どうする?職場の身だしなみ規定|「ヒゲNG」は違法になり得る?

ひと昔前までは「社会人たるものヒゲは毎日剃っておくべし!」といった風潮がごく一般的のようでしたが、最近では、企業でヒゲを生やした従業員の方を見かけることがずいぶん多くなったなと感じています。とはいえ、職場によってはまだまだ「ヒゲ禁止」を掲げるケースも多く、ヒゲを生やしてくる従業員について「どうしたものか」とご相談を受けることは少なくありません。皆さんの職場では「ヒゲ問題」、起こっていませんか?

職場の「服務規律」としての制限の一方で、個人の「人格や自由」への配慮は不可欠

ファッションとしてのヒゲがずいぶん浸透してきたとはいえ、人によってはヒゲに対して「不潔」「だらしない」「怖い」等のイメージを抱く方も少なからずいらっしゃいます。会社としては、企業イメージを損なわないよう、対外的にマイナスとなり得る要因を除くべく、「ヒゲをNG」とするご方針は個人的に十分理解できます。ただしその一方で、髪型や服装等の身だしなみには個人の自由があり、ひいては人格にも関わる大切なものであることを忘れてはなりません。従業員の自由や人格については、会社がどこまでも制限なく立ち入ってよいというわけではないのです。

社内ルールとしての規定は認められる。ただし、「不利益取扱」「処分」にはご留意を

このように何かと悩ましいヒゲ問題ですが、会社の身だしなみルールとして、ヒゲを極力控えることとする規定を設けても、直ちに問題が生じることはありません。ただし、この規定を根拠にヒゲを完全に禁止できるかどうかは別の問題です。規定に反してヒゲを生やしてくる従業員に対し、人事上不利益に取り扱ったり、懲戒の対象としたりといった行為は行き過ぎであり、違法性ありと判断されることがあります。また、ヒゲを剃ることの強要はパワハラとも捉えられかねませんので、従業員対応に注意する必要があります。

ヒゲを禁止できるかどうかは「業務遂行上、支障をきたすかどうか」で判断

職場でヒゲを禁止できるかどうかは、業種や従事する業務によります。例えば、飲食店の従業員がヒゲを長く生やしていれば料理提供に支障をきたすことが予想されます。また、窓口業務の従業員が整えられていない不衛生なヒゲを生やしていれば、顧客に不快感を与えることになりかねません。このように、現場では、ヒゲが生えていることにより業務上の支障が想定されるか否か、実態に則した慎重な判断が求められます。
ただし判例では、単に「接客業だから」といって一律にヒゲを禁止し、不利益取扱や処分の対象とすることは違法としています(東京地裁昭和55年12月15日判決「イースタン・エアポートモータース事件」、大阪高裁令和元年9月6日判決「大阪市交通局事件」等)。この点に鑑みれば、会社が従業員に対してヒゲを禁止できるケースというのは、非常に限定的であると考えるのが妥当でしょう

ヒゲは単なるファッションではない!剃れない事情がある場合も

社内に身だしなみに関わるルールがあるにもかかわらず、ヒゲを生やして出社する従業員に対しては、「注意する」といった姿勢よりも、「配慮する」スタンスで接するのが得策です
もしかしたら、就業規則を読みこんでおらず、「ヒゲを控えるように」とのルールを把握していないだけかもしれません。この場合、会社が従業員に対し、入社時や就業規則改定時等のタイミングで社内規程に目を通させる、十分に内容を説明するようにすることで、意外にもあっさりとヒゲ問題が解消する可能性があります。

また、ヒゲを剃ることができない何らかの事情を抱えているかもしれないことにも配慮しましょう。願掛けの意味合いでヒゲを伸ばす方、肌が弱く頻繁にヒゲを剃ることで皮膚がボロボロになる方等、色々な状況の方がいらっしゃいます。その他、ヒゲがその人のトレードマークになっていて剃れないケースもあるかもしれません。会社として一方的に「ルール違反」のレッテルを張るのではなく、まずは個々の事情に耳を傾ける姿勢が大切なのではないでしょうか?
従業員に対して十分な配慮をした上で、会社としてなぜ従業員のヒゲを制限したいのかを丁寧に説明し、理解を得られるようにしてけるのが理想です。

 

以上、今号では職場のヒゲ問題に対する考え方と従業員対応について、ざっくりと解説しました。ここでご紹介した視点は、ヒゲだけでなく、髪色や服装等のあらゆる身だしなみにも共通します。折を見て、身だしなみ規定に厳し過ぎる内容が盛り込まれていないか、社内ルールを守らない従業員への対応は適正かを見直してみましょう。

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