3月を迎え、ゆっくりとではありますが、徐々に春らしさが感じられるようになってきました。新年度を目前に、企業においては新入社員を迎える準備で忙しくされていることと思います。3月中、現場によっては「内定者を集めて研修を行う」というケースもあるようですが、入社前研修を実施する場合にはいくつか気を付けておくべき点があります。意図せず「労基法違反」とならないよう、適正な形での研修実施を心がけましょう。
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「入社前研修の実施」自体は違法ではないものの・・・
しばしば「入社前の研修実施は違法なのでは?」といったご相談を受けることがありますが、研修を行うこと自体に法的な問題があるわけではありません。重要となるのは、研修の目的や内容、さらに労災事故発生に備えたリスク管理です。
入社前研修の目的を明らかに
入社前研修は、文字通り、入社前の内定者に対して実施する研修です。会社によっては「内定者研修」等とも呼ばれています。企業側はつい忘れがちですが、この研修に集まるのは入社前の、まだ労働者ではない人たちです。そのため、新卒採用であればまだ学生であること、中途採用であれば前職に在職中の方もいることに留意し、実施目的を明らかにした上でなるべく短期に効率良く行う配慮が求められます。
入社前研修の目的は現場ごとに異なるはずですから、実施に先立ちまずはそこを明らかにしておく必要があります。入社後スムーズに実務に従事できるように実務に関わるスキルを学ぶ場とする会社もあるでしょうが、一方では「内定者の不安払しょく」「同期とのつながり作り」「内定辞退の防止」といった、実務とは関係のない目的であるケースも多々あります。
賃金支払いの要否は、入社前研修の目的・実態に応じて判断される
研修の目的を明らかにすることは、効率的な研修プログラム立案の観点からはもちろん、賃金支払対象とするかどうかを判断する上でも不可欠です。中には、入社前研修を無給とする企業も少なくありませんが、労基法上、違法となる可能性が高いため、注意が必要です。具体的には、以下に該当する研修には賃金支払いが必要となります。
✓ 会社側から受講が義務付けられている
✓ 一定時間、一定の場所に拘束される
✓ 受講しないことで入社後に不利益がある
「研修」か「労働時間」かの判断基準とは?
入社前研修の賃金支払の要否を検討する上では、就業時間外の教育訓練に関わる以下の行政解釈(昭和26年1月20日付け基収第2875号、平成11年3月31日基発第168号)に準じて検討するのが適切です。
「労働者が使用者の実施する教育に参加することについて、就業規則上の制裁等の不利益取扱による出席の強制がなく自由参加のものであれば、時間外労働にはならない。」
併せて、厚生労働省が公表する「労働時間の考え方」も確認しておきましょう。
関連:厚生労働省「労働時間の考え方:「研修・教育訓練」等の取扱い」
このあたりは、建前ではなく「実態」が重視されます。会社側が「自由参加」と謳っていても、研修の目的や内容、実態から参加が強制されていると判断できるのであれば、無給の入社前研修は違法です。また、「仕事をさせているわけではないから・・・」とは言っても、研修の場で業務開始にあたり必要かつ重要な情報が伝えられていれば、強制参加とみなされる可能性が高いでしょう。
忘れてはいけない!労災発生リスク
今号のテーマは「入社前研修における賃金支払義務」でしたが、企業側は併せて、「労災事故発生の可能性」についても考えておかなければなりません。労災適用の有無は「労働者性(労務の提供がされている、労務の提供の対価としての報酬が支払われている)」によって判断されますが、入社前の内定者に対する労災適用の有無に関しては、以下の観点からの個別のケースで見極める必要があります。
- 少なくとも最低賃金以上の賃金を支払っていること
- 研修内容が本来の業務と関係性が高いこと
- 使用者の指揮命令下に置かれていること
もちろん、研修を実施する企業側においては、座学中心にする等、「そもそも労災事故が起きない工夫」を講じることが大前提です。
このように、入社前研修の実施に際しては労基法上問題視される点があることから、しばしば労使トラブルの火種となります。企業のリスク管理の一環として、適正な研修実施の方法を検討しましょう。