「社会保険加入に伴う手取り収入減少」軽減策となる、「年収の壁・支援強化パッケージ」。新たに打ち出されたこの施策の中には、一時的に収入が増加した場合の被扶養者認定の例外に関わる取扱いが盛り込まれています。繁忙期への対応等で比較的多くの企業での活用が予想されますので、改めて詳細を確認しておきましょう。
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「年収の壁・支援強化パッケージ」に盛り込まれた「事業主の証明による被扶養者認定の円滑化」
パート・アルバイト等の短時間労働者が、いわゆる「年収の壁」を意識することなく、希望する通りに働けるようになる仕組み作りのために打ち出された「年収の壁・支援強化パッケージ」の詳細については、すでに別記事にてご紹介した通りです。
いわゆる「年収の壁」には、従業員100人超企業における「106万の壁」と従業員100人以下企業における「130万の壁」があり、それぞれのケースで異なる対応策が打ち出されています。今号で解説する「事業主の証明による被扶養者認定の円滑化」は、「130万の壁」に対応するための施策です。
「106万の壁」「130万の壁」、それぞれの対応策
社会保険制度においては、会社員の配偶者等で一定の収入がない方について、被扶養者(20歳以上60歳未満の配偶者は、併せて国民年金第3号被保険者となります。)として認定され、保険料の負担が発生しません。このような被扶養者に該当する方の収入が増加した場合、勤務先の従業員規模に応じて、いずれかの形でご自身にて健康保険・年金制度に加入する必要が生じます。
① 厚生年金保険の被保険者数が常時101人以上の事業所
⇒ 年収106万円以上となった場合に、厚生年金保険・健康保険に加入
② 厚生年金保険の被保険者数が常時100人以下の事業所
⇒ 年収130万円以上となった場合に、国民年金・国民健康保険に加入
「年収の壁・支援強化パッケージ」では、まず①への対応として「キャリアアップ助成金 社会保険適用時処遇改善コース」及び「社会保険適用促進手当の標準報酬算定除外」等の施策が打ち出されました。そして、②への対応として打ち出されたのが「事業主の証明による被扶養者認定の円滑化」です。
「事業主の証明による被扶養者認定の円滑化」の概要
「事業主の証明による被扶養者認定の円滑化」では、パート・アルバイトで働く方が、繁忙期に労働時間を延ばす等により、収入が一時的に上がったとしても、事業主がその旨を証明することで、引き続き扶養に入り続けることが可能となる仕組みです。
原則的な被扶養者資格確認のルールでは、保険者である協会けんぽ又は健康保険組合は定期的に被扶養者の収入や勤務状況の確認を行い、被扶養者認定の適正化を図っています。この確認の際、事業主の証明による被扶養者認定が用いられることで、臨時的な事由により収入や労働時間が増加して被扶養者要件を外れることとなった場合にも、通常提出が求められる書類と併せて一時的な収入変動である旨の事業主の証明が提出されることで、保険者による円滑な被扶養者認定が図られることとなります。
「事業主の証明による被扶養者認定の円滑化」により、「年収の壁・支援強化パッケージ」の趣旨の通り、社会全体で労働力を確保するとともに、労働者自身も希望する通りに働ける環境作りの実現に寄与することが考えられます。
参考:厚生労働省リーフレット「パート・アルバイトで働く「130万円の壁」でお困りの皆さまへ」
実務上の対応には、Q&Aを確認
「事業主の証明による被扶養者認定の円滑化」への実務対応を検討する上では、Q&Aをご参照いただくことをお勧めします。以下、皆さんが気になるポイントを抜粋してご紹介しましょう。
・仮に上限を設けた場合、当該上限が新たな「年収の壁」となりかねないこと
・一時的な事情によるものかどうかは収入金額のみでは判断が困難であること
からお示しすることは困難ですが、各保険者において雇用契約書等も踏まえつつ、当該増収が一時的なものかどうか確認いただくこととなります。
年1回と異なる頻度で被扶養者の収入確認を行っている保険者においては、どの期間について一時的な収入変動に係る事業主の証明を取得する必要があるか、ご加入の健康保険組合等にご相談ください。
参考:厚生労働省「事業主の証明による被扶養者認定Q&A」
「年収の壁・支援強化パッケージ」の趣旨、各制度内容を正しく理解し、社会保険加入に伴う手取り収入減少への対応に取り組みつつ、労働力の確保を実現していけるのが理想です。新設制度を活用する上で、現場では何かと頭を悩ませることが多いと思います。ご不明点がおありになる場合やお困りの際には、些細なことでも社会保険労務士にご相談ください。