極めて感染力の強いオミクロン株の急拡大を背景に、「自転車通勤」への需要が高まっています。通勤時間帯の混雑した電車やバスでは感染リスクが特に懸念されますが、これと比較すれば人との接触が少ない自転車通勤はウイルス感染の抑制につながるものと考えられています。コロナ禍で、従業員側から自転車通勤についての相談が寄せられる企業も増えているのではないでしょうか?
自転車通勤のリスクを把握した上で、最適な制度策定を
自転車通勤には、コロナ感染防止策としての他、通勤費経費削減、従業員の健康増進、企業イメージの向上といったメリットが期待されますが、「事故リスク」やその際の「使用者責任」といった懸念事項もあります。
例えば、自転車通勤中に従業員が事故で負傷した場合、労災適用の可能性が生じることになります。自転車通勤の場合、通勤災害のリスクは公共交通機関利用時以上に高くなることが予想されますから、その分、企業側はリスクを抱えることになります。また、自転車通勤中の従業員が第三者にケガを負わせた場合、使用者責任を問われるといったことも否定できません。使用者責任が問われれば、第三者に加えた対人・対物の損害への損害賠償責任を事業者が負うことになります。
会社が制度として自転車通勤を導入する場合、こうした事故リスクや使用者責任への対策として、会社は安全管理の徹底、交通安全教育や自転車の安全点検の実施等を、制度の中で主体的に行っていく必要があります。
自転車通勤に関わる方針を決定すべし
依然として収束の兆しが見えないコロナ禍においては、新たに自転車通勤の導入に踏み切る企業が増えているものと思われます。会社側が自転車通勤を認めていない場合でも、従業員の自転車通勤を黙認している状態であれば、万が一の際、事業者としての責任・対応は避けられません。
まずは、会社として自転車通勤に関わる方針を明確にすること。禁止ならばその旨を示し、これに違反した場合の取り扱いを就業規則等に盛り込み、定期の実態調査を欠かさず行います。会社がしっかり方針を固め、行動することが肝心です。
自転車通勤を認める場合、自転車通勤規程を策定し、ルール化を
一方、正式に自転車通勤制度を導入する際には、事故リスクや使用者責任、手当等を始めとする諸問題を網羅できるようなルールを整備しておく必要があります。自転車活用推進官民連携協議会が公開する「自転車通勤導入に関する手引き」では、企業において自転車通勤制度導入時に検討すべき事項として以下の14項目を挙げています。
(1)対象者
(2)対象とする自転車
(3)目的外使用の承認
(4)通勤経路・距離
(5)公共交通機関との乗り継ぎ
(6)日によって異なる交通手段の利用
(7)自転車通勤手当
(8)安全教育・指導とルール・マナーの遵守
(9)事故時の対応
(10)自転車損害賠償責任保険等への加入
(11)ヘルメットの着用
(12)駐輪場の確保と利用の徹底
(13)更衣室・シャワー・ロッカールームなど
(14)申請・承認手続き
出典:自転車活用推進官民連携協議会「自転車通勤導入に関する手引き」
本手引きでは、各項目について明確にしておくべきポイント、自転車通勤許可申請書等の制度運用上整備しておくべき様式を確認することができます。自転車通勤を考える上では、しばしば「通勤手当」の取扱いが課題となりますが、この点に関しても駐輪場代や自転車損害賠償責任保険等の保険料、自転車のメンテナンス費、さらに雨天時の交通費等、従業員に生じる負担を踏まえた妥当性ある設定を検討する一助となります。また、どのような時に事業者責任が認められるかの事例や判断基準についても解説されているので、制度運用上、留意すべき点が明らかになります。
制度設計にお悩みであれば専門家に相談を
メリットもリスクも正しく踏まえた上で、自転車通勤制度の検討に目を向けましょう。制度設計にお悩みであれば、労務管理の専門家である社会保険労務士にご相談ください!