「内定取り消し」は違法?内定取り消しが認められる事例と企業の対応

新規雇用に伴い、企業においてたびたび話題となる「内定取り消し」。もちろんあってはならないことですが、会社側としてはやむを得ない理由で内定を取り消さざるを得ないこともあるかもしれません。
会社側の一方的な内定取り消しは、法的トラブルの直接的な原因となることに注意する必要があります。今号では、企業における正当な内定取り消し事由と対処法を解説しましょう。

原則禁止の「内定取り消し」 正当に認められるための要件とは?

内定とは、「始期付解約権留保付労働契約」のことです。正式な労働契約のひとつですが、入社までの始期に一定の期間があること、その間に特別な事由が生じた場合に雇用者は内定者との雇用契約を解約する権利をもつことが、通常の労働契約とは異なります。
内定取り消しは、原則として行われるべきではありません。しかしながら、
・ 内定者に内定取り消し事由が生じたとき
・ 業績悪化等、企業側にやむを得ない事情が生じたとき
に、所定の手続きを経ることで内定取り消しが認められる場合があります。

【内定者側の「内定取り消し事由」とは?】

× 履歴書や面接等で嘘の申告をした
× 入社手続きを適正に行わなかった、不備があるにも関わらず是正しなかった
× 内定者の都合により勤務できなくなった
× SNSなどに不適切な投稿をした、事件等のトラブルを起こした

この他、新卒採用の場合には単位不足等で卒業できなかったときにも、内定取り消しの対象となります。内定者側の内定取り消し事由はいわば「自業自得」であることがほとんどです。しかしながら、一つ目に挙げた「履歴書や面接等で申告」については、そもそも企業側の質問内容が不当と判断され、内定取り消しが無効となる場合もあるため注意が必要です。

こんな質問、していない?採用選考時の不適切質問

採用選考面接では、応募者の緊張を和らげようとして、もしくは応募者についてより深く知ろうとして、ざっくばらんに様々な質問をしがちです。ところが、職業差別やプライバシーの観点から、差し控えるべき問いかけがいくつもある点に注意する必要があります。基本的には「適性や能力に関係がない事項」については不適切な質問と判断されることを覚えておきましょう。

・ 本籍
・ 住居とその環境
・ 家族構成や家族の職業・地位・収入
・ 資産
・ 思想・信条、宗教、尊敬する人物、支持政党
・ 交際や結婚

不適切質問の例は、下記よりご確認いただけます。面接の何気ない話の中で、つい口にしてしまいそうな質問が並びますが、くれぐれもご注意ください。

参考:大阪労働局「就職差別につながるおそれのある不適切な質問の例

また、あらかじめ応募者の健康状態を確認することもあろうかと思いますが、採用面接時に持病の有無を聞かれ、HIV感染の旨を申告しなかった内定者の内定取り消しの違法性が争われた裁判では、不告知の必要性と許容性が認められ、「内定取消しに客観的に合理的な理由は存在せず、社会通念上相当として是認できる余地はない」として会社側への損害賠償請求が認められました。併せて確認しておきましょう。

参考:裁判所「下級裁判判例_平成30(ワ)1352  損害賠償請求事件 令和元年9月17日 札幌地方裁判所

会社側に認められる内定取り消しとは?

会社側が内定取り消しをせざるを得ないケースとは、主に業績不振、経営悪化に伴う人員整理が想定されます。ただし、こうした場合にも会社は一方的に内定取り消しをすることはできず、必ず所定の手順にて検討を進める必要があります。その際にポイントとなるのが、「整理解雇の4要件」の観点です。

✓ 人員整理の必要性
✓ 解雇回避努力義務の履行
✓ 被解雇者選定の合理性
✓ 手続の妥当性

併せて、内定取り消し対象者の就職先確保に最大限の努力を行うこと、補償などの要求に誠意をもって対応することが必要です。加えて、新卒者の内定取り消しを検討すべき場合には予めハローワークに通知し、その後の指導に従い対応することになります。

参考:厚生労働省「新規学校卒業者の採用に関する指針

内定取り消し防止に向けて必要となる「採用戦略」

求職者は、企業から内定が出た時点で他社への応募やすでに得ていた他社の内定の辞退等、他の就職の機会を放棄することになります。よって、企業は、自社の一方的な都合による内定取り消しが生じない様、計画的に採用活動を行わなければなりません。
以下は、新卒採用計画の立案や募集の際に留意すべきポイントを、政府の指針から抜粋したものです。新卒採用だけでなく、中途採用にも共通して検討すべき点が網羅されているので、参考にしてみてください。

出典:厚生労働省「新規学卒者の採用をお考えの事業主のみなさまへ~新規学卒者の採用に関する指針~

内定取り消しがあれば、一方で内定辞退もあり得る

一方で、企業では内定者から入社辞退の連絡を受けるケースもあると思います。この点、「内定辞退に対して、ペナルティを科すことはできないのか」とご相談いただくこともありますが、結論から言えばできません。マイナビの調査によると、2018年9月~10月の調査時点において内定辞退率が3割以上あった企業が全体の「56%」とのことで、内定辞退率の高さが伺えます。

出典:株式会社マイナビ「2019年卒マイナビ企業新卒内定状況調査

現状、内定辞退率の高さにお悩みの企業であれば、「競合他社にどのような点で負けたのか」を積極的にリサーチし、自社の経営に活かしていくのが得策です。併せて、苦労して採用に至った内定者の心を掴んでおくためにも、企業側には内定者との継続的なコミュニケーションに努める姿勢が求められます。

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