているのですが、外販で扱わず社内小売店でのみで取り扱う商品については小売店にて直接仕入れることに切り替え、〇〇の業務を社内小売店に移管することにより当該部門での業務量が相当量削減します。
以上の方策を徹底することで1か月当たり45時間以内とするよう努めますが、それでも困難ならば新規採用をすることで45時間以内にできるよう努めてまいります。

長時間にわたる労働による労働者の健康障害の防止を図るために、以下の対策を実施します。

  • 年次有給休暇の取得勧奨
  • 労働者間での業務量不均衡を是正するための業務移管
  • 他拠点への業務移管や他拠点との間での業務効率を図ることを検討
  • また、労働者の精神的健康の保持増進を図るために、以下の対策を実施します。

  • 雇入時及び1年以内ごとに1回の定期健康診断の受診対象者全員の実施
  • 時間外・休日労働時間が1か月当たり80時間を超えた労働者または2か月連続して1か月あたり60時間を超えた労働者につき、本人から面接指導の申出をするようできる限り勧奨します。
  • 長時間労働者に11時間の勤務間インターバルの設定。

こうして無事に臨検対応を終えたのでした。

臨検対応を終えて

いきなり臨検に入られたときは、一体どうなってしまうのかと不安と焦りでいっぱいでしたが、誠実に対応すれば、適宜アドバイスをくれるなど親身になってくれ、労基署も監督官の方々も決して怖い存在ではないことがわかりました。

未払賃金の支払いを勧告されると資金繰り的に大変な状況になることもありますが、その他の勧告・指導事項を含め、その対応について社内の経営幹部にも即時・適切に報告し、社内を巻き込んで前向きに改善していきました。

また、わからないことがあったときは、素直に監督官の指導を請うことがとても大切だと実感しました。言ってみれば、会社を労務環境を望ましい方向に進めるためのコンサルティングを受ける、というくらいの姿勢で臨むといいように思います。

わたしのそうした姿勢を見て、最後には「あなたがいるうちは大丈夫だと思うが、異動するなどしても改善事項が実施できているようにしてもらいたい」という言葉までかけてもらえたのです。努力が報われたようで、とてもうれしかったことを覚えています。

そんなわけで、わたしの臨検初体験は思ったほど悪いものではなかったのですが、それでも未払賃金の計算や残業時間の見直しといった膨大な業務が、突如として降りかかってくることは事実です。会社として違反のないように努めると同時に、運用しやすく管理もしやすい勤怠システムを導入しておくことを強くおすすめします。

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