もうすぐ新年度!担当者がおさえておくべき、従業員の入社手続き

前号では、年度末に多く生じる従業員の退職に伴い、必要となる会社側の手続きを解説しました。引き続き、今号で解説するのは従業員を雇用する際に労務管理上行うべき諸手続きについて。新年度に従業員を迎える会社では、漏れなく対応ができるようにしましょう。ここでは、「4月1日入社」を例に解説します。

新年度の従業員入社に伴い、必要となる各種手続きの流れ

4月1日付の入社に伴い、会社が行うべき手続きについて、まずはざっくりと全体の流れを確認しておきましょう。

○ 3月中に行っておくべきこと
・労働条件通知書の交付
・入社手続きに必要な書類の回収
・入社に伴う備品等の準備
・研修や担当業務に関わる内容・スケジュールの決定

○ 入社日以降、すみやかに行うこと
・雇入れ時教育の実施
・雇入れ時健康診断の実施
・法定三帳簿の調製

○ 入社日から5日以内に行うこと
・「健康保険・厚生年金被保険者資格取得届」の提出
(「健康保険被保険者資格証明書」の提出)

○ 入社日が属する月の翌月から10日以内に行うこと
・「雇用保険被保険者資格取得届」の提出
・所得税、住民税関連の諸手続き

スムーズな雇入れには、「3月中の準備」が肝心!

従業員の入社にあたり、会社で行うべき準備や手続きは多岐に渡りますが、3月中にある程度の準備が可能です。例えば、入社に伴い会社が回収しておくべき書類を事前に提出してもらっておけば、それぞれの期日までにゆとりをもって対応できますね。いざ従業員が入ってくると、現場は何かとバタバタするもの。雇入日を基準にいつ、どのような手続きが必要かを踏まえたスケジュール管理を心がけましょう。

労働条件通知書とは?

労働条件通知書は、文字通り、従業員の労働条件を明示する通知書のことです。労基法第15条「労働条件の明示の義務」を根拠に、会社は従業員に対し、就労場所や従事する業務の種類、賃金、休日等の必要記載事項を提示する必要があります。労働条件通知書は、原則として使用者が一方的に通知するものなので、労働者側の署名や押印は必要ありません。この点、労働条件について労使の合意を確認する目的で、あえて「労働条件通知書兼雇用契約書」を発行し、労働者側の署名・押印を求めることもできます。

参考:厚生労働省「採用時に労働条件を明示しなければならないと聞きました。具体的には何を明示すればよいのでしょうか。

入社時に提出してもらう書類とは?

入社までに従業員から提出を受けるべき書類に関しては、各現場のマニュアルの他、就業規則にも記載されていることがほとんどです。具体的には、給与振込先届出書、給与所得者の扶養控除等(異動)申告書、各種手当支給届出書の回収に加え、マイナンバーの提示を受けておく必要があります。その他、会社によっては誓約書や身元保証書、資格免許証、卒業証明書、3ヵ月以内に発行された健康診断書等の提出を求めるケースもあります。さらに、前職がある方は雇用保険被保険者証や源泉徴収票も提出してもらいましょう。

盲点になりがちな、労働安全衛生法上の取り組むべきこと

4月を迎え、従業員が入社すると、すぐに業務に関わる研修が始まると思いますが、これに先立ち、労働安全衛生法上やるべきことにも対応する必要があります。具体的には、「雇入れ時教育の実施」「雇入れ時健康診断の実施」です。

「雇入れ時教育」は、業種や雇用区分の別を問わず、すべての労働者に対して行います

「雇入れ時教育」については、「危険が伴う建設業などの現場で行うもの」「正社員だけに実施すればよいもの」と誤解されているケースを散見します。しかしながら、法律上はどんな業種においても、すべての労働者に対して行わなければなりません。

関連記事:『実施していますか?「雇入れ時教育」|雇用形態を問わず、すべての労働者に対して実施しなければなりません

「雇入れ時健康診断」は、健康診断書の提出で対応することもできます

「雇入れ時健康診断」は、常時使用する労働者について、所定の項目について実施するものとされています。「常時使用する労働者」とは、具体的に以下の①②を満たす労働者を指します。

① 雇用期間の定めがない労働契約により雇用されている者、及び雇用期間の定めがあっても以下に該当する者
・ 雇用期間の定めがあるが契約期間が1年以上の者
・ 雇用期間の定めがあるが、契約の更新により1年以上(※1)使用される予定の者
・ 雇用期間の定めがあるが、契約の更新により1年以上(※2)引き続き使用されている者
※1、2 深夜業などの特定業務に常時従事する「特定業務従事者」は6カ月以上
② パートタイマーであっても、フルタイム勤務の労働者の1週間の所定労働時間の4分の3以上勤務する者

「雇入れ時健康診断」は、雇入れの直前又は直後に行うべきものとされていますが、法律で明確な実施期限が定められているものではありません。雇入れ後に実施する場合は、3ヵ月以内に行うケースが大半のようです。ただし、雇入れ前3ヵ月以内に受けた健康診断結果の提出を受けた場合、雇入れ時健康診断に相当する項目については実施を省略できるとされています。よって、入社時に健康診断結果の提出を求めるケースも多く見受けられます。

法定帳簿である「労働者名簿」「出勤簿」「賃金台帳」を調製しましょう

「労働者名簿」「出勤簿」「賃金台帳」は「法定三帳簿」といわれ、労基法上、事業場に必ず備えておくべき書類です。未整備の場合や法定の保存義務を果たしていない場合、30万円以下の罰金となる可能性があります。

関連記事:『ゼロから始める労務管理!労働関係書類の基本「労働者名簿」「出勤簿」「賃金台帳」を揃えよう

時間がかかりがちな、新年度の「健康保険・厚生年金被保険者資格取得届」

社会保険関連の手続きが集中する新年度、行政側は、諸手続きの処理に通常よりも時間を要するものです。入社に伴う手続きの多くは、会社で済ませてさえおけば、処理に時間がかかっても不都合が生じるものではありません。しかしながら、「健康保険・厚生年金被保険者資格取得届」については、完了しなければ健康保険証が交付されないため、従業員やその扶養家族の通院時に支障をきたすことがあります。この点、「健康保険被保険者資格証明書」の交付申請手続きをしておくこともできます。詳細は以下をご確認ください。

参考:協会けんぽ「従業員に健康保険被保険者資格証明書を交付するときの手続き

退職する従業員の諸手続きに引き続き、入社する従業員対応にも追われる新年度。前号と今号でご紹介した手続き・やるべきことの流れを参考に、漏れなく対応できるように準備しましょう。自社での対応が難しい現場では、社会保険労務士の活用をご検討ください!

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