喫煙者にとって「仕事の合間の一服」は、気持ちを切り替えたり、その後の集中力を高めたりする上で重要な役割を果たす、日常生活になくてはならない行為と言えるでしょう。しかしながら、喫煙者のタバコ時間は、非喫煙者からしてみれば「仕事から離れているのに賃金控除されないなんてずるい」という声が上がることも多く、職場における不公平感のきっかけともなり得ます。
結局のところ、タバコ時間は休憩なのでしょうか?それとも労働時間に含めて差し支えないのでしょうか?判例を元に確認しましょう。
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タバコ時間の労働時間性は、実態により判断される
判例では、業務時間内の喫煙時間を労働時間として扱う例と、休憩時間として賃金控除の対象として差し支えないケースの両方があります。タバコ時間の労働時間性を判断する上では、場所的に、そして実態として「業務から離れていると判断できるかどうか」が重視されているようです。
そもそも「労働時間」とは?
タバコ時間が労働時間に該当するか否かを考える前に、まずは「労働時間」の定義についておさえておきましょう。労基法によると、労働時間とは「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」を指します。つまり、仕事に従事している時間だけでなく、いわゆる「手待ち時間(作業中ではないが、業務指示があればすぐに着手できる状態で待機している時間)」も含めて、幅広く労働時間と解釈され、賃金支払の対象とされます。
「手待ち時間」とはどういう状態なのか、いまいちピンとこない方もいらっしゃるかもしれませんので、具体例で考えてみましょう。例えば、飲食店のホールスタッフは、店内にお客様がいない時間帯も持ち場から離れず、いつでも接客できるよう待機しているので、仕事をしていなくても労働時間(手待ち時間)中と解釈されます。また、貨物の積み込み作業に従事する労働者が、貨物トラックの到着に合わせてその場で待機している例も同様です。
タバコ時間を労働時間とみなす場合
本題に戻りまして、タバコ時間を労働時間とみなすケースについて考えてみましょう。判例では、「店舗内で喫煙していたとしても、何かあればすぐに対応できる状態だったから、労働から完全に解放されているとは言えない」として労働時間性が肯定された事例があります。つまり、業務の合間に喫煙をしていたとしても、喫煙所が仕事場から離れておらず、必要があればすぐに仕事に戻れる状態であれば、そもそも使用者の指揮命令下から外れているとは言い難いという考え方です。{北大阪労働基準監督署長事件(大阪高判平21・8・25)}
タバコ時間を労働時間から除外できる場合
一方で、喫煙場所が仕事場から離れており、喫煙のために一旦外に出ると戻るまでに相当の時間(判例では10分前後)を要す事例では、喫煙場所までの往復及び喫煙時間について使用者の指揮命令下から離れたものとみなしています。この場合、タバコ時間は「休憩時間(労働者が休息のために労働から完全に解放されることを保障されている時間)」と判断されます。{泉レストラン事件(東京地判平26・8・26)}
労務管理として、タバコ時間にどう対応すべきか
このように、タバコ時間を労働時間とみなすか否かは実態によるところとなりますが、場所的、そして状況から見て、実務上は「労働時間に含めざるを得ない」とするケースが多いのではないかと思います。非喫煙者の皆さんから「それでは不公平」という声が上がるのはもっともですが、ちょっとした喫煙が認められないとなると、トイレの回数やコーヒー等の飲み物を準備する時間、職場での些細な雑談といったものにまで「厳密に労働時間と区別すべき」との指摘が出る可能性があります。このような刺々しい状況は、職場環境として好ましいものではないでしょう。
とはいえ、喫煙者が堂々と、一日に何度も、長時間、喫煙室にこもって良いということにはなりません。
喫煙者はモラルをもって
ここで大切なのは、喫煙者各人のモラルです。喫煙室に行く回数や一回当たりの時間について一律に制限することは難しいですが、周囲の人や状況に配慮しながら、最低限の範囲に留めるのが適切です。すでに喫煙者と非喫煙者間で対立がある場合には、まず喫煙者間で妥当だと思われるラインを見出し、その上で非喫煙者の方とも協議できると良いと思います。
併せて、「ニオイ」に関わるエチケットも忘れてはなりません。非喫煙者の中にはタバコの臭いが苦手で、あまりにひどいと気分が悪くなってしまう方もいらっしゃいます。ニオイ対策としては、喫煙室の出入り口に消臭スプレーを配置する等の対策を講じられると良いでしょう。
状況によっては指導対象に
喫煙の頻度があまりにも高い、一回あたりの時間が長い等、明らかにモラルに欠けている喫煙者に対しては、会社として「職務専念義務」「安全配慮義務」の観点から指導対象となり得ます。指導の際には、あらかじめ対象者が一日にどのくらいタバコ時間をとっているかを集計し、客観的データを元に話ができるのが理想です。
また、人によってはすでにニコチン依存症になっており、本人も無意識のうちに何度も喫煙してしまっているケースもあります。そのような場合には、産業医との面談を活用する等、医療につなげる工夫を講じていくことも肝心です。
業務時間中の度を超えた喫煙の背景には、本人の健康上の問題の他、職場や業務への不満、ストレスや疲労等、深刻な問題が潜んでいることもあります。指導の際には頭ごなしに叱責するのではなく、まずは本人の考えや身体の状況に十分配慮した上で、会社としての対処を検討できると良いと思います。