女性活躍促進を背景に、見直される「配偶者手当」|各社の動向や手当見直し時の留意点を解説

就業規則や賃金規程に規定する諸手当について、時代の流れに合わせて適宜その在り方を見直すことは、企業において必要な取り組みです。最近の風潮として、「配偶者手当」は、多くの企業において見直し対象とされる手当のひとつに挙げられています。今号では、「配偶者手当」を巡る企業の動向と、手当の改廃に取り組む上で留意すべきポイントについて解説しましょう。

「女性活躍」と「配偶者手当」の相容れない関係性

今後ますますの深刻化が予測される働き手不足の解消に取り組む上で、「潜在的労働力の活用」が重視されています。潜在的労働力とは、「就業者でも失業者でもない者のうち、仕事を探しているがすぐには働くことができない者、または働きたいが仕事を探していない者等、潜在的に就業可能な状態にある者」を指します。潜在的労働力を労働力へと変えていくためには、多様な人材にいかに活躍してもらうかが重要となりますが、とりわけ女性活躍の促進は、持続的な経済成長のためにも不可欠と考えられています。

女性パートタイマーの就業調整の要因の一つと考えられる「配偶者手当」

国が主体となって女性活躍推進へと舵を切り、女性が働きやすい社会が徐々に実現されつつある中、ひと昔前と比較すれば近年では格段に、働く女性が増えてきています。しかしながら、一方では、労働をセーブする女性労働者の存在は珍しくありません。特に、既婚女性のパートタイム労働者に就業調整の傾向が強く、「平成23年パートタイム労働者総合実態調査」によると有配偶女性のパートタイム労働者のうち21%が「就業調整をしている」と回答しているとのこと。その理由としては、「自分の所得税の非課税限度額(103万円)を超えると税金を支払わなければならないから(63.0%)」、「一定額(130万円)を超えると配偶者の健康保険、厚生年金等の被扶養者からはずれ、自分で加入しなければならなくなるから(49.3%)」、「一定額を超えると配偶者の会社の配偶者手当がもらえなくなるから(20.6%)」が挙げられています。

「配偶者手当」の見直しに関わる企業の動向

近年、税制では配偶者控除及び配偶者特別控除の見直し、社会保険では短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大が講じられ、従来の枠を超えて働く選択肢に目を向ける女性が増えてきています。こうした流れを受け、企業においては「配偶者手当」のあり方を見直す動きが出てきているようです。
「平成27年職種別民間給与実態調査」によれば、家族手当制度のある事業所は76.5%であり、うち配偶者に家族手当を支給する事業所は90.3%(全体の69.0%)であることが分かっています。さらに、配偶者手当の支給要件に「配偶者の収入が一定以下であること」を定めるケースは、配偶者手当支給企業全体の約85%に及びます。この点、昨今の女性就業率上昇等の社会実情の変化や、近年の税・社会保険分野での法改正の流れに伴い、「配偶者手当」が制度改廃の対象となってきているというわけです。
配偶者手当に関わる見直しの方向性は現場によって様々ですが、ざっくりと以下の通り分類されます。


配偶者手当見直しを行った各社の具体的な事例は、以下のよりご確認いただけます。

参考:厚生労働省「配偶者を対象とした手当に関する見直しが実施・検討された事例等

手当見直しに際して留意すべき点

配偶者手当等の諸手当の見直しに乗り出す企業においては、あらゆる事情に配慮した上で慎重に検討を進め、正しい手順で制度改廃を行っていくことが肝心です。賃金制度は、企業の一方的な方針によって決められるものではなく、必ず労使協議の上で決定されるべきものであることに前提に、以下の点に留意して見直しを進めましょう。

① ニーズの把握など従業員の納得性を高める取組
② 労使の丁寧な話合い・合意
③ 賃金原資総額の維持
④ 必要な経過措置
⑤ 決定後の新制度についての丁寧な説明

各項目の詳細については長くなりますのでここでは割愛しますが、以下の資料に説明がありますので、ご一読ください。
※16ページ目以降より、企業における手当見直しの実務について解説されています

参考:厚生労働省「女性の活躍促進に向けた配偶者手当の在り方に関する検討会 報告書

賃金制度設計に係る専門的なご相談は、社会保険労務士の他、地域の商工会議所、中小企業団体中央会、自治体の各経営相談窓口等にお寄せいただくことができます。「そういえば、手当など長らく見直していなかった」という企業は、折を見て、社会の実情や従業員ニーズに則した内容であるかを確認されることをお勧めいたします。

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