社労士が教える年次有給休暇|「有給とは」という基本から法律、有給日数、時効、付与注意点まで解説

有給休暇消化率ワースト1位の日本。取得率は50%を超えていません。こうした状況を踏まえ、政府も労働基準法改正案の中で有休取得促進に向けた動きを強めています。ただ、年次有給休暇はまだ土曜日も出勤することが当たり前だった時代に、日曜日以外にも休みを取ることでリフレッシュし、その後の勤務をまた頑張りましょう、ということを目的に作られた制度です。取得率を上げることだけを目的にするのではなく、本来の意味での活用をしたいものです。
今回は、今さら聞けない「有給とは」という年次有給休暇の基本から「時間単位有給休暇」「有給休暇の計画付与」など応用編まで分かりやすく解説します!

そもそも休暇と休日の違いとは?

まず言葉の定義から整理しましょう。労働の義務がある日を「労働日」と言い、労働日について労働の義務を免除された日を「休暇」と言います。一方、労働の義務がない日を「休日」と呼びます。このため、労働の義務のない「休日」に「休暇」の取得はできません。

有給とは?法律条文から確認する年次有給休暇

労働基準法第39条を根拠としており、一定の勤続年数に達した者に対して一定の日数の休暇を会社が与えることを義務とした制度になります。具体的には、次のように規定されています。
(長いため、第2項以降は読み飛ばして頂いて構いません)

使用者は、その雇入れの日から起算して6か月継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した10労働日の有給休暇を与えなければならない。
2  使用者は、1年6か月以上継続勤務した労働者に対しては、雇入れの日から起算して6か月を超えて継続勤務する日(以下「6か月経過日」という。)から起算した継続勤務年数1年ごとに、前項の日数に、次の表の上欄に掲げる6か月経過日から起算した継続勤務年数の区分に応じ同表の下欄に掲げる労働日を加算した有給休暇を与えなければならない。ただし、継続勤務した期間を6か月経過日から1年ごとに区分した各期間(最後に1年未満の期間を生じたときは、当該期間)の初日の前日の属する期間において出勤した日数が前労働日の8割未満である者に対しては、当該初日以後の1年間においては有給休暇を与えることを要しない。
(中略)
7  使用者は、第1項から第3項までの規定による有給休暇の期間又は第4項の規定による有給休暇の時間については、就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより、それぞれ、平均賃金若しくは所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金又はこれらの額を基準として厚生労働省令で定めるところにより算定した額の賃金を支払わなければならない。(中略)
8  労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間及び育児j休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律第2条第1号に規定する育児休業は又は同条第2号に規定する介護休業をした期間並びに産前産後の女性が第65条の規定によって休業した期間は、第1項および第2項の規定の適用については、これを出勤したものとみなす。

結局、有給日数は誰に何日付与すればいいの?

条文そのままですと、結局、どういう人に何日付与しなければならないか分かりにくいですよね。まとめると、以下のような表になります。

また、勤務日数が週4日以下、年間労働日数が216日以下の場合は以下のようになります。

※所定労働日数が週で決まっている場合は「週所定労働日数」、それ以外の場合は「年間労働日数」で判断。

有給は誰でも付与されるわけではありません~出勤率~

年次有給休暇の付与要件には出勤率という考え方があります。具体的には、全労働日のうち出勤した日数が8割以上であることを要件としています。

算定期間というのは、たとえば、入社から6か月経過した人は入社日からの6か月間、それ以降の人については最初の6か月間経過後1年ごとの期間になります。入社日から付与日までの通算ではなく、途中でリセットされます。

出勤日数の算出で最も迷われるのは休日出勤かと思いますが、休日出勤日数は出勤日数には含めません。なぜなら、分母が「全労働日」、つまり、休日を除いた日数だからです。
 また、休日出勤のほかにも、実は、出勤率の計算にあたって注意しなければいけないものがいくつかあります。それは、(1)分母である「全労働日」から除く日数と、(2)分子である「出勤日数」に含める日数についてです。

(1)全労働日から除外される日数

  • 使用者の責に帰すべき事由によって休業した日
  • 正当なストライキその他の正当な争議行為により労務が全くなされなかった日
  • 休日労働させた日
  • 法定外の休日等で就業規則等で休日とされる日等であって労働させた日
  • (2)出勤したものと取り扱う日数

  • 業務上の負傷・疾病等により療養のため休業した日
  • 産前産後の女性が労働基準法第65条の規定により休業した日
  • 育児・介護休業法に基づき育児休業または介護休業した日
  • 年次有給休暇を取得した日
  • 有給はいつまで取得できるのか?~年次有給休暇の時効~

    第39条に取得期限の規定はありません。だからといって、いつまででも取得できるかというとそうではありません。労働基準法第115条に「時効」に関する規定があります。

    この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)、災害補償その他の請求権は2年間、この法律の規定による退職手当の請求権は5年間行わない場合においては、時効によって消滅する。

    つまり、「その他の請求権」の中に年次有給休暇を請求する権利が含まれており、このため有給休暇を取得できるのは2年間、ということになります。

    入社日は人によって異なる。面倒な有給管理から解放されるには

    年次有給休暇が付与されるタイミングは、条文のとおり雇入れ日(入社日)が基準となります。ただ、社員数が増えると、それぞれの入社日を把握し、ばらばらのタイミングで付与された有給休暇の残数を管理するのは大変なことです。このため、多くの企業で、「斉一的取り扱い(一斉付与)」を採用しています。

    年次有給休暇の斉一的取り扱い(一斉付与)とは

    年次有給休暇が付与されるタイミングを会社で統一する仕組みのことです。1月1日や4月1日、また、会社の決算時期に合わせて設定するところが多いです。また、正社員については一斉付与にし、アルバイト・パートは原則通り入社日を基準にして付与することも可能です。

    年次有給休暇の一斉付与の注意点

    便利な仕組みではありますが、運用に際してはいくつか注意点があります。

    出勤率

    一斉付与によって法定の付与日より前倒しになった期間については、すべて出勤したものとみなす必要があります。たとえば、4月1日一斉付与の会社に1月1日に入社すると、6月30日までの3ヵ月間についても出勤したものとみなします。このため、もし1~2月は出勤して3月に休職に入ってしまったような場合でも、出勤率は8割以上出勤したことになり、休暇を付与しなければいけません。

    公平性

    たとえば、10月1日一斉付与の場合、下記のような現象が起きます。
    4月1日入社 :  10月1日に10日、翌年10月1日に11日付与
    3月1日入社 :   9月1日に10日、翌月10月1日に11日付与
    入社日が1か月違うだけで10月1日に保持している日数にだいぶ差が出るのがお分かりいただけるかと思います。このため、付与日を年に2回(4月1日と10月1日など)設けたり、入社した時点で何日か付与したりといった対応を取っている会社もあります。

    1回目に付与された休暇の有効期間(消滅時期)

    4月1日一斉付与の会社で、かつ、入社時点で何日か付与する2017年1月1日に入社すると下記のように休暇が付与されていきます。このとき、2017年4月1日に付与された休暇はいつまで有効でしょうか。

    普通に考えて2018年12月31日ですね。それで正解です。では、なぜ注意が必要かというと、3回目の付与のときに1回目に付与した休暇の残数を消滅したことにしてしまう可能性があるからです。前年度からの繰り越し分と当年度に付与されたものの合算が残数、という思い込みがあると、この点を間違えます。上記の例の場合、まったく有給休暇を取得していなければ、2018年12月31日まで有給休暇は33日にあることになります。

    まとめ 〜年次有給休暇〜

    意外と奥が深い「年次有給休暇」ですが、ここまでいかがでしたでしょうか。基本的な事項ばかりですが、ちゃんと管理しようと思うと気をつけなければいけない点が結構ありますね。次回は、もう少し踏み込んだテーマについて解説いたします。

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