労働実態の“マルサ”!? 働く職場の監視役、労基署による調査『臨検』とは

昨今、政府が推進している労働環境改善の指針として、働き方改革という言葉をよく耳にするようになりました。その背景には、ブラック企業による違法な長時間労働や残業代の未払いなどのケースが横行している現実があります。

そこで、企業が労働基準法や労働安全衛生法に則った経営がされているどうかを把握するために、厚生労働省の第一線機関である労働基準監督署(以下、労基署)は様々な調査や監査を定期的に実施しています。

企業にとって気になるこれらの調査、「臨検監督」(通称で「臨検」)と呼ばれる労基署の調査に焦点を当ててみました。

労基署の呼び出し“臨検”の実態について

労基署は労働基準法などに基づく諸手続きの窓口や労働に関するトラブルや相談の対応・監督指導などを執り行っています。
臨検は基本的に法令で実施の権限が与えられているため、要請を拒否することが原則的にできません。ただし、不意打ちで来た場合は労務担当者や責任者が不在で対応できないときもあるため、その際は丁寧な対応をしていれば日程の調整をすることもできるようです。

労働基準監督官が来るパターンには3種類あり、①臨検のお知らせが書面で来るパターン②臨検のお知らせが電話で来るパターン③抜き打ちで監督官が来社するパターンがあります。特に③のパターンは事前準備ができないため、普段から人事総務に関する管理を適切に管理しておく必要があります。

臨検の調査はどんなかたちで進むもの?

事業主が大変気になる労基署の臨検ですが、実際どんなことが行われるのか、何を用意していかなければならないのかは意外と知られていません。
もしもの呼び出しでも万全に対応ができるために、臨検がどのように進められるのか大まかな流れを説明していきましょう。

[1]臨検が行われる理由

労基署の臨検では、会社内部の在職者や外部(退職者など)からの告発ということもありますが、臨検の種類によっては、今まで来所の呼び出しをしたことがない会社の業種や規模によってランダムに選定されることもあります。特に、昨今の働き方改革の推進などで、時代の趨勢に応じた内容での来所要請がされるケースもあるようです。

臨検には大きく分けて、下記の4つの種類があります。

●定期監督
当該年度の労基署の監督計画に基づき、任意に調査対象を選択、企業の法令全般にわたってされる調査。

●災害時監督
一定の程度以上の労働災害が発生した際に、原因追及や再発防止の指導を行うための調査。

●申告監督
労働者からの企業への申告(いわゆる告発や控訴)があった場合に、その申し立て内容について確認を行う調査。申告者の開示は、申告した労働者を保護するために該当労働者から申告があった旨は開示せず、定期監督のように行うケースと開示して監督するケースと、申告者を明示して召喚状を取り呼び出す場合があります。

●再監督
監督後、是正勧告を受けたにもかかわらず、期日内までに是正報告書を提示しなかった場合、再度行われる調査。

[2]臨検で提出を求められる書類

労基署が調査に来る前や来所する前には、あらかじめ労基署から求められた書類を準備しなければいけません。調査予告の通知書などに、必要とされる書類や帳票などが箇条書きに記載されていますので、決められた期日までに漏れのないように用意しましょう。

調査の内容によって、準備すべき資料は異なりますが、ほとんどの臨検が概ね下記のような書類の提出を求められます。ここでは、昨今、問題提起されている36協定の改善を意識した『働き過ぎ防止に関する個別調査』で求められる書類について紹介していきましょう。

  • 来所する担当者の印鑑(認印で可)
  • 臨検に同封されている提出書類(例えば「労働条件自主点検票」など)
  • 就業規則(労働時間制度などの別規程を含んでいる会社の規定書)
  • タイムカードなど労働時間が確認できる書類
  • 変形労働時間制を採用している場合その関係書類(労使協定、勤務割表など)
  • 賃金台帳
  • 衛生委員会などの議事録など衛生委員会での調査審議状況が確認できる書類
  • 医師による面接指導の制度及び実施状況が確認できる書類
  • 健康診断個人票
  • 年次有給休暇管理簿

[3]臨検の場で聞かれる内容

臨検当日は労基署の監督官が1~2名で対応して、事業主もしくは労務担当者が質問に応じます。
臨検で聞かれる事項は調査の内容にもより異なりますが、ここでは具体的な例として、『働き過ぎ防止に関する個別調査』について聞かれる内容を述べてみましょう。

調査の流れはまず36協定のチェックから進み、会社の労働者の管理実態について事細かに聞かれ、賃金や残業代の未払いがないかなどの質問をされるのが通常です。

聞かれる具体的な内容としては、男女比・正規雇用もしくは非正規雇用であるか・外国人の比率や内訳、業種、労働組合の有無、有期雇用もしくは無期雇用、最低賃金の明記、就業規則の勤務時間や時間外割増賃金の給与明細記載など、提出された書類に基づき質問されます。

労働条件に関してはかなり詳細に聞かれるので、虚偽の回答や曖昧な態度は労基署に不信感を与えてしまうため、事業主はあらかじめ正しく答えができるように事前に再認識しておく必要があります。

出勤簿の記載に関しては、月額給与体系の正規雇用者でも出勤簿に捺印を押すだけの管理の仕方ではなく、「出勤時間」と「退社時間」の明確な記載を、そして賃金台帳にも残業時間などが分かる明記を求められます。理由としては、曖昧になりがちな残業時間を明確に記すことで不当な残業を防いだり、給与の未支払いがないか客観的に判断することが可能になるためでしょう。

また女性の社会進出により、ライフスタイルが変わっても働き続ける女性への支援意識も高まっています。労働安全衛生法に基づいて、産前産後の規定などをきちんと就業規則に盛り込むことも指摘されるので注意しましょう。

あと労働安全衛生法で定められているもう一つ大切なものが、年に一回の従業員の定期健診です。この定期健診は診断を受ける病院の診断だけでなく、法令では管轄の産業医の再見がきちんと義務付けられています。労務管理者は定期健診を行った後にこの産業医への処理をうっかり忘れがちになり易いところなので、ルーチン化して定期健診の業務として一貫して行っていきたいところです。

この様なさりげない臨検中のチェックで、時間外労働や最低賃金が労働基準法や労働安全衛生法に違反していないか、隅々まで聞かれることがあるので、会社の管理も日頃から、これらの基準を会社がきちんと満たしているかどうか再度見直しをしていく必要があるでしょう。

臨検は調査だけでは終わらない

労基署の臨検は、単なる調査だけで終わりということはありません。もし法令違反や改善箇所があれば、この臨検を踏まえて企業に是正をしてもらうというのが労基署の本来の目的です。

臨検後、もし法違反が確認されたら、違反事項として「是正勧告書」が交付されます。企業は指摘された是正事項を期日内までに是正勧告書を労基署へ提出することで、この臨検のすべての流れが完了します。

ちなみに、昨今の臨検の是正勧告の内容で一番多いものは、『労働時間』や『賃金の未払い』です。労働基準法に則って、労働時間は休憩時間を除く1週間に40時間、1日に8時間の労働をさせてはいけない、それを超過した場合は残業時間の支払いをしなければならないことになっています。

未払いなどの項目が発覚したときは、過去3か月分~2年間分(賃金債権の消滅事項は過去最長2年なので)までの賃金を全額支払いしなければならないという指導も受けたりしますので要注意です。

臨検が終わった後の流れ

企業も労基署からこの是正勧告書を受け取ったら、速やかに指定された期日までに社内の就業規則の整備や労務管理を改善しなければなりません。しかしながら、限られた人数や労働時間の中で行う改善は労務担当者も限界がありますので、監督官に是正期日の延長を説明し誠意をもって申し出できないことはないでしょう。あと顧問社労士などに相談し、労基署との適切な対応方法を仰ぐことも大切です。

是正勧告書の中で労務担当者が「労働基準法をあまりよく知らなかったため」などと不明瞭に終始したり、事業主側も逆に雇用側として申し立てしたい複雑な見解や言い分はあるかもしれませんが、逆に悪い印象を与えてしまいます。むやみに抵抗した態度を示しても、労基署より受けた支払いは帳消しになることはありませんし、労基署の公正な判断で臨検後、違反とみなされて指導を受けてしまったことはまぎれもない事実です。事業主は、素直に『今後は改善に努めます』と簡潔に記載し、決められた期日までに提出するほうが無難なので、真摯な態度で出された是正勧告書を受理しましょう。

是正勧告に従わないときはどうなる?

是正勧告はあくまでも行政処分ではなく行政指導なので、法令的な強制力はありません。つまり事業主が罪に問われることはありません。しかしながら、悪質のケースだった場合、労基署の監督官は「送検の権限」を最終的に持っているため、企業としてもネガティブなダメージをなるべく最小限にとどめるためにも、この是正勧告の段階で切実に従うほうが得策です。

犯人捜しはやめましょう

事業主にとって、この突然の労働基準局からの臨検や是正勧告を受けることは、決して喜ばしいことではありません。この臨検が、定期的なもの・従業員からの告発によるもののどちらであったにしても、インターネットの普及により、労働者も簡単に自分たちの働く場の法令の情報を入手できるような時代になりました。

しかしながら、この臨検が起こった時に、誰がこの“きっかけ”(告発など)をしたのかという不穏な動きを社内でおこすのもNGです。現場の士気を下げてしまうことにもなりかねません。

在籍者はもちろんのこと、退職者が在籍中に不満が生じたことで退職後トラブルを起こさないためにも、日頃から従業員との風通しの良いコミュニケーションを図り、職場の不平不満を解消しながら、法令に則った適切な労務改善や快適な職場環境を作っておかねばなりません。

まとめ

臨検が起こった事態をマイナスに捉えるのではなく、圧力の強い労基署からの臨検は苦手だからと消極的に構えるのでもなく、それよりも会社は一層の労務管理の重要性が求められる時代になったと改心しましょう。

企業や自営の雇用主はこのような突然の臨検の呼び出しに動揺しないためにも、社会保険労務士の専門の力を借りながら、日頃から就業規則に基づいた正しい労務管理の整備を心がけたいものです。

自分たちの大切な会社を公的な目で法整備してもらい、法違反のない労務管理ができる良いきっかけを与えられたいい機会とプラスに受け取り、臨検を積極的にとらえていきたいものです。

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