派遣労働者に裁量労働制を適用できる?

労働者派遣を考える上で、しばしば話題に上がるのが「派遣労働者への裁量労働制の適用」です。労働時間と成果が必ずしも比例しない業種においては、実労働時間数ではなく、あらかじめ労使間で定めた時間数を働いたものとみなす裁量労働制の適用が認められていますが、これを派遣労働者に適用するかどうかは慎重に判断する必要があります。

裁量労働制とは?派遣労働者への適用は可能か

裁量労働制には、大きく分けて「企画業務型裁量労働制」と「専門業務型裁量労働制」の2種類があります。まずはそれぞれの制度の対象者を確認した上で、派遣労働者への適用の可否を検討しましょう。

「企画業務型」と「専門業務型」の違い

○ 企画業務型裁量労働制
事業運営上の重要な決定が行われる企業の本社などにおいて企画、立案、調査及び分析を行う労働者を対象とする

参考:厚生労働省「企画業務型裁量労働制

○ 専門業務型裁量労働制
業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務として厚生労働省令及び厚生労働大臣告示によって定められた業務の中から、対象となる業務を労使で定め、実際に従事する労働者を対象とする

参考:厚生労働省「専門業務型裁量労働制

派遣労働者に適用可能なのは「専門業務型裁量労働制」

上記のうち、派遣先へ派遣する労働者について適用できる可能性があるのは、専門業務型裁量労働制のみです。実務上、派遣労働者を専門業務型裁量労働制の適用を検討するケースは珍しくないでしょう。とりわけ、情報処理システムの分析・設計業務やデザイン考案業務に関しては、派遣労働者への裁量労働制導入に踏み切る例もあるようです。
一方で、企画業務型裁量労働制に関しては、派遣労働者への適用が明確に排除されています(厚生労働省「第8 労働基準法等の適用に関する特例等」参照)。もっとも、企業等の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析に従事する労働者への適用が想定されますが、こうした経営に係る重要業務を他社から受け入れた派遣社員に任せ得るかという点に鑑みても、まず趣旨に合っていないことは明らかでしょう。

参考:厚生労働省「第8 労働基準法等の適用に関する特例等

派遣労働者に専門業務型裁量労働制を適用するための手順と注意点

前述の通り、派遣労働者に対し、派遣先の勤務において専門業務型裁量労働制を適用することは可能となります。この場合、派遣元においてどのような手続きが必要となるかを確認しましょう。

派遣労働者に専門業務型裁量労働制を適用するための手続き

  1. 派遣元で労使協定(専門業務型裁量労働制に関わる協定届)を締結
    個別の労働契約や就業規則等を整備
  2. 所轄労働基準監督署に協定届(専門業務型裁量労働制に関わる協定届)を届出
  3. 適用対象となる労働者本人の同意を得る
  4. 派遣先と派遣元との労働者派遣契約において、裁量労働制を採用することを規定し、契約締結

派遣先における勤務で専門業務型裁量労働制の適用とする場合でも、制度導入自体は派遣元で行う必要があります。専門業務型裁量労働制の制度導入手続きについては、以下よりご確認いただけます。2024年4月1日より、「労働者本人の同意」が必要となりましたので、確実に対応しましょう。

参考:厚生労働省「裁量労働制の概要_専門業務型裁量労働制について
関連記事:『2024年度から変わる裁量労働制|専門業務型では新規・継続導入時の「本人同意」が追加

裁量労働制適用に際し、「労働者が従事する業務」「派遣先の指揮命令の有無」に注意

派遣労働者を専門業務型裁量労働制の適用とする場合、まずは「従事する業務が対象業務に該当しているか」の確認が必要です。専門業務型裁量労働制の対象業務は、2024年度時点で20業務に限定されていますが、判断が難しいものもあります。例えば、対象業務のひとつに「情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であってプログラムの設計の基本となるものをいう。)の分析又は設計の業務」がありますが、このうち「プログラムの設計又は作成を行うプログラマー」といった類似業務については明確に対象外とされています(https://www.mhlw.go.jp/general/seido/roudou/senmon/a2.html)。このあたりは労基署に相談の上、従事する業務の該当・非該当を確認しておく必要があるでしょう。
また、派遣労働者に対する労働時間管理や業務上の指示は、主に派遣先が行うものです。よって、裁量労働制において「対象となる業務遂行の手段や方法、時間配分等に関し労働者に具体的な指示をしないこと」が前提となる以上、派遣先がこれに対応できることを確認し、徹底しなければなりません。派遣元で専門業務型裁量労働制の適用を受ける一方、派遣先では指揮命令下にあり労働時間が管理されている場合には、当該派遣労働者は当然のことながら裁量労働制の対象外となります。

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