企業において見直し・廃止が進む「配偶者手当」|不利益変更回避への対応策とは?

2023年10月適用の「年収の壁・支援強化パッケージ」では、社会保険加入に伴う保険料負担軽減策の他、配偶者のいる女性労働者による就業調整の要因となっている「配偶者手当」の見直しを推進しています。今号では、厚生労働省より公開された「配偶者手当見直し検討のフローチャート」を元に、労働条件の不利益変更に配慮しながら既存の配偶者手当の見直しを進める流れを確認しましょう。

「配偶者手当」の見直しはなぜ必要か?

配偶者手当見直しの手順を確認する前に、まずはその必要性について理解しておきましょう。
地域別最低賃金額の全国加重平均は、2023年度、ついに1,000円超を達成しました。今後さらに、賃上げの流れを後押しするためには、すべての労働者が本人の希望に応じて働くことのできる環境作りが重要と言われています。これと同時に、昨今の生産年齢人口急減に鑑みれば、社会全体の労働力確保は急務とされています。
一方で、有配偶女性パートタイム労働者のうち21.8%は、税制、社会保障制度、配偶者の勤務先で支給される「配偶者手当」などを意識し、その年収を一定額以下に抑えるために就労時間を調整する「就業調整」を行っているというデータがあります。このような「就業調整」は、結果として女性の能力発揮、さらに企業における人的資源の活用の妨げとなることは明らかです。
こうした背景から、パートタイム労働で働く配偶者の就業調整につながる配偶者手当(配偶者の収入要件がある配偶者手当)については、配偶者の働き方に中立的な制度となるよう見直しを進めることが望まれています

「配偶者手当」の見直し 4ステップ

賃金制度の円滑な見直しに向け、厚生労働省は以下の4ステップでのフローチャートを公開しました。

出典:厚生労働省「配偶者手当見直し検討のフローチャート

① 検討に先立ち、まずは他社事例を確認

Step1では、自社案の検討に向けて他社事例を理解することからスタートします。配偶者手当の廃止や縮小については各社様々な対応がとられており、もちろん、検討の結果「存続」としたケースもあります。
労働契約法第9条によると、「使用者は、原則として、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者に不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することができない」とされていることから、変更による影響の程度、賃金原資総額の維持や必要な経過措置について十分に検討し、会社としての方針を定めます。

② ニーズの把握など従業員の納得性を高める取組

Step1の会社としての方針を定める作業と併せて、従業員の満足度調査、各部門等からのヒアリング結果、労働組合を通じた情報収集等によって従業員のニーズを把握する等、従業員の納得性を高める取組も不可欠です。制度設計段階から積極的に多くの従業員に関与してもらうことで、円滑な賃金制度の見直しが実現します。

③ 労働者に対する十分な配慮と丁寧な労使協議により、見直し案を決定

Step1及び2を通して、見直し案を絞り込んでいきます。見直しの具体的な内容は各企業の状況や方針、労使協議の結果等により様々ですが、賃金原資総額の維持や経過措置等に留意し、一方的な不利益変更とならないように配慮されているケースがほとんどです。もちろん、労使間のコミュニケーションを欠かすことはできず、多くの場合1~2年程度の期間をかけて丁寧に労使協議・交渉が行われ、労使合意の上、決定されています。

④ 決定後の新制度についての丁寧な説明

制度変更決定後の新制度について、従業員に対し丁寧な説明を行い、納得感を高めます。具体的な方法としては、従業員に対する説明会の実施が原則となりますが、小規模企業においては社長自ら全従業員へ説明することでも良いでしょう。また、説明会形式以外では、「イントラネットに制度概要を掲載し、さらに質疑応答は目安箱のようなものを設定し回答する」「制度変更に向けた社長メッセージを配信して浸透を図る」「従業員に対し周知資料の配付を行い、人事部以外にも職場ごとに質問を受け付ける担当者を決め、質疑を受ける」等の方法での対応が考えられます。

参考:厚生労働省「「配偶者手当」の在り方の検討に向けて(実務資料編令和5年1月改訂版)

既存制度の見直しは、社会保険労務士へご相談を

今号で解説したように、既存制度を変えていくことはともすれば不利益変更に該当するケースも多く、労使トラブルの火種となりかねません。とはいえ、「制度を変えるのは大変だから、今のままでいいや」というスタンスは、企業成長を阻む要因ともなるでしょう。
時代の流れに乗り、成長し続ける企業であるために、常に「今、必要なこと」「会社にとって適切な方法」に目を向け、会社を良くする取り組みに積極的に取り組んでまいりましょう。何かと複雑な実務対応は、労務管理の専門家である社会保険労務士にお任せください!

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